【R18】転生先は男女比1:30の貞操逆転世界~ビッチを夢見る三十路の魂~

尾和 ハボレ

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『餓狼たちの挽歌(6)』

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『餓狼たちの挽歌(6)』

美雪が差し出す小さな紙片。

なんだ?

疑問に思うが、ふと思い立った。

中学生や高校生がプリクラでつくる、写真付きの名刺か、と。

黄色い声をあげるガキどもの遊びではあるが、これが男子高校生のものとなれば話は別。

男子高校生のプリクラ写真というのはデジタルによる複製が出来ない為、一点ものであり市場価値が非常に高い。

個人間のフリマやネットオークションでは、サンプルに目線が入れられたものが高値で取引されている。

名刺タイプもその一つで、名前(だいたいは偽名や愛称)ではあるが、その男子高校生と同級生気分が味わえるという事で、熱狂的で偏執的な蒐集家も多い。

美雪はその子が作った名刺をもらっていたというわけだ。

殴りたい。

だが、私だってその子に直接もらえるようになるかもしれない。

なんなら一緒にプリクラを撮るぐらいまではいけるかもしれない。

withDK(男子高校生と一緒に何かをする意)で、もっとも難易度が高いとされているプリクラツーショット。

学生時代に見た夢。

枯れた願望、過ぎた羨望、それでも三年間、どこかで望んだ末に待っていたのは、やはり絶望。

それがこの年になって叶うかもしれない。

そんな淡い期待で拳に宿った鬼をなだめて、名刺を受け取った。

瞬間、私は混乱した。

なぜなら美雪が出した名刺はプリクラのものではなく、いたって普通のビジネス名刺。

そこにはよく知る名が書いてある。

『氷雨 霰(ヒサメ アラレ)』

まごう事なき、私のものだった。

美雪にはこんなつまらんものをくれてやった覚えはない。

であれば、なぜコイツがこれを持っているのか?

「先輩」
「ん?」

首をかしげる私に美雪がこうたずねかけた。

「最近、男子高校生に名刺を渡した事は?」
「馬鹿者、そんな事をしたら事案でつかま……」

瞬時に理解した。

「まさか……あの?」
「そうです、その子です」

忘れはしない、忘れられない。

あの満員電車で会った天使の顔、香り、感触。

私はこの瞬間、神の存在を確信した。

「先輩、バイトのタイミングはどうしますか? 事前に面接なりなんなりしたいというのであれば、それも都合をつけさせますが」
「う、うむ。そうか、面接、面接だな。面接というものがあったか」

すでに私の中では採用が決定していいるわけだが、体面的には書類上の準備や説明なども必要だ。

であれば最初に面接というのがもっとも効率がいい。

というか、面接というものはそういうものだ。

だが差し向かいで一対一はいささか問題がある。

相手は未成年でもあるし、保護者や監督者の同伴が望ましい。

そしてできる事なら私の味方をする者が良い。

私は頼りになる後輩を見る。

ハムスターのようにふくらんだ美雪の口の中は、上肩ロースでつまっている。

「美雪」

こいつに言葉は不要。

私は注文用のタブレットに指をあてて見せる。

その先には特上ロースの皿がある。

美雪は目を輝かせ、口の中の肉をあわてて飲み込む。

「ふぁい、んぐっ、当日は同伴いたします。先輩の会社がいかに素晴らしいか、そしてやましいところなど一切ないことを説明します」
「頼む」

私は特上ロースを三皿注文した。

私の会社が扱う商品は男性に対してセンシティブだ。

しかしその性質上、他の業種よりも男手の需要が非常に高い。

ゆえにこの業界、男性スタッフをいかに集めるか、かつ質の高い男性スタッフを何人確保しているかで、ライバル会社と差がつく業界でもある。

そしてウチは男性スタッフの数も質もまったく足りていない。

短期雇用、もしくは同業他社からのレンタル雇用でなんとかまわしている状況。

私個人の下心が満たされるかは別として、会社経営者としても今回の話は非常にありがたい話だ。

まさに天からチャンスが降ってきたレベルの話、いや天使が降ってきたとも言える。

若い子でもあるし、そのままウチに入社してくれれば専属にできる未来も見える。

これから先、私はその子の扱いに非常に神経を使う事になるだろう。

油断もミスも許されない。

男性というのは非常に気難しい。

気に入らない事があふればすぐに気が変わるし、そうでなくとも基本的にわがままだ。

相手の要求を飲みすぎると調子に乗って仕事すらしなくなってしまうし、要望をこちらが聞かな過ぎても離れていってしまう。

だが美雪の話からして、そういった普通の男性とも違う気がする。

なんにせよ、実際に会って、話をして、付き合い方というものを模索していくしかない。

なに、今までだって男性相手には高額報酬をエサになんとかやってきた。

若い子であれば色をつけて、さらに言葉でおだてれば、よほどの事がない限りつきあっていけるだろう。

社会を知らない男の子であれば、チヤホヤしていい気分にさせてやればいい。

――そう思っていた時期が私にもあった。

この時は思いもしなかったのだ。

金と世辞がまったくきかない男がいるなどと。
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