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『春に咲いた花を揺らす胡蝶の如く(05)』
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『春に咲いた花を揺らす胡蝶の如く(05)』
宮城君が思い出したようにホクロと私の顔を見比べる。
「ごめんなさい。宮城君にホクロを見られた後、ずっとファンデーションで隠していたの」
「え、ええと」
さすがにこれには動揺した宮城君だったけれど、それでもなお、彼は怒気を見せる事なく私の話に耳をかたむけてくれる。
「でも……お前みたいな気持ち悪い女、二度と顔を見せるな。そう言ってくれれば、私、すぐに消えるから。学校も辞めるから……」
この言葉に嘘はない。
どのみち宮城君が私が痴女をした事を誰かに告げれば私は学校にいられなくなる。
「ま、待って、待って。どういう事なのか聞いてもいい?」
「……聞いてくれるの?」
嗚呼、やっぱり宮城君は私の天使だった。
責めるでもなく、怒るでもなく、憐れな私に救いを差し伸べるように私を見つめている。
私は全てを吐露する。
「……私。変態なの」
自分の言葉に自分の胸がきゅっと締まる。
「男の人に見られたくて仕方ないの」
そんな願望を自分の心の中だけで処理できず。
「男の人に……興味をもってもらいたかったの。好きになって欲しいなんて望まない、ただ、見てくれる、ただ気にしてくれる、時々でいいから声をかけてくれる。それだけでいいから男の人に見て欲しかったの」
あろうことか、宮城君の優しさに付け込むように、その黒い瞳を見つめ返した。
「私……見られるのが好きなの。ずっと見られたいと思っていたから……たとえどんな目であっても、男の人に見られたいと思って、気が付いたら……あんな事を」
「……露出の事?」
私の『見られたい』は男性に愛されたい、認められたい、少しの間だけでも覚えていて欲しい、そういう思い。
だから言葉に含む意味は違う。
宮城君もそう言いたいのだと思うし、それはその通りで。
「わかってるわ。それが私の望む『見られ方』ではないのは」
「そ、そうだよね。良かった」
「でも、少し前……宮城君が転入する前から、少し離れた駅で休日に露出癖のある不審者が出没するようになったと聞いたの」
「あ、そうらしいね。最近の事じゃないんだ?」
「それを最初に聞いた時、私、思った。とんでもない事をするって」
「そうだね」
「被害にあった男性がかわいそうとも思った」
「……そうだね」
「でも」
でも。
私はその痴女を心から責められなかった。
その思いに共感してしまった。
抑えきれなくなった体が心の鎖を切ってしまって、体が言う事を聞かなくなってしまったのだと理解できるから。
「被害者の男性には申し訳ないと思うけど……その女がうらやましかった。少なくともその一瞬は自分の事だけを見てもらえる、トラウマになるかもしれないけど、もしかしたら一生覚えてもらえるかもって」
病気かもしれない。
心を痛めて、体を痛めて、自分の全てを痛めて、なお止まらない衝動。
だから私は自分が暴走する前に、なんとか代償行為を見つけて、頑張った。
「でもだからって、私はそんな事をしない。そういうのは……犯罪にならない程度でおさえるべきだって」
「……じゃあ、その恰好」
「ええ。最初は冬に薄着なんてしていたから職務質問もよくされたけど。最近は見極めもうまくなったし。犯罪じゃないなら大丈夫でしょう?」
「でも……ボクにその、下着を見せてきたのは?」
「あれは……本当にごめんなさい。本当にそんなつもりはなかったの」
「けど、そういう恰好だったよね。しかも人気のない路地裏で……」
あの時の私は、サングラス、マスク、コート、その下は下着姿の半裸だった。
あそこまでした事は初めてだったし、ひどく興奮状態だった。
そんな時に限って宮城君と出会ったのだ。不運であり、幸運であり、やっぱり不幸だった。
そのせいでこんな事になってしまったのだろうから。
「あの時はつい逃げてしまったけど、次の日に宮城君に何もかも話して謝ってから警察に行こうと思ってた」
「あ、うん、そうなんだ」
「だけど……宮城君、あんな事をされたのに平気そうで……心の中ではそんな事ないと思っていても、やっぱり平気そうだったから」
「……ああ、ええと、うん、そうだね」
「近寄ってみても嫌がらないし……だから思ったの。もしかして宮城君……ごめん、こんな言葉、失礼だとわかってるけど……好色漢なのかなって」
すごく失礼な事を言っている自覚はあるけれど、冬原先生の言葉や、痴女と明かした私を前にしても動じないこの態度は、そうでなければ説明がつかない。
