396 / 415
『アルバイト探し(1)』
しおりを挟む
『アルバイト探し(1)』
どうにもオレのメールの仕方がまずかったらしい。
「そういう事か。良かった。正直、私は昨晩まったく眠れなかったぞ」
「すみません。誤解させるようなメールでした」
オレが頼った年長者こと冬原先生は、今朝のホームルームから非常にそわそわしていた。
メールは昨晩のうちに返信されていた。
『まず会って話をしよう』というタイトルで送られていたし、本文も詳しい事はまた明日とだけあった。
進路指導もやっている人だし、規則や条件があるなら直接説明してもらった方が早い。
オレはこの日華学園がアルバイトオーケーかどうかも知らなかったが、冬原先生の反応から禁止されていないようだと安心していた。それにアルバイト先も色々とアテがあるんだろうとのんきに構えていた。
そうして迎えた、今日の昼休み。
メールで屋上に呼び出され、ホイホイと向かったオレを待っていたのは、とても深刻な顔をした冬原先生だった。
開口一番「金がいるのか。いくらだ」と詰め寄られ、すぐに異世界あるある『オレ何かやっちゃいました?』状態だと悟ったオレは、自分と先生の間にある齟齬を埋めるべく、落ち着かせるようにして話を始めた。
先生いわく、姉活で金をとらないと言っていたオレが急にそんなことを言い出したので、何か理由があって急に金が必要になったと考えたらしい。
事故か、ケガか、それとも他のトラブルか、と落ち着かない中、さらに別の可能性にも思い当たったそうだ。
オレの気が変わって、大金を貰える相手に乗り換えるつもりではないか、と。
ゆえに遠回しに金の話を出したのでは? と考え、メールではなく直接、話をしようと思ったらしい。
普段は剛毅な性格なのに、不安になると悪い方に考える先生の性格がよく出ている。
どれも違いますよと、全てを否定してからオレは自分の考えを話し始めた。
単に友人と遠出をしたいので、宿代や足代として少しお金が欲しいと告げた。
「そ、そうか。そんなことか! よし、なら今日は放課後、ちょっと街の方に行って一緒にお茶でもしないか? 小遣いをやるぞ! なんなら前払いでもいい!」
どこかウキウキしたように財布を取り出す冬原先生。
「いえ。ですから、先生からお金を頂く気はないです。お財布はしまってください」
以前から言っているように、オレは金品を女の人からもらうつもりは無い。
財布を取り出した冬原先生に告げると、どこか悲しい顔になってしまった。
「……なんでそんなお顔をするんですか?」
金目的の姉活ではない関係の方が女性ウケは良さそうと思ったのだが、はて。
「宮城」
「はい」
オレがたずねかけると、先生は非常に申し訳なさそうな顔をした。
「私は今の自分の幸運というものを正確に把握している」
「はあ」
何か言い出した。
「お前のような、直視するのもはばかれるほどのイケメンで、しかもドエロな男子高校生とセレフ関係など今でも夢を見ている気がする」
「ボクも先生とそうなれて嬉し……」
オレも返礼のように言葉を返そうとしたが。
「待て。最後まで聞け」
「はい」
何やら迫力があった。オレは黙って言う事を聞く。
「私は自分が恵まれている事を理解している。だが女というものは、本当にどうしようもない生き物なのだ」
「と、おっしゃると?」
「欲というのは際限がない。それが男絡みであればなおさら」
「なるほど?」
とりあえず相槌をうっておく。
緊迫した雰囲気になっているが、この人は面白い事しか言わない。
今までの付き合いでオレも学んだ。不安なく耳をかたむける。
「お前にはたくさんの夢をかなえてもらった」
「ああ、はい。色々とエッチな夢ですね」
「うむ」
そこで誇らしそうに微笑む先生の情緒は理解できないが、話の先をうながす。
「だが私の夢はまだまだ尽きない」
「そうなんですね」
「そんな夢の一つに、若い子に貢いでみたい、というものがある」
どういう夢だ。
「いや。これはな? お前と出会う前の、今や色あせた思い出の欠片でもあるが……ううむ、どう説明したものか」
難しそうな顔になる冬原先生。
どんな説明がされるのかオレも興味深い。
「……年のいった女が、若い男の子とせめておしゃべりだけでもしようと願ったとする。当然、そこそこの金が必要だ。ライトな姉活、お茶活などとも言われるが、そんなお茶活デートなら、男子大学生や場合によってはDK(男子高生)をゲットできる事があるんだ。しかしその希少価値から、一時間のお茶代の相場はこれくらいだ」
