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『春に咲いた花を揺らす胡蝶の如く(09)』

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『春に咲いた花を揺らす胡蝶の如く(09)』

「え……?」
「でもね、春日井さん。ボクはね? 時と場所を選ばず、やたらと発情する犬っていうのはあまり好きじゃないんだ」
「……あ、あの……」
「ボクと春日井さんは今から新しい関係になった。ならモノには順序というものがあると思わない?」

いつもの彼からは考えらないよう態度と口調。

私は自分が調子に乗りすぎた事を知る。

さきほどとは違う意味の涙が、後悔とともにあふれ出る。

しかし、ああ、しかし。宮城君は微笑んだ。

「だけど春日井さんはお利口さんだよね? 今は少し浮かれちゃっただけだよね?」

……そう。

そうなの!

つい、つい、あんまりにも嬉しくて!

私に子を産ませてくれると言ってくれた言葉に、我を失ってしまっただけなの!

「え、ええ! そう、そうなの。嬉しくてつい……ッ! ごめんなさい、ごめんなさい!」
「大丈夫。ボクは気にしていないよ。じゃあ改めて。飼い主としてお散歩をしてみたいな。どうかな?」
「え、ええ、私は利口な子だから。大丈夫、お散歩しましょう!」

お散歩。するわ、お散歩!

「じゃあ立って。すこし歩こうか」
「え、ええ、そうね、歩きましょう」

差し出された手をとる。

手をつないでいいのだろうか? もしかして、手をつないだまま散歩するのだろうか?

それはどんなに幸せで……と思った瞬間。

私が宮城君の横に並び立つとふいに、体が揺れた。

「さ、行こう」
「……ええ」

私を腰に手をまわされ、グッと抱き寄せられた。



***



夕暮れの公園を宮城君と一緒に歩く。

子供のころはよく遊びにきた公園。

見慣れた景色の中、ペンキの色も鮮やかだった遊具は、私の思い出にある頃よりもだいぶ色あせてさび付いていた。

すれ違う人影もないまま、宮城君と遊歩道を歩いていく。

「……」
「……」

腰を抱き寄れて密着しているせいで、どうしたって常に男の人の体を意識してしまう。

しかし、今さっき、私は叱られたばかり。

サカってばかりいるペットではダメ。

ちゃんとご主人様のいう事をきけるペットにならないと。

そう思うほどに我慢がきかなくなっていく。

「あ、あの、宮城く……」

そうして、つい、おねだりしようと宮城君によりかかった時。

「あっ」
「なにかな?」
「あ、あっ、え? えっと、その……」

宮城君が私のお尻に手をあてて……いいえ、わしづかみ、というのかしら。

大きくて、硬い手。指の関節がわかるほどに強く、私のお尻をつかんだ。

と、思いきや、すっと力が抜けて、優しく撫で始めた。

「なに?」

なに、と問われても、私が問いかけたい。

これはなに? 一体、私は何をされていて、宮城君は何を望んでいて、私はどうすればいいの、と?

女のお尻なんて触っても何も楽しくないでしょう?

けれど、ペットはご主人様の言う通りにするものだから、私は首を横に振る。

「んんっ……な、何でもないわ。何でもない、のっ……んっ」
「どうしたの? 足が止まってるよ?」
「あ、ご、ごめんなさい」

止まっていた足に力を入れる。

ふたたび、ゆっくりと歩き始める私達。
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