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『オレの名を三度呼ぶ意味』
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『オレの名を三度呼ぶ意味』
「ふふふ」
しかし、このメール。実に良い。
最後の丸(句点って名前だっけ?)が、最後の一言だけついていないのも本心っぽくていい。
今から追いかけてお姫様抱っこして、もう一度夏木さんのベッドへ連れ去りたいぐらいだ。
「青葉センパイ、マジでカッコよすぎッス……」
だが今はこちらのお姫様を優先しよう。
ここで本当に夏木さんを追いかけると、照れ隠しにビンタくらいは飛んでくる。
ツンデレとはそういうデリケートな生き物だ。
オレがヨタヨタとしつつも、クールに去っていく夏木さんの背を見送っていると。
「あ、ああ、ああ、あのっ! 京センパイ!」
「ん? どうしたの、薫ちゃん」
勇気を振り絞って薫ちゃんがオレに声をかけてきた。
「ほ、放課後、おヒマっすか!」
おや、デートのお誘いだ。もちろん断る理由もない。
「うん、もちろん。お茶でも行く?」
「あざっス! よろしくお願いします!」
さて、降ってわいたチャンスだけにノープランだけど、どうしたものか。
夏木さんの時みたいに半ば強引に行くか。
それとも冬原先生の時のように誘い受けで行く?
いや、実は薫ちゃんが春日井さん顔負けの痴女……いや、それはないな。春日井さんはこの世界においても、例外中の例外。別格だ。
ふむ、ならば。
「じゃあ、放課後。ここで待ち合わせにしようか?」
「うッス!」
ここはこの世界の女子高生が男子高生とどうやってデートするのか拝見しよう。
きっと初々しいデートになるに違いない。
***
放課後に薫ちゃんと合流した後、オレたちは学校を出て商店街へと向かった。
学生デートと言えば、やっぱり金がない。
金は無いがとりあえず賑やかな所へ出向くという傾向と習性がある。
そして金がないと言っても、それは大人の財布と比べての話であって、コーヒーを飲みながらおしゃべりをするくらいの事はできる。
薫ちゃんいわく、ちょっとオシャレなカフェがあるというので、ついていったらシマ先輩がお勤めのあの喫コーヒーショップであった。
さすがにシマ先輩の姿はカウンターの中にない。
同じ高校生だし街中の方の学校なので、放課後間もないこんな時間、カウンターに立ってる事はない。
彼を探すようなオレの仕草に気付いたのか、何度か見かけた事のあるスタッフのお姉さんが声をかけてくれた。
「ごめんね。シマ君、まだなのよ」
「いえ、今日は後輩の子と遊びに来てるので。心配性のシマ先輩がいると色々おせっかいを焼いてくるのでちょうどいいです」
「あら、ふふふ。シマ君には内緒にしとくわ」
うーん。このお姉さんも、大人の余裕というか、落ち着いた雰囲気が素敵である。
おっと、いかんいかん。女性を連れている最中、別の女性に視線を遊ばすのは失礼だ。
「はい、ご注文のカフェオレ。そちらのお客様は……キャラメルマキアートですね? トレーはご一緒でよろしいですか?」
「ッス」
オレがトレイを受け取ろうとしたものの、薫ちゃんがすいっと前に出て、スタッフのお姉さんも当たり前のように薫ちゃんに手渡した。
ああ、そうか。
ここでは女性が男を気づかって当然の世界だった。オレがでしゃばると、薫ちゃんの顔を潰す事になる。
「京センパイ。京センパイ。行きましょう、京センパイ」
「あ、うん?」
なぜか三度も名前を呼ばれて首をかしげつつも、オレは先を歩く薫ちゃんについていく。
「ここにしましょう、京センパイ!」
「あ、うん。薫ちゃん、ちょっと静かにね」
「ッス!」
さすがに店内で何度も名前を呼ばれると恥ずかしいものがある。
何事かと思ったのか、ちらほらとこちらを見る他のお客さんの視線がちょっと痛い。
薫ちゃんはボックス席の下座に座り、上座をオレに譲ってくる。
この年でそこまで意識しているのか偶然なのかはわからないが、あえて聞くような事でも無し。
オレは慣れない上座に腰を落ち着けて、正面に座る薫ちゃんを見る。
「えへへ」
嬉しそうだ。いや、嬉しさ全開な笑顔だ。
自分と同席しただけでここまで喜んでくれるというのは、なんとも面映ゆい。
つい。
「ひゃっ」
そのゆるんだホッペをつついてしまった。
「ああ、ごめんごめん。あんまり柔らかそうなホッペだったからも、ついね」
「あ、あ、えっと、お粗末様ッス!」
オレはやわらかく甘い湯気を立てるカフェオレに口をつける。
薫ちゃんも泡で溢れそうなカップに口をつける。
唇の端ついた泡を、恥ずかしそうに小さな舌でペロリと舐めとった。
***
さて。
どうしてこうなった。
「……」
あんなに元気だった薫ちゃんの口数が次第に減っていき、今では完全に無言になってしまった。
なんとか笑顔を保っているが、少し垂れ目がちなその目じりには涙が浮かんでしまい、オレとしては何が何やらという具合だった。
オレが知らぬ間に何かやらかしてしまったか?
