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『ツンデレの鑑』
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『ツンデレの鑑』
人気のない場所という事もあり、右隣を歩く薫ちゃんがさり気なさを装って距離をつめてくる。
手が触れ合うような距離。
オレがブラブラさせている右手と薫ちゃんのスカートが時折触れたり、薫ちゃんの左手がオレのズボンに触れたり。
「ってわけでしてー。青葉センパイは色々と乙女な部分がありましてー」
だが薫ちゃんの視線はこちらを向いておらず、ただひたすらに明るい声で、けれど何か必死感漂う口調で会話をつないでいる。
「そうだねぇ、隠しきれない優しさがにじみ出るときがあるからね」
「そっスねー! この前なんかー」
オレが相槌をうつたびに、少しだけこちらを向いてうれしそうにする。
つつましく、いじらしい、それでいて、なけなしのアピール。
ここでオレが薫ちゃんを口説いたら、一発即落ちだろう。
これはうぬぼれじゃない。
クソみたいな性格の方の女神様がくれたイケメンフェイスと、パリピっぽい優しい方の女神様がくれたエロチートスキルがオレにはあるのだ。
だからこそオレは迫らない。
年下に求められるこのシチュエーションを存分に楽しみたい。
迫られるモテモテビッチを満喫したいのだ。
あと。手を出す前に一応は夏木さんの意思確認をしたい。
オレはもともとセフレを増やすと宣言しているし、夏木さんもそれは了承済み。
しかし約束と感情はまた別の話だ。
それに、知り合いの後輩と同じ男を共有するセフレ同士になる、というのはどうなんだろうと。
前の世界では穴兄弟なんて言葉もあったが、ここでも棒姉妹と言ったりするんだろうか。
ともかく、オレという杯を交わして義姉妹の契りをかわしてしまった二人が仲たがいをしてしまうのも忍びないし……さらにはオレのひそかな野望をかなえるためにも、穏便かつ円滑な手順をもって薫ちゃんをセフレとしたい。
そんなふうに色々と考えながら校舎裏にやってくると、すでに夏木さんが待っていた。
かつてのように。そしていつものように校舎の壁に背を持たれかけ、長い金髪を揺らして気だるげに立っている。
こちらに気付くとややきつい印象を与える釣り目がちな美人が、ほんの少しだけ微笑んだ。
だがすぐに表情を引き締める。硬派を気取った不良娘、いまだ健在だ。
やっぱり美人だし、そういう所がまたかわいいよね。
「夏木さん、お待たせ。ありがとうね」
「おう、ほら、財布」
夏木さんはスカートのポケットから二つ折りの黒い財布を取り出した。
「あとこれ。昼飯。まだ温かいからさ」
夏木さんが小さめのエコバックをオレに差し出す。
中を見れば銀色の保温紙パックに包まれたものがある。
トーストサンドだろう。
「ありがとう。嬉しいなぁ」
「ふん。じゃあな」
「え? 帰るの? 午後からの授業は?」
「うるさい」
校舎から背を離した夏木さんがヨロヨロとふらついた。
これはちょっとダメかもしれませんね。
「大丈夫? シップもっと張る?」
「うるさい!」
頼りない足取りで帰っていく夏木さん。
「ちょ、ちょっと、青葉センパイ! ウチの事、超スルーですか!?」
「お、いたのか薫」
「ひどいッス!」
「あいかわらずコンビニか。多めに入れといたから少し分けてもらえ」
夏木さんがオレに渡した保温袋を差す。
「ゴチっす!」
「うるせぇ! ったく。おい、薫ちょっと耳貸せ」
「あ、なんスか。痛いッス!」
夏木さんが薫ちゃんの耳たぶを引っ張って、なにやら内緒話を始めた。
時折、二人の視線がオレを見たり、不意に反らしたりと忙しそうだ。
ときおり薫ちゃんは目を開いたり、口をパクパクしたりと、一体、どんな話をしているのか非常に気になる。
「じゃーな。ビッとしろよ」
「う、ウス」
ようやくお話が終わったらしい。
ヨタヨタと去っていく背中が不意に立ち止まった。
「宮城」
「ん?」
「それ。嫌いじゃなきゃ、構ってやってくれ」
夏木さんがオレにそんなことを言い出した。
それ、と指さされているのは薫ちゃんだ。
薫ちゃんは顔を真っ赤にしてうつむいている。
短いスカートのすそっをギュッと握りしめていた。
オレもそこまで鈍い方じゃない。
夏木さんの言葉と薫ちゃんの態度からどういう意味かは察する。
「……ふうん? いいんだ?」
「馬の骨を拾ってこられるよりはマシだろ」
「なるほど」
「別に無理強いはしねーよ。じゃあな」
そう言って、今度こそ夏木さんは去っていった。
波風を立たせないようにどう言い出そうかと思っていたのに、まさか夏木さんからそんな話を振られるとは。
けどちょっと寂しい。
アタシ以外の女なんて! とか、アタシだけがいればいいだろ! とか。
いや、さすがにそれは夏木さんのキャラじゃないけれど、少しぐらい嫉妬してくれたら嬉しかったなー、なんてのは身勝手か。
ケータイが震えた。
夏木さんだった。
件名のないその内容は一行だけ。
[本分]
アタシだけのお前じゃないなら、せめてアタシみたいな女を構ってやってくれ。
うーん。カッコいい。
クールすぎて、次に夏木さんとする時は、昨日よりももっとイジめてしまいそうだ。
「あ、もっと下にも何か書いてある」
一行だけかと思ったメールには、たくさんの改行の後、もう一言添えられてた。