指が三本立った。三千円、ではないよねぇ。
「高いですね」
「うむ。一緒にお茶をすする一時間の対価としては躊躇する金額だ。だが問題はそこじゃない。私の立場的にDKとのマッチング狙いなど怖くてできん。プロフ画面で顔の下半分を手で隠している男が、この学園の男子生徒という可能性だって捨てきれない」
「なるほど」
肉体関係のないライトな姉活であれば、未成年とも会あえる可能性がある。
けれど先生の場合、その可能性は破滅への可能性もあるわけだ。
「万が一にも教え子とマッチしてみろ。バレたら軽くて免職、重いと実刑だ」
確かにそこまでのリスクを負ってのお茶活は厳しそうだ。
「さすがにそれなら諦めた方がいいのでは?」
「私だってそれは理解していたし、諦めていた……のだがな?」
ふう、と一つため息をつく冬原先生。
多分、また面白い事を言い出すので、オレは黙って耳を傾けた。
どうにもオレのメールの仕方がまずかったらしい。
「そういう事か。良かった。正直、私は昨晩まったく眠れなかったぞ」
「すみません。誤解させるようなメールでした」
オレが頼った年長者こと冬原先生は、今朝のホームルームから非常にそわそわしていた。
メールは昨晩のうちに返信されていた。
『まず会って話をしよう』というタイトルで送られていたし、本文も詳しい事はまた明日とだけあった。
進路指導もやっている人だし、規則や条件があるなら直接説明してもらった方が早い。
オレはこの日華学園がアルバイトオーケーかどうかも知らなかったが、冬原先生の反応から禁止されていないようだと安心していた。それにアルバイト先も色々とアテがあるんだろうとのんきに構えていた。
そうして迎えた、今日の昼休み。
メールで屋上に呼び出され、ホイホイと向かったオレを待っていたのは、とても深刻な顔をした冬原先生だった。
開口一番「金がいるのか。いくらだ」と詰め寄られ、すぐに異世界あるある『オレ何かやっちゃいました?』状態だと悟ったオレは、自分と先生の間にある齟齬を埋めるべく、落ち着かせるようにして話を始めた。
先生いわく、姉活で金をとらないと言っていたオレが急にそんなことを言い出したので、何か理由があって急に金が必要になったと考えたらしい。
事故か、ケガか、それとも他のトラブルか、と落ち着かない中、さらに別の可能性にも思い当たったそうだ。
オレの気が変わって、大金を貰える相手に乗り換えるつもりではないか、と。
ゆえに遠回しに金の話を出したのでは? と考え、メールではなく直接、話をしようと思ったらしい。
普段は剛毅な性格なのに、不安になると悪い方に考える先生の性格がよく出ている。
どれも違いますよと、全てを否定してからオレは自分の考えを話し始めた。
単に友人と遠出をしたいので、宿代や足代として少しお金が欲しいと告げた。
「そ、そうか。そんなことか! よし、なら今日は放課後、ちょっと街の方に行って一緒にお茶でもしないか? 小遣いをやるぞ! なんなら前払いでもいい!」
どこかウキウキしたように財布を取り出す冬原先生。
「いえ。ですから、先生からお金を頂く気はないです。お財布はしまってください」
以前から言っているように、オレは金品を女の人からもらうつもりは無い。
財布を取り出した冬原先生に告げると、どこか悲しい顔になってしまった。
「……なんでそんなお顔をするんですか?」
金目的の姉活ではない関係の方が女性ウケは良さそうと思ったのだが、はて。
「宮城」
「はい」
オレがたずねかけると、先生は非常に申し訳なさそうな顔をした。
「私は今の自分の幸運というものを正確に把握している」
「はあ」
何か言い出した。
「お前のような、直視するのもはばかれるほどのイケメンで、しかもドエロな男子高校生とセレフ関係など今でも夢を見ている気がする」
「ボクも先生とそうなれて嬉し……」
オレも返礼のように言葉を返そうとしたが。
「待て。最後まで聞け」
「はい」
何やら迫力があった。オレは黙って言う事を聞く。
「私は自分が恵まれている事を理解している。だが女というものは、本当にどうしようもない生き物なのだ」
「と、おっしゃると?」
「欲というのは際限がない。それが男絡みであればなおさら」
「なるほど?」
とりあえず相槌をうっておく。
