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『薫の日常(2)』
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『薫の日常(2)』
仕事帰りらしく、スーツが少し乱れている。
とくに胸元はブラウスのボタンを開けており、上乳の谷間がのぞいていた。
「おい、カオル! お前、ついに男に手ぇ出したのか!」
たまたま目についた若いカップルにからむ、ガラの悪いお姉さんではなく、薫ちゃんを名指しである。
ちなみに薫ちゃんにご指名が入ったのは、これですでに三人目だ。
時間はまだ八時ぐらいだろうに、なかなかのグテングデン具合だ。
「あ、毎度ッス。今日はもう出来上がってんスね」
オレの背中で軽く頭を下げる薫ちゃん。
「うるせー。カオルがいないから、愚痴言う相手もいなくてつまんなかったんだよ」
「あ、はい、サーセン」
この人”も”常連さんのようだ。
「で。カオルをおぶってるイケメン君。キミは何者? なんでそんなコトしてあげてんの? 天使か何か? もしかして背中に羽根とか生えてる?」
「カオルちゃんの友達ですよ。イッコ上ですけど」
「なるほど。つまりカオルに脅されて、おんぶしてあげている、と」
「いえ、そんなこと一言も言ってませんが」
さすが酔っ払い、話が通じない。
とはいえ、おんぶしてる理由くらいはでっちあげておかないと、後日、薫ちゃんがお店で絡まれそうでもある。
「この子、足をくじいてしまって、歩けないんですよ」
とっさに出たウソにしてはなかなかだ。酔っ払いなら納得するだろう。
ちなみにこのウソでさっき絡んできた酔っ払いの二人も納得していた。
「そっかー、そーなんだー。おねーさんも足くじいたらおぶってくれるー?」
「機会がありましたら。けど順番待ちがあるんで、三番目になりますけど」
皆、言う事が同じだ。
「約束だよー! やったー、若い男とデートの約束だー!」
と言って去っていった。
まぁ美人だったし、機会があれば、あのおっぱいも背中に感じてみたい。
「あの。すんません、京センパイ。ウチの客、あんなんばっかなんで」
「まあまあ。ボクは別に構わないよ。けど、カオルちゃん。未成年がお酒を出すところにいていいの? 法律とかそういうカンジの」
いくら自営の手伝いと言えど、いささか問題があるのではなかろうか?
「あー。ウチ、あくまで店内の清掃員ってポジションなんスよ。酒類の給仕や提供はせず、テーブルの後片付がメインなんで」
どこかで聞いたような話だ。この界隈の暗黙の了解なんだろうか。
まぁ、それで問題ないなら、他人のオレが口を出すことでもない。
「そっか。カオルちゃん、お店のお手伝いがんばってるんだね。親孝行する子、ボクは好きだよ?」
「あ、え、そ、そんな、たいこと……あ! あそこッス、ウチの店」
オレに褒められ、しどろもどろになった薫ちゃん。
指さす先には、居酒屋というより大衆食堂といった店構えの、周囲と比べてもやや大きめの店があった。
店の扉は開けっ放しになっており、中からいい匂いと陽気な声が聞こえてくる。
「あんまり居酒屋っぽくはないね?」
「あ、昼は飯屋なんスよ。夜から酒も出すっていうか、酒メインになるんス。だからツマミとかも量があって安くて美味いってんで、まぁ、繁盛させてもらってるんス」
なるほど。
そんな薫ちゃんのお店の明かりに照らされた前の路地で、しゃがみこんでいる影があった。
小学生低学年ぐらいの女の子が、ややサイズのあっていない大き目のワンピースのすそを地につけて、アスファルトにチョークで絵を描いている。
近づくオレたちに気付いたのか、おさげ髪を揺らして顔を上げた。
ちょっと垂れ目気味の、人懐っこそうな顔。
「あ」
女の子はオレたちを見て。
いや、オレを見て固まった後、背中の薫ちゃんを見て。
「か……かっ、かーちゃん! ねーちゃんが男連れて来たぁ!」
ダッシュで店の中へと駆け込んでいった。
「ちょ、おい、ミヤ!」
あの子はミヤちゃんと言うらしい。
妹ちゃんか。少し年は離れているけど、確かによく似ていた。
薫ちゃんの小学生の頃も、あんな感じだったんだろうか。