しかし宮城君は好色漢という言葉を初めて聞いたようで、首をかしげていた。
宮城君が思い出したようにホクロと私の顔を見比べる。
「ごめんなさい。宮城君にホクロを見られた後、ずっとファンデーションで隠していたの」
「え、ええと」
さすがにこれには動揺した宮城君だったけれど、それでもなお、彼は怒気を見せる事なく私の話に耳をかたむけてくれる。
「でも……お前みたいな気持ち悪い女、二度と顔を見せるな。そう言ってくれれば、私、すぐに消えるから。学校も辞めるから……」
この言葉に嘘はない。
どのみち宮城君が私が痴女をした事を誰かに告げれば私は学校にいられなくなる。
「ま、待って、待って。どういう事なのか聞いてもいい?」
「……聞いてくれるの?」
嗚呼、やっぱり宮城君は私の天使だった。
責めるでもなく、怒るでもなく、憐れな私に救いを差し伸べるように私を見つめている。
私は全てを吐露する。
「……私。変態なの」
自分の言葉に自分の胸がきゅっと締まる。
「男の人に見られたくて仕方ないの」
そんな願望を自分の心の中だけで処理できず。
「男の人に……興味をもってもらいたかったの。好きになって欲しいなんて望まない、ただ、見てくれる、ただ気にしてくれる、時々でいいから声をかけてくれる。それだけでいいから男の人に見て欲しかったの」
あろうことか、宮城君の優しさに付け込むように、その黒い瞳を見つめ返した。
「私……見られるのが好きなの。ずっと見られたいと思っていたから……たとえどんな目であっても、男の人に見られたいと思って、気が付いたら……あんな事を」
「……露出の事?」
私の『見られたい』は男性に愛されたい、認められたい、少しの間だけでも覚えていて欲しい、そういう思い。
だから言葉に含む意味は違う。
宮城君もそう言いたいのだと思うし、それはその通りで。
「わかってるわ。それが私の望む『見られ方』ではないのは」
「そ、そうだよね。良かった」
「でも、少し前……宮城君が転入する前から、少し離れた駅で休日に露出癖のある不審者が出没するようになったと聞いたの」
「あ、そうらしいね。最近の事じゃないんだ?」
「それを最初に聞いた時、私、思った。とんでもない事をするって」
「そうだね」
「被害にあった男性がかわいそうとも思った」
「……そうだね」
「でも」
でも。
私はその痴女を心から責められなかった。
その思いに共感してしまった。
抑えきれなくなった体が心の鎖を切ってしまって、体が言う事を聞かなくなってしまったのだと理解できるから。
「被害者の男性には申し訳ないと思うけど……その女がうらやましかった。少なくともその一瞬は自分の事だけを見てもらえる、トラウマになるかもしれないけど、もしかしたら一生覚えてもらえるかもって」
病気かもしれない。
心を痛めて、体を痛めて、自分の全てを痛めて、なお止まらない衝動。
だから私は自分が暴走する前に、なんとか代償行為を見つけて、頑張った。
「でもだからって、私はそんな事をしない。そういうのは……犯罪にならない程度でおさえるべきだって」
「……じゃあ、その恰好」
「ええ。最初は冬に薄着なんてしていたから職務質問もよくされたけど。最近は見極めもうまくなったし。犯罪じゃないなら大丈夫でしょう?」
「でも……ボクにその、下着を見せてきたのは?」
「あれは……本当にごめんなさい。本当にそんなつもりはなかったの」
「けど、そういう恰好だったよね。しかも人気のない路地裏で……」
あの時の私は、サングラス、マスク、コート、その下は下着姿の半裸だった。
あそこまでした事は初めてだったし、ひどく興奮状態だった。
そんな時に限って宮城君と出会ったのだ。不運であり、幸運であり、やっぱり不幸だった。
そのせいでこんな事になってしまったのだろうから。
「あの時はつい逃げてしまったけど、次の日に宮城君に何もかも話して謝ってから警察に行こうと思ってた」
「あ、うん、そうなんだ」
「だけど……宮城君、あんな事をされたのに平気そうで……心の中ではそんな事ないと思っていても、やっぱり平気そうだったから」
「……ああ、ええと、うん、そうだね」
「近寄ってみても嫌がらないし……だから思ったの。もしかして宮城君……ごめん、こんな言葉、失礼だとわかってるけど……好色漢なのかなって」
すごく失礼な事を言っている自覚はあるけれど、冬原先生の言葉や、痴女と明かした私を前にしても動じないこの態度は、そうでなければ説明がつかない。
しかし宮城君は好色漢という言葉を初めて聞いたようで、首をかしげていた。
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