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『春に咲いた花を揺らす胡蝶の如く(01)』
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『春に咲いた花を揺らす胡蝶の如く(01)』
冬原先生に送ってもらって早退した翌日。
私はいつものように早めに登校して、顔を合わせるクラスメートたちに昨日の事情なんかを説明しながら、宮城君を待つ。
事情というのは、忘れものを取りに来た私と宮城君が合流し、そのあと視聴覚室に戻ろうとした後、宮城君が男子トイによった際にまた蛇口が故障したという事。
手伝おうとした私が一緒に濡れてしまい、体調が悪くなった為、そのまま冬原先生に送ってもらったという事だ。
宮城君に対しては、私は保健室に入ったあたりで気絶していた、という事になっているけどいいんだろうか?
色々なところであやふやになっているものの、冬原先生はこうも言った。
『最終的に宮城が口をつぐめばこれが真実になる』と。
私は考える。
確かに宮城君に言い含んでもらえれば、職員室や保健室をおとずれた際に濡れていた事に関しても、それで辻褄がつく……はずだ。
職員室の他の先生も、山崎先生も、詳しい事情までは知らないし、つい先日も冬原先生自身が同じようにトイレの蛇口が壊れて濡れたていたことを多くの人が知っている……。
……トイレの蛇口が壊れていないのを知っているのは私と先生だけだけれども。
その時の事情を聞きかけた時、冬原先生が秘密だと言いつつも、どうしても聞きたいか? と面倒くさい表情を浮かべたのであえて私は何も聞かなかった。
きっと私と同じように……宮城君がらみなんだろうし。
そんな事を考えていると、宮城君が教室に入ってきた。
私は最前列の席だけれども、後ろを見なくても すぐにわかる。
彼が入ってくるだけで、教室の雰囲気はざわめくし、おはようの挨拶が色々なところから飛び交うのだから。
私は一つ、深呼吸をして席を立つと、普段通りを必死に装って宮城君の席へと向かう。
主不在の青葉の机を見ていた宮城君に私は声をかける。
「夏木さん、今日はお休みよ。風邪ですって。昔からそう。体は丈夫なのによく風邪をひいていたから」
「ふうん?」
青葉は、昔からすぐに寝冷えをするのよね。ちょっと夜更かしをしたりすると風邪をひきやすかった。
「それより……昨日はありがとう、その、色々と……ね」
小声で私はお礼をいいつつ、宮城君の様子をうかがう。
ここで嫌悪されるようなら、昨日の私の痴態は覚えているに違いない。
けれど。
「あ、うん。あれくらい」
宮城君はいつものような微笑みをそえた顔で、そう答えた。答えてくれた。
……本当に先生はうまく誤魔化せたらしい。
そんなはずはない。
けれど、そんな事があるのであれば。
先生の言葉が脳裏で繰り返される。
『宮城はお前をねらっている』と。
だから宮城君にとっても、こうした方が都合がいいのだ。
……本当に?
「冬原先生にもご迷惑をかけてしまって。本当に恥ずかしい」
「はは。誰だってそういう時はあるよね」
「ありがとう、そう言ってもらえると気が楽になるわ」
私は宮城君の目を見て話を続ける。
そこにあるのは真実か、それとも嘘なのかを見抜こうと。
少し大きめの黒縁メガネの奥にある瞳。
初めて間近で見つめる宮城君の瞳は、黒くて、黒くて、だけど――黒くなかった。
見つめていると、スッと吸い込まれそうな、そんな不思議な感覚になる。
同時に色々な不安が薄れて、逆に温かい安心感を肌に感じる。
この人の為なら何でもしたい、何でもしてあげたいと思える、不思議な気持ちになっていく。
今なら言える。
勇気を出して宮城君を誘った。
「宮城君。それでね。お礼もしたいし、今日の放課後……お茶とかどうかな?」
「あ。うん、もちろん。お礼なんていらないけど、お茶に誘ってもらえるのは嬉しいよ」
私の勇気は報われた。
冬原先生に送ってもらって早退した翌日。
私はいつものように早めに登校して、顔を合わせるクラスメートたちに昨日の事情なんかを説明しながら、宮城君を待つ。
事情というのは、忘れものを取りに来た私と宮城君が合流し、そのあと視聴覚室に戻ろうとした後、宮城君が男子トイによった際にまた蛇口が故障したという事。
手伝おうとした私が一緒に濡れてしまい、体調が悪くなった為、そのまま冬原先生に送ってもらったという事だ。
宮城君に対しては、私は保健室に入ったあたりで気絶していた、という事になっているけどいいんだろうか?
色々なところであやふやになっているものの、冬原先生はこうも言った。
『最終的に宮城が口をつぐめばこれが真実になる』と。
私は考える。
確かに宮城君に言い含んでもらえれば、職員室や保健室をおとずれた際に濡れていた事に関しても、それで辻褄がつく……はずだ。
職員室の他の先生も、山崎先生も、詳しい事情までは知らないし、つい先日も冬原先生自身が同じようにトイレの蛇口が壊れて濡れたていたことを多くの人が知っている……。
……トイレの蛇口が壊れていないのを知っているのは私と先生だけだけれども。
その時の事情を聞きかけた時、冬原先生が秘密だと言いつつも、どうしても聞きたいか? と面倒くさい表情を浮かべたのであえて私は何も聞かなかった。
きっと私と同じように……宮城君がらみなんだろうし。
そんな事を考えていると、宮城君が教室に入ってきた。
私は最前列の席だけれども、後ろを見なくても すぐにわかる。
彼が入ってくるだけで、教室の雰囲気はざわめくし、おはようの挨拶が色々なところから飛び交うのだから。
私は一つ、深呼吸をして席を立つと、普段通りを必死に装って宮城君の席へと向かう。
主不在の青葉の机を見ていた宮城君に私は声をかける。
「夏木さん、今日はお休みよ。風邪ですって。昔からそう。体は丈夫なのによく風邪をひいていたから」
「ふうん?」
青葉は、昔からすぐに寝冷えをするのよね。ちょっと夜更かしをしたりすると風邪をひきやすかった。
「それより……昨日はありがとう、その、色々と……ね」
小声で私はお礼をいいつつ、宮城君の様子をうかがう。
ここで嫌悪されるようなら、昨日の私の痴態は覚えているに違いない。
けれど。
「あ、うん。あれくらい」
宮城君はいつものような微笑みをそえた顔で、そう答えた。答えてくれた。
……本当に先生はうまく誤魔化せたらしい。
そんなはずはない。
けれど、そんな事があるのであれば。
先生の言葉が脳裏で繰り返される。
『宮城はお前をねらっている』と。
だから宮城君にとっても、こうした方が都合がいいのだ。
……本当に?
「冬原先生にもご迷惑をかけてしまって。本当に恥ずかしい」
「はは。誰だってそういう時はあるよね」
「ありがとう、そう言ってもらえると気が楽になるわ」
私は宮城君の目を見て話を続ける。
そこにあるのは真実か、それとも嘘なのかを見抜こうと。
少し大きめの黒縁メガネの奥にある瞳。
初めて間近で見つめる宮城君の瞳は、黒くて、黒くて、だけど――黒くなかった。
見つめていると、スッと