ミヤちゃんが店の中に入った後、店内が一気に騒がしくなった。
そして、店の中からドタドタと足音が聞こえたと思ったら。
「ねーちゃん、男、だましたってホント!? ウチにも触らせて!」
「ねーちゃん、早く手伝い変わってよぉ! ウチ、ゲームしたい!」
中学生くらいの女の子と、小学校高学年ぐらいの女の子が飛び出してきた。
四人姉妹とは、ずいぶんと賑やかだ。
三人の妹ちゃん達は、皆、薫ちゃんと顔も性格もそっくりのようだ。
髪の色はさすがに黒いけども。
「お前ら、うるせぇ! 送ってもらったんだよ! ヒカリ、バカ言ってんじゃねぇ、寄るな! あとマコ、お前はゲームばっかやってるから、かーちゃんに怒られて罰で手伝いやってんだろ!」
お姉ちゃんしている薫ちゃんが可愛い。
上の子のヒカリちゃんが、薫ちゃんの言葉をスルーして寄って来た。
「うわ、近くで見るとすっごいイケメン! ねぇねぇ、お兄ちゃん、痛くしないから、ちょっと触らして!」
言葉の勢いはすごいが、近づいても触れてこないあたり、この世界の男女の常識を持ち合わせているらしい。
つまり、男に対してうかつな事をすると犯罪者になってしまう、という厳しいこの世界の掟だ。
「ヒカリ、お前、マジで触わるなよ!?」
「ねーちゃんだけズルいじゃん!」
姉妹ゲンカが始まってしまった。
オレの為に争わないで、と言うシーンだろうか。
オレの背中から乗り出して怒る薫ちゃんをなだめつつ、オレを見上げているヒカリちゃんに問いかける。
「初めまして。ボクはお姉ちゃんのお友達の宮城京です。ヒカリちゃん、って呼んでもいいのかな?」
「あ、え、あっ、はいっ! はじめまして、ヒカリです! 名前の漢字は光明の光です! 14歳の中二です! 彼氏はいません! ねーちゃんやめてウチにしませんか!? 好きな食べ物はなんですか? 子供は何人欲しいですか!?」
情報が一気に増えた。
見た目は薫ちゃんをさらにちっちゃくした感じだ。
ご覧の通り、なかなか積極的らしく、とても明るい妹ちゃんだのようだ。
仕事帰りらしく、スーツが少し乱れている。
とくに胸元はブラウスのボタンを開けており、上乳の谷間がのぞいていた。
「おい、カオル! お前、ついに男に手ぇ出したのか!」
たまたま目についた若いカップルにからむ、ガラの悪いお姉さんではなく、薫ちゃんを名指しである。
ちなみに薫ちゃんにご指名が入ったのは、これですでに三人目だ。
時間はまだ八時ぐらいだろうに、なかなかのグテングデン具合だ。
「あ、毎度ッス。今日はもう出来上がってんスね」
オレの背中で軽く頭を下げる薫ちゃん。
「うるせー。カオルがいないから、愚痴言う相手もいなくてつまんなかったんだよ」
「あ、はい、サーセン」
この人”も”常連さんのようだ。
「で。カオルをおぶってるイケメン君。キミは何者? なんでそんなコトしてあげてんの? 天使か何か? もしかして背中に羽根とか生えてる?」
「カオルちゃんの友達ですよ。イッコ上ですけど」
「なるほど。つまりカオルに脅されて、おんぶしてあげている、と」
「いえ、そんなこと一言も言ってませんが」
さすが酔っ払い、話が通じない。
とはいえ、おんぶしてる理由くらいはでっちあげておかないと、後日、薫ちゃんがお店で絡まれそうでもある。
「この子、足をくじいてしまって、歩けないんですよ」
とっさに出たウソにしてはなかなかだ。酔っ払いなら納得するだろう。
ちなみにこのウソでさっき絡んできた酔っ払いの二人も納得していた。
「そっかー、そーなんだー。おねーさんも足くじいたらおぶってくれるー?」
「機会がありましたら。けど順番待ちがあるんで、三番目になりますけど」
皆、言う事が同じだ。
「約束だよー! やったー、若い男とデートの約束だー!」
と言って去っていった。
まぁ美人だったし、機会があれば、あのおっぱいも背中に感じてみたい。
「あの。すんません、京センパイ。ウチの客、あんなんばっかなんで」
「まあまあ。ボクは別に構わないよ。けど、カオルちゃん。未成年がお酒を出すところにいていいの? 法律とかそういうカンジの」
いくら自営の手伝いと言えど、いささか問題があるのではなかろうか?