緊迫した雰囲気になっているが、この人は面白い事しか言わない。
今までの付き合いでオレも学んだ。不安なく耳をかたむける。
「お前にはたくさんの夢をかなえてもらった」
「ああ、はい。色々とエッチな夢ですね」
「うむ」
そこで誇らしそうに微笑む先生の情緒は理解できないが、話の先をうながす。
「だが私の夢はまだまだ尽きない」
「そうなんですね」
「そんな夢の一つに、若い子に貢いでみたい、というものがある」
どういう夢だ。
「いや。これはな? お前と出会う前の、今や色あせた思い出の欠片でもあるが……ううむ、どう説明したものか」
難しそうな顔になる冬原先生。
どんな説明がされるのかオレも興味深い。
「……年のいった女が、若い男の子とせめておしゃべりだけでもしようと願ったとする。当然、そこそこの金が必要だ。ライトな姉活、お茶活などとも言われるが、そんなお茶活デートなら、男子大学生や場合によってはDK(男子高生)をゲットできる事があるんだ。しかしその希少価値から、一時間のお茶代の相場はこれくらいだ」
指が三本立った。三千円、ではないよねぇ。
「高いですね」
「うむ。一緒にお茶をすする一時間の対価としては躊躇する金額だ。だが問題はそこじゃない。私の立場的にDKとのマッチング狙いなど怖くてできん。プロフ画面で顔の下半分を手で隠している男が、この学園の男子生徒という可能性だって捨てきれない」
「なるほど」
肉体関係のないライトな姉活であれば、未成年とも会あえる可能性がある。
けれど先生の場合、その可能性は破滅への可能性もあるわけだ。
「万が一にも教え子とマッチしてみろ。バレたら軽くて免職、重いと実刑だ」
確かにそこまでのリスクを負ってのお茶活は厳しそうだ。
「さすがにそれなら諦めた方がいいのでは?」
「私だってそれは理解していたし、諦めていた……のだがな?」
ふう、と一つため息をつく冬原先生。
多分、また面白い事を言い出すので、オレは黙って耳を傾けた。
54
お気に入りに追加
893
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にいますが会社員してます
neru
ファンタジー
30を過ぎた松田 茂人(まつだ しげひと )は男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にひょんなことから転移してしまう。
松本は新しい世界で会社員となり働くこととなる。
ちなみに、新しい世界の女性は全員高身長、美形だ。
PS.2月27日から4月まで投稿頻度が減ることを許して下さい。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜
水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。
その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。
危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。
彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。
初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。
そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。
警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。
これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
転生したら男女逆転世界
美鈴
ファンタジー
階段から落ちたら見知らぬ場所にいた僕。名前は覚えてるけど名字は分からない。年齢は多分15歳だと思うけど…。えっ…男性警護官!?って、何?男性が少ないって!?男性が襲われる危険がある!?そんな事言われても…。えっ…君が助けてくれるの?じゃあお願いします!って感じで始まっていく物語…。
※カクヨム様にも掲載しております


転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる