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『小さな訪問者』
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『小さな訪問者』
次の日。
オレの在籍する二年一組、始まったばかりの昼休みにちょっとした事件が起こった。
「ッス、失礼します! 宮城京センパイはいらっしゃいますか!」
開けられたままの教室の前のドアに現れた銀髪の一年生。
「あのバカ」
隣で半分寝ぼけていた夏木さんの目が薫ちゃんを見てカッと見開いた。
夏木さん以外、クライメート全員の視線が薫ちゃんに向かったあと、そのまま全てオレに向けられた。
お弁当の途中でハシが宙を掴んでいる子。
かぶりついた焼きそばパンごとこちらを向いている子。
学食か購買に行こうとイスから立ち上がっていた子。
みんなそれぞれがなんとも言えない顔でオレを見ている。
この世界に来て他人の視線というのは慣れたつもりだが、こういう奇異な感情を向けられるとちょっとたじろぐ。
だが堂々としていれば、逆に何でもない出来事だと納得されるものだ。
オレがクラスメートたちの視線に対して、どうかした? と平然な顔で微笑み返すと、皆、それぞれのお弁当にハシや視線を戻した。
そして、隣で今にも立ち上がって薫ちゃんを連れ去りそうなオーラを出す夏木さんへ耳打ちする。
「夏木さんまでついてくると目立っちゃうからここにいて」
「……悪いな。バカが迷惑かけた」
オレはドアの付近で直立している薫ちゃんの所まで行くと、どうしたの? と声をかける。
「あ、すいません、突然。ええとですね! 実は」
「その前に場所、変えようか?」
そういった薫ちゃんを連れてオレは、人気のない場所イコールいつもの場所である校舎裏へと向かった。
***
開幕、それは薫ちゃんの土下座から始まった。
「薫ちゃん?」
「一生のお願いッス!」
「いきなりすぎて色々とアレなんだけど、とりあえず事情を聞かせてもらえる?」
昨日からかいすぎた結果、欲求不満がゲージ破壊されて、京センパイ、ウチを今すぐペットにしてください! とでも言うならオレは両手を広げて、よーしよしとアゴの下を撫でまわすぐらいにウエルカムだが、どうにもそういう雰囲気ではなそさそうだ。
申し訳なさそうにしつつも、譲れないものがあるとでもいわんばかりの真剣な表情。
いったいどんな事情があるのか。
またしてもこの男女比特有の何やらシリアスな展開になるのではと、オレは戦々恐々としつつ薫ちゃんの話に耳をかたむける。
――五分後。
「というワケなんスけど……京センパイ、どうッスか?」
「なるほどね」
なんという事はない。
昨日、オレと別れた後、別の高校に進んだ中学時代の友人たちとケータイでやりとりをしていたらしいのだが、その会話中に事件が起こった。
「アイツら、絶対ウソなんスけどね。ついウチも張り合っちゃって……」
旧友グループの中もクラスメートの男の子と仲良くなっているらしい。
このままいけばいつかヤレるだのヤレないだの、今週中にキスくらいはモノするだの、そんなイキった話の流れになった後『カオルはどーなん? 寂しくボッチか?』みたいに煽られたらしい。
そこで薫ちゃんもついムキになって『エロいセンパイと仲良くしてるしケツも撫でられた』と自慢? したそうな。
「お尻触られたってのは自慢になるの?」
「そ、そりゃあ、男の手を握れるだけでも滅多にないですし、ケツ、いえ、お尻を撫でられたって言えばフツーはうらやましがられるッスね。まず、ありえないんスけど」
なるほど、とは思う。
単に前世の男女と置き換えて考えるのとはまた違うか。
前提として男女比の差が三十倍ある以上、接触する機会が少ない。
その上、お尻がどうこうというのであればそんなイベントありえない、となるわけか。
オレはオレがこの世界で異質という事をもう少し自覚しなといけないかな。
「で、お友達はなんて?」
「そんな男がいるはずない、バレバレなウソはやめろ。空しくないか、なんてコトまで言われて、ウチもまた売り言葉に買い言葉で……」
「それぞれの男を連れて、カラオケ、ねぇ」
「ウッス。お忙しい所、大変申し訳ないんスけど……どうか一日だけ付き合っていただけないかなって」
そうして冒頭の土下座スタイルをかましてきたわけか。
オレとしては薫ちゃんの面子を立てるのに否やは無いし、なんならこれを利用してエロい年上の先輩を熱演して薫ちゃんの友達の前で公開セクハラをするのも一興かと考える。
「いいよ。付き合ってあげる」
「マジッスか!?」
それとは別に、連れてこられる男の子にも興味があった。
三人の女の子とカラオケに来るような男は、きっとこの世界におけるチャラ男のはずだ。
オレのようなアウトサイダーではなく、この世界でエロく育った男というのはどのようなトーク、そしてムーヴをするのか。
オレのビッチは前世の影を被っているだけの、ある意味では偽物だ。
本物のビッチ、本物のヤリチン、そういった手本を常々欲していた。
この世界でビッチを目指して生きるのであれば、いつかは師たる存在に教えを請いたいとも思っていた。
カラオケとはいうものの、実際はコンパのようものだろう。
歌いに行く、遊びに行く、というよりある程度の人数が入れる密室、しかも制服の男女が一緒に入って問題がない、そんなロケーションは限られる。
そしてカラオケルームとは、全ての条件を整えた絶好の場所だ。
当日はきっと、オレかその子、どちらがエロいビッチかという勝負になるはずだ。
どうやら相手の男は年下のようだが、この世界に来ていまだ数か月のオレからすれば大先輩である。
せいぜい失礼にならないよう力の限り、異世界仕込みのエロトークを披露し、胸を借りる所存だ。
「それでいつ行くの?」
「え、えっとですね……今日の放課後、なんてどうすかね?」
すでに日時も決まっていたようだ。
「ずいぶん急だね」
「いや、その。互いに仲がいいなら、いつでも連れてこられるだろ、という話になりまして……」
友人同士の見栄の張り合いも、ツッパリの世界だと引くに引けないものになるようだ。
ソロの夏木さんと違って、薫ちゃんは人間関係が大変そうである。
「じゃあ、放課後。ここで待ち合わせしようか」
「ウッス!ありがとうございます!」
「ちなみに夏木さんには内緒の話?」
「で、できれば、内緒でお願いします! 男の人を下らない事に巻き込むなって怒られるので……それに京センパイは青葉センパイの、アレ、なアレなんで、余計に怒られるッス……」
友達関係に先輩後輩の関係か。薫ちゃんはなかなか大変そうだ。
ま、いずれどうせバレると思うが、それまではオレから話すこともないだろう。
次の日。
オレの在籍する二年一組、始まったばかりの昼休みにちょっとした事件が起こった。
「ッス、失礼します! 宮城京センパイはいらっしゃいますか!」
開けられたままの教室の前のドアに現れた銀髪の一年生。
「あのバカ」
隣で半分寝ぼけていた夏木さんの目が薫ちゃんを見てカッと見開いた。
夏木さん以外、クライメート全員の視線が薫ちゃんに向かったあと、そのまま全てオレに向けられた。
お弁当の途中でハシが宙を掴んでいる子。
かぶりついた焼きそばパンごとこちらを向いている子。
学食か購買に行こうとイスから立ち上がっていた子。
みんなそれぞれがなんとも言えない顔でオレを見ている。
この世界に来て他人の視線というのは慣れたつもりだが、こういう奇異な感情を向けられるとちょっとたじろぐ。
だが堂々としていれば、逆に何でもない出来事だと納得されるものだ。
オレがクラスメートたちの視線に対して、どうかした? と平然な顔で微笑み返すと、皆、それぞれのお弁当にハシや視線を戻した。
そして、隣で今にも立ち上がって薫ちゃんを連れ去りそうなオーラを出す夏木さんへ耳打ちする。
「夏木さんまでついてくると目立っちゃうからここにいて」
「……悪いな。バカが迷惑かけた」
オレはドアの付近で直立している薫ちゃんの所まで行くと、どうしたの? と声をかける。
「あ、すいません、突然。ええとですね! 実は」
「その前に場所、変えようか?」
そういった薫ちゃんを連れてオレは、人気のない場所イコールいつもの場所である校舎裏へと向かった。
***
開幕、それは薫ちゃんの土下座から始まった。
「薫ちゃん?」
「一生のお願いッス!」
「いきなりすぎて色々とアレなんだけど、とりあえず事情を聞かせてもらえる?」
昨日からかいすぎた結果、欲求不満がゲージ破壊されて、京センパイ、ウチを今すぐペットにしてください! とでも言うならオレは両手を広げて、よーしよしとアゴの下を撫でまわすぐらいにウエルカムだが、どうにもそういう雰囲気ではなそさそうだ。
申し訳なさそうにしつつも、譲れないものがあるとでもいわんばかりの真剣な表情。