「あー。ウチ、あくまで店内の清掃員ってポジションなんスよ。酒類の給仕や提供はせず、テーブルの後片付がメインなんで」
どこかで聞いたような話だ。この界隈の暗黙の了解なんだろうか。
まぁ、それで問題ないなら、他人のオレが口を出すことでもない。
「そっか。カオルちゃん、お店のお手伝いがんばってるんだね。親孝行する子、ボクは好きだよ?」
「あ、え、そ、そんな、たいこと……あ! あそこッス、ウチの店」
オレに褒められ、しどろもどろになった薫ちゃん。
指さす先には、居酒屋というより大衆食堂といった店構えの、周囲と比べてもやや大きめの店があった。
店の扉は開けっ放しになっており、中からいい匂いと陽気な声が聞こえてくる。
「あんまり居酒屋っぽくはないね?」
「あ、昼は飯屋なんスよ。夜から酒も出すっていうか、酒メインになるんス。だからツマミとかも量があって安くて美味いってんで、まぁ、繁盛させてもらってるんス」
なるほど。
そんな薫ちゃんのお店の明かりに照らされた前の路地で、しゃがみこんでいる影があった。
小学生低学年ぐらいの女の子が、ややサイズのあっていない大き目のワンピースのすそを地につけて、アスファルトにチョークで絵を描いている。
近づくオレたちに気付いたのか、おさげ髪を揺らして顔を上げた。
ちょっと垂れ目気味の、人懐っこそうな顔。
「あ」
女の子はオレたちを見て。
いや、オレを見て固まった後、背中の薫ちゃんを見て。
「か……かっ、かーちゃん! ねーちゃんが男連れて来たぁ!」
ダッシュで店の中へと駆け込んでいった。
「ちょ、おい、ミヤ!」
あの子はミヤちゃんと言うらしい。
妹ちゃんか。少し年は離れているけど、確かによく似ていた。
薫ちゃんの小学生の頃も、あんな感じだったんだろうか。
ミヤちゃんが店の中に入った後、店内が一気に騒がしくなった。
そして、店の中からドタドタと足音が聞こえたと思ったら。
「ねーちゃん、男、だましたってホント!? ウチにも触らせて!」
「ねーちゃん、早く手伝い変わってよぉ! ウチ、ゲームしたい!」
中学生くらいの女の子と、小学校高学年ぐらいの女の子が飛び出してきた。
四人姉妹とは、ずいぶんと賑やかだ。
三人の妹ちゃん達は、皆、薫ちゃんと顔も性格もそっくりのようだ。
髪の色はさすがに黒いけども。
「お前ら、うるせぇ! 送ってもらったんだよ! ヒカリ、バカ言ってんじゃねぇ、寄るな! あとマコ、お前はゲームばっかやってるから、かーちゃんに怒られて罰で手伝いやってんだろ!」
お姉ちゃんしている薫ちゃんが可愛い。
上の子のヒカリちゃんが、薫ちゃんの言葉をスルーして寄って来た。
「うわ、近くで見るとすっごいイケメン! ねぇねぇ、お兄ちゃん、痛くしないから、ちょっと触らして!」
言葉の勢いはすごいが、近づいても触れてこないあたり、この世界の男女の常識を持ち合わせているらしい。
つまり、男に対してうかつな事をすると犯罪者になってしまう、という厳しいこの世界の掟だ。
「ヒカリ、お前、マジで触わるなよ!?」
「ねーちゃんだけズルいじゃん!」
姉妹ゲンカが始まってしまった。
オレの為に争わないで、と言うシーンだろうか。
オレの背中から乗り出して怒る薫ちゃんをなだめつつ、オレを見上げているヒカリちゃんに問いかける。
「初めまして。ボクはお姉ちゃんのお友達の宮城京です。ヒカリちゃん、って呼んでもいいのかな?」
「あ、え、あっ、はいっ! はじめまして、ヒカリです! 名前の漢字は光明の光です! 14歳の中二です! 彼氏はいません! ねーちゃんやめてウチにしませんか!? 好きな食べ物はなんですか? 子供は何人欲しいですか!?」
情報が一気に増えた。
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