上 下
336 / 412

『高嶺の花にはトゲがある(1)』

しおりを挟む
『高嶺の花にはトゲがある(1)』

「会長。そんな要件で放課後に呼び出したの? ボクもヒマじゃないんだけど」

機嫌は損ねるだろうと予想はしてたけど、それ以上に彼の態度は硬化する。

それでも彼はすぐに立ち去らなかった。

生徒会長と副会長という、かろうじてのつながりで、あと一言を聞いてもらえる。

「け、けれど、貴方にとっても悪い話ではないと思うわ」

私にとって、いえ、私の家から出せるだけの条件は出した。

母と祖母も無理をして親戚筋を説得している。

けれど彼の口から出た言葉は。

「ボクは進学予定なんだ。それに、こんな田舎じゃなくて都会の大学に進めばもっと良い話だってあるかもしれない。そう考えると会長の話に乗る事が最良とは言い切れないでしょ?」

ため息をともなった、否定的なものだった。

「それは……そうかもしれないけど……」

そして、私はそれを否定できなかった。

「確かに会長のご実家はボクでも知ってる資産家だよ。もともとここいらの大地主だものね。士業に就かれているご家族だって多い。それでも会長がつけた条件付きの交際なんて簡単に飲めるものじゃないって」

そう。私は彼に交際を迫っていた。

私側の要望としていくつか条件がついているが、それ以上の好条件を立てたつもりだ。

一年間を通し円滑に生徒会活動をともにした彼ならば、と望みもあった。

だが現実はこんなもの。

彼にとって私の家が出した条件というのは、さほど良いものとは映らなかった。

妊活を前提とした交際で、無事出産の暁にはさらに報酬を。

ただしそれは男児に限り、女児の出産の場合は最長五年を目途に妊活の継続。

可能であればその間は入籍して夫婦として過ごすこと。

その場合は、さらに報酬の上乗せと私の実家から可能な限りの様々なサポートを約束する。

これが私の、いや、私の実家が出した子の条件だった。

それが彼の眉をひそめさせた。

男児を得るための種馬扱いととらえられても仕方ない話。

そのための破格の報酬でもあったが、彼の琴線に触れる事はなかった。

「そ、そう。だけど、もし良かったら、もう少し考えてみてほしいの。お互い、卒業まで一年近くあるのだから。ね?」
「ん、まぁ、考えとくよ。話はそれだけ?」
「……ええ」
「じゃあね」

そういって彼は私を残し、生徒会室から出ていった。

一度も振り返る事なく。

廊下を歩いている彼にとって、もはや私が持ち掛けた話は忘れ去られているだろう。

「……はぁ。どうしようかしら」

母と祖母が悲しむ顔が目に浮かぶ。

私の高校生活の時間は、すでに残り一年を切っている。

一般に、女が人生で複数の男性と最も接する機会と言われる高校三年間。

私なりに色々と努力した二年間だったけど、特定の男子生徒と距離を縮められた事はない。

デートと称して食事に誘ったりした事はあったものの、結局、その場で終わってしまう話ばかり。

それだけでも十分に恵まれた方だと思う。

けれど私は、ただ自分が男児を欲しているわけじゃない。

三代続けて男子に恵まれない、もしくは伴侶を得られないなら、親戚筋から婚約者を出す、と親族会議で決められているから。

それは私が女として生まれた時に決まった事であり、今さらどうしうようもないもの。

元は百姓だったものの、その才覚により一代で代を築いた祖母。

今や立志伝中の人と言われるだけあって、苛烈な性格。

代を次いだ母は、祖母の会社や事業を十倍の規模にした。

母もまた豪胆な性格ながらも、多くの人に慕われ頼られている。

そんな二人には夢があった。

優しい男の人と睦まじく暮らし、可愛い男の子を授かる事。

とはいえ、祖母は娘であった母を愛していたし、母も娘である私を愛してくれている。

私も二人と同じく仕事に生きるつもりではあったものの、あの二人はたとえ短い間でも、例えお金での契約上のものであっても、男性との夫婦生活の上で、私に子供を授かる幸せを得てほしいと願っている。