本当はイヤなんだぞ
と。
陥落したツンデレヒロインの鑑のようなメールだった。
人気のない場所という事もあり、右隣を歩く薫ちゃんがさり気なさを装って距離をつめてくる。
手が触れ合うような距離。
オレがブラブラさせている右手と薫ちゃんのスカートが時折触れたり、薫ちゃんの左手がオレのズボンに触れたり。
「ってわけでしてー。青葉センパイは色々と乙女な部分がありましてー」
だが薫ちゃんの視線はこちらを向いておらず、ただひたすらに明るい声で、けれど何か必死感漂う口調で会話をつないでいる。
「そうだねぇ、隠しきれない優しさがにじみ出るときがあるからね」
「そっスねー! この前なんかー」
オレが相槌をうつたびに、少しだけこちらを向いてうれしそうにする。
つつましく、いじらしい、それでいて、なけなしのアピール。
ここでオレが薫ちゃんを口説いたら、一発即落ちだろう。
これはうぬぼれじゃない。
クソみたいな性格の方の女神様がくれたイケメンフェイスと、パリピっぽい優しい方の女神様がくれたエロチートスキルがオレにはあるのだ。
だからこそオレは迫らない。
年下に求められるこのシチュエーションを存分に楽しみたい。
迫られるモテモテビッチを満喫したいのだ。
あと。手を出す前に一応は夏木さんの意思確認をしたい。
オレはもともとセフレを増やすと宣言しているし、夏木さんもそれは了承済み。
しかし約束と感情はまた別の話だ。
それに、知り合いの後輩と同じ男を共有するセフレ同士になる、というのはどうなんだろうと。
前の世界では穴兄弟なんて言葉もあったが、ここでも棒姉妹と言ったりするんだろうか。
ともかく、オレという杯を交わして義姉妹の契りをかわしてしまった二人が仲たがいをしてしまうのも忍びないし……さらにはオレのひそかな野望をかなえるためにも、穏便かつ円滑な手順をもって薫ちゃんをセフレとしたい。
そんなふうに色々と考えながら校舎裏にやってくると、すでに夏木さんが待っていた。
かつてのように。そしていつものように校舎の壁に背を持たれかけ、長い金髪を揺らして気だるげに立っている。
こちらに気付くとややきつい印象を与える釣り目がちな美人が、ほんの少しだけ微笑んだ。
だがすぐに表情を引き締める。硬派を気取った不良娘、いまだ健在だ。
やっぱり美人だし、そういう所がまたかわいいよね。
「夏木さん、お待たせ。ありがとうね」
「おう、ほら、財布」
夏木さんはスカートのポケットから二つ折りの黒い財布を取り出した。
「あとこれ。昼飯。まだ温かいからさ」
夏木さんが小さめのエコバックをオレに差し出す。
中を見れば銀色の保温紙パックに包まれたものがある。
トーストサンドだろう。
「ありがとう。嬉しいなぁ」
「ふん。じゃあな」
「え? 帰るの? 午後からの授業は?」
「うるさい」
校舎から背を離した夏木さんがヨロヨロとふらついた。
これはちょっとダメかもしれませんね。
「大丈夫? シップもっと張る?」
「うるさい!」
頼りない足取りで帰っていく夏木さん。
「ちょ、ちょっと、青葉センパイ! ウチの事、超スルーですか!?」
「お、いたのか薫」
「ひどいッス!」
「あいかわらずコンビニか。多めに入れといたから少し分けてもらえ」
夏木さんがオレに渡した保温袋を差す。
「ゴチっす!」
「うるせぇ! ったく。おい、薫ちょっと耳貸せ」
「あ、なんスか。痛いッス!」
夏木さんが薫ちゃんの耳たぶを引っ張って、なにやら内緒話を始めた。
時折、二人の視線がオレを見たり、不意に反らしたりと忙しそうだ。
ときおり薫ちゃんは目を開いたり、口をパクパクしたりと、一体、どんな話をしているのか非常に気になる。
「じゃーな。ビッとしろよ」
「う、ウス」
ようやくお話が終わったらしい。
ヨタヨタと去っていく背中が不意に立ち止まった。
「宮城」
「ん?」
「それ。嫌いじゃなきゃ、構ってやってくれ」
夏木さんがオレにそんなことを言い出した。
それ、と指さされているのは薫ちゃんだ。
薫ちゃんは顔を真っ赤にしてうつむいている。
短いスカートのすそっをギュッと握りしめていた。
オレもそこまで鈍い方じゃない。
夏木さんの言葉と薫ちゃんの態度からどういう意味かは察する。
「……ふうん? いいんだ?」
「馬の骨を拾ってこられるよりはマシだろ」
「なるほど」
「別に無理強いはしねーよ。じゃあな」
そう言って、今度こそ夏木さんは去っていった。
波風を立たせないようにどう言い出そうかと思っていたのに、まさか夏木さんからそんな話を振られるとは。
けどちょっと寂しい。
アタシ以外の女なんて! とか、アタシだけがいればいいだろ! とか。
いや、さすがにそれは夏木さんのキャラじゃないけれど、少しぐらい嫉妬してくれたら嬉しかったなー、なんてのは身勝手か。
ケータイが震えた。
夏木さんだった。
件名のないその内容は一行だけ。
[本分]
アタシだけのお前じゃないなら、せめてアタシみたいな女を構ってやってくれ。
うーん。カッコいい。
クールすぎて、次に夏木さんとする時は、昨日よりももっとイジめてしまいそうだ。
「あ、もっと下にも何か書いてある」
一行だけかと思ったメールには、たくさんの改行の後、もう一言添えられてた。
本当はイヤなんだぞ
と。
陥落したツンデレヒロインの鑑のようなメールだった。
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