いったいどんな事情があるのか。
またしてもこの男女比特有の何やらシリアスな展開になるのではと、オレは戦々恐々としつつ薫ちゃんの話に耳をかたむける。
――五分後。
「というワケなんスけど……京センパイ、どうッスか?」
「なるほどね」
なんという事はない。
昨日、オレと別れた後、別の高校に進んだ中学時代の友人たちとケータイでやりとりをしていたらしいのだが、その会話中に事件が起こった。
「アイツら、絶対ウソなんスけどね。ついウチも張り合っちゃって……」
旧友グループの中もクラスメートの男の子と仲良くなっているらしい。
このままいけばいつかヤレるだのヤレないだの、今週中にキスくらいはモノするだの、そんなイキった話の流れになった後『カオルはどーなん? 寂しくボッチか?』みたいに煽られたらしい。
そこで薫ちゃんもついムキになって『エロいセンパイと仲良くしてるしケツも撫でられた』と自慢? したそうな。
「お尻触られたってのは自慢になるの?」
「そ、そりゃあ、男の手を握れるだけでも滅多にないですし、ケツ、いえ、お尻を撫でられたって言えばフツーはうらやましがられるッスね。まず、ありえないんスけど」
なるほど、とは思う。
単に前世の男女と置き換えて考えるのとはまた違うか。
前提として男女比の差が三十倍ある以上、接触する機会が少ない。
その上、お尻がどうこうというのであればそんなイベントありえない、となるわけか。
オレはオレがこの世界で異質という事をもう少し自覚しなといけないかな。
「で、お友達はなんて?」
「そんな男がいるはずない、バレバレなウソはやめろ。空しくないか、なんてコトまで言われて、ウチもまた売り言葉に買い言葉で……」
「それぞれの男を連れて、カラオケ、ねぇ」
「ウッス。お忙しい所、大変申し訳ないんスけど……どうか一日だけ付き合っていただけないかなって」
そうして冒頭の土下座スタイルをかましてきたわけか。
オレとしては薫ちゃんの面子を立てるのに否やは無いし、なんならこれを利用してエロい年上の先輩を熱演して薫ちゃんの友達の前で公開セクハラをするのも一興かと考える。
「いいよ。付き合ってあげる」
「マジッスか!?」
それとは別に、連れてこられる男の子にも興味があった。
三人の女の子とカラオケに来るような男は、きっとこの世界におけるチャラ男のはずだ。
オレのようなアウトサイダーではなく、この世界でエロく育った男というのはどのようなトーク、そしてムーヴをするのか。
オレのビッチは前世の影を被っているだけの、ある意味では偽物だ。
本物のビッチ、本物のヤリチン、そういった手本を常々欲していた。
この世界でビッチを目指して生きるのであれば、いつかは師たる存在に教えを請いたいとも思っていた。
カラオケとはいうものの、実際はコンパのようものだろう。
歌いに行く、遊びに行く、というよりある程度の人数が入れる密室、しかも制服の男女が一緒に入って問題がない、そんなロケーションは限られる。
そしてカラオケルームとは、全ての条件を整えた絶好の場所だ。
当日はきっと、オレかその子、どちらがエロいビッチかという勝負になるはずだ。
どうやら相手の男は年下のようだが、この世界に来ていまだ数か月のオレからすれば大先輩である。
せいぜい失礼にならないよう力の限り、異世界仕込みのエロトークを披露し、胸を借りる所存だ。
「それでいつ行くの?」
「え、えっとですね……今日の放課後、なんてどうすかね?」
すでに日時も決まっていたようだ。
「ずいぶん急だね」
「いや、その。互いに仲がいいなら、いつでも連れてこられるだろ、という話になりまして……」
友人同士の見栄の張り合いも、ツッパリの世界だと引くに引けないものになるようだ。
ソロの夏木さんと違って、薫ちゃんは人間関係が大変そうである。
「じゃあ、放課後。ここで待ち合わせしようか」
「ウッス!ありがとうございます!」
「ちなみに夏木さんには内緒の話?」
「で、できれば、内緒でお願いします! 男の人を下らない事に巻き込むなって怒られるので……それに京センパイは青葉センパイの、アレ、なアレなんで、余計に怒られるッス……」
友達関係に先輩後輩の関係か。薫ちゃんはなかなか大変そうだ。
ま、いずれどうせバレると思うが、それまではオレから話すこともないだろう。
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