初々しくも獲物を狙うようだった飢えた女子高生の鋭い眼光はとうに失われ、テーブル上で自身の指先を絡めては解いている。
さぞ色々と聞いてきたりするものだと思っていたオレは、ドッシリ構えて笑顔を浮かべ、さあなんでもお聞きなさい、と余裕ぶった年上の先輩ムードを醸し出していたというのに、薫ちゃんは口数が少なくっていくばかりだった。
「ふふふ」
しかし、このメール。実に良い。
最後の丸(句点って名前だっけ?)が、最後の一言だけついていないのも本心っぽくていい。
今から追いかけてお姫様抱っこして、もう一度夏木さんのベッドへ連れ去りたいぐらいだ。
「青葉センパイ、マジでカッコよすぎッス……」
だが今はこちらのお姫様を優先しよう。
ここで本当に夏木さんを追いかけると、照れ隠しにビンタくらいは飛んでくる。
ツンデレとはそういうデリケートな生き物だ。
オレがヨタヨタとしつつも、クールに去っていく夏木さんの背を見送っていると。
「あ、ああ、ああ、あのっ! 京センパイ!」
「ん? どうしたの、薫ちゃん」
勇気を振り絞って薫ちゃんがオレに声をかけてきた。
「ほ、放課後、おヒマっすか!」
おや、デートのお誘いだ。もちろん断る理由もない。
「うん、もちろん。お茶でも行く?」
「あざっス! よろしくお願いします!」
さて、降ってわいたチャンスだけにノープランだけど、どうしたものか。
夏木さんの時みたいに半ば強引に行くか。
それとも冬原先生の時のように誘い受けで行く?
いや、実は薫ちゃんが春日井さん顔負けの痴女……いや、それはないな。春日井さんはこの世界においても、例外中の例外。別格だ。
ふむ、ならば。
「じゃあ、放課後。ここで待ち合わせにしようか?」
「うッス!」
ここはこの世界の女子高生が男子高生とどうやってデートするのか拝見しよう。
きっと初々しいデートになるに違いない。
***
放課後に薫ちゃんと合流した後、オレたちは学校を出て商店街へと向かった。
学生デートと言えば、やっぱり金がない。
金は無いがとりあえず賑やかな所へ出向くという傾向と習性がある。
そして金がないと言っても、それは大人の財布と比べての話であって、コーヒーを飲みながらおしゃべりをするくらいの事はできる。
薫ちゃんいわく、ちょっとオシャレなカフェがあるというので、ついていったらシマ先輩がお勤めのあの喫コーヒーショップであった。
さすがにシマ先輩の姿はカウンターの中にない。
同じ高校生だし街中の方の学校なので、放課後間もないこんな時間、カウンターに立ってる事はない。
彼を探すようなオレの仕草に気付いたのか、何度か見かけた事のあるスタッフのお姉さんが声をかけてくれた。
「ごめんね。シマ君、まだなのよ」
「いえ、今日は後輩の子と遊びに来てるので。心配性のシマ先輩がいると色々おせっかいを焼いてくるのでちょうどいいです」
「あら、ふふふ。シマ君には内緒にしとくわ」
うーん。このお姉さんも、大人の余裕というか、落ち着いた雰囲気が素敵である。
おっと、いかんいかん。女性を連れている最中、別の女性に視線を遊ばすのは失礼だ。
「はい、ご注文のカフェオレ。そちらのお客様は……キャラメルマキアートですね? トレーはご一緒でよろしいですか?」
「ッス」
オレがトレイを受け取ろうとしたものの、薫ちゃんがすいっと前に出て、スタッフのお姉さんも当たり前のように薫ちゃんに手渡した。
ああ、そうか。
ここでは女性が男を気づかって当然の世界だった。オレがでしゃばると、薫ちゃんの顔を潰す事になる。
「京センパイ。京センパイ。行きましょう、京センパイ」
「あ、うん?」
なぜか三度も名前を呼ばれて首をかしげつつも、オレは先を歩く薫ちゃんについていく。
「ここにしましょう、京センパイ!」
「あ、うん。薫ちゃん、ちょっと静かにね」
「ッス!」
さすがに店内で何度も名前を呼ばれると恥ずかしいものがある。
何事かと思ったのか、ちらほらとこちらを見る他のお客さんの視線がちょっと痛い。
薫ちゃんはボックス席の下座に座り、上座をオレに譲ってくる。
この年でそこまで意識しているのか偶然なのかはわからないが、あえて聞くような事でも無し。
オレは慣れない上座に腰を落ち着けて、正面に座る薫ちゃんを見る。
「えへへ」
嬉しそうだ。いや、嬉しさ全開な笑顔だ。
自分と同席しただけでここまで喜んでくれるというのは、なんとも面映ゆい。
つい。
「ひゃっ」
そのゆるんだホッペをつついてしまった。
「ああ、ごめんごめん。あんまり柔らかそうなホッペだったからも、ついね」
「あ、あ、えっと、お粗末様ッス!」
オレはやわらかく甘い湯気を立てるカフェオレに口をつける。
薫ちゃんも泡で溢れそうなカップに口をつける。
唇の端ついた泡を、恥ずかしそうに小さな舌でペロリと舐めとった。
***
さて。
どうしてこうなった。
「……」
あんなに元気だった薫ちゃんの口数が次第に減っていき、今では完全に無言になってしまった。
なんとか笑顔を保っているが、少し垂れ目がちなその目じりには涙が浮かんでしまい、オレとしては何が何やらという具合だった。
オレが知らぬ間に何かやらかしてしまったか?
初々しくも獲物を狙うようだった飢えた女子高生の鋭い眼光はとうに失われ、テーブル上で自身の指先を絡めては解いている。
さぞ色々と聞いてきたりするものだと思っていたオレは、ドッシリ構えて笑顔を浮かべ、さあなんでもお聞きなさい、と余裕ぶった年上の先輩ムードを醸し出していたというのに、薫ちゃんは口数が少なくっていくばかりだった。
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