できれば、男の孫、ひ孫を抱きたい、という思いもあるだろう。

男性出生率が精子バンクからではなく、男性からの直接妊娠による事で大きく確率があがるという事はよく知られている結果だ。

もちろん、確実というわけではないけれど、可能性を上げるためのもっとも確実な努力と言われている。

祖母と母は、その為ならば可能な限りの条件を出すとも言っていた。

そこで話は戻るが、だからと言って親戚筋の男はいけない。

明らかに金目的。

私も正月などに候補となっている親戚の男に何度か会ったことがあるが、実に性根の悪い人ばかりだった。

今、去っていった副会長のように、まともな性格の男性ではない事は確か。

しかし、綿しに結婚を強いる親戚筋の話も理解できる。

大きな家、大きな事業、大きな会社を維持するという点では、家長の夫がいるかいないかで外向けの話も変わってくるからだ。

祖母も母も商売敵や契約相手に男性が出てくると、どうしても遠慮せざるを得ない事が多いと言っていた。

女同士のビジネスであればすんなりと話がまとまるものでも、どちらかに男が絡んでくると厄介な種になることも多い。

女側が正当な主張をしても、男がそれを父性だなんだと騒ぎたてるだけで面倒な事になる。

だからせめて代を継ぐ私の側には男性を立たせておきたいと、苦労した二人は思っているのだろう。

今の私の状況はそういう所にある。

高校三年間の間に、婚約者を得られるかが、その後の私の人生、ひいては母と祖母の人生にも影響を与える。

私を優しく愛してほしい。

そこまで贅沢はいわないけれど、私をないがしろにせず、妻として扱ってくれ男性と出会える機会を得なければ。

「けれど、もう私に知り合い男の子なんていないし……はぁ」

誰もいなくなった生徒会室で、もはや何度目かわからなくなったため息をつく。

誰で彼でも声をかけるというわけにはいかない。

家の名誉というものもあるし、そもそも近しくもない男の子に婚約を迫るなんて、セクハラもいいところだ。

今回の件だって私が会長の立場を使って私的な理由で呼び出したと言って彼が大ごとにすれば、私は確実に何日かの停学を受けるだろう。

最悪、退学処分になってもおかしくない。

そう考えると彼より優しい男の子をあと一年で見つけるというのは……絶望的だ。

三学年合わせても男子生徒の数はそう多くないし、そもそも在校の男子生徒の概要は調査済でもある。

そうなると、学外の男子生徒、もしくは男性を探すしかなくなるが、私はいまいちSNSにうとく、出会い系の類は苦手だ。

「はぁ。どうしたらいいのかしら」

焦ってしまう。

残り少ない時間、何か行動しなければと思っても、何をすればいいのかわからない。

会長のイスに座る。

といっても普通の机とイスで、机の上に生徒会長というプレートがおいてあるだけのママゴトのようなもの。

生徒会室も空き教室を利用したもので、半分は学園祭や体育祭で毎年使う看板や出し物の保管場所を兼ねている。

残り半分、教室の黒板側に私と副会長、書記の二人分の机が並んでいるだけだ。

生徒会役員は全員こので夏に引退予定。

書記にはそれぞれの補佐として二年生の女子がこの春からついていて、夏までに引き継ぎをして交代する予定になっている。

副会長は……男子生徒の為のお飾り枠なので希望者がいなければ特になし。

これまで通り、後任は随時、希望者を募る形。

生徒会長職に関しては私が夏までに二年生から後任を探すか、いなければ二年生の書記の子のどちらかが代理となってすすめる、もしくは私が卒業までの続投。

私の後釜のとこはどうでもいい。

さして興味もないし、副会長の彼もいなくなる生徒会長を続ける理由も余裕もない。

私は次にどうするかと、私の事でいっぱいいっぱいなのだから。

「はぁ……」

本当に何度目のため息だろうか。

自分でもイヤになる。

そんな時、生徒会室のドアがノックされ、扉が開く。

「失礼します。会長、お疲れ様です」
「あら、春日井さん。お疲れ様。どうしたの?

手に書類をもった二年生の女生徒があらわれた。

現、書記補佐。次期書記の春日井さんだった。
しおりを挟む
感想 31

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

シン・三毛猫現象 〜自然出産される男が3万人に1人の割合になった世界に帰還した僕はとんでもなくモテモテになったようです〜

ミコガミヒデカズ
ファンタジー
 気軽に読めるあべこべ、男女比モノです。  以前、私がカクヨム様で書いていた小説をリメイクしたものです。  とあるきっかけで異世界エニックスウェアに転移した主人公、佐久間修。彼はもう一人の転移者と共に魔王との決戦に挑むが、 「儂の味方になれば世界の半分をやろう」  そんな魔王の提案に共に転移したもう一人の勇者が応じてしまう。そんな事はさせないと修は魔王を倒そうとするが、事もあろうに味方だったもう一人の勇者が魔王と手を組み攻撃してきた。  瞬間移動の術でなんとか難を逃れた修だったが、たどり着いたのは男のほとんどが姿を消した異世界転移15年後の地球だった…。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

処理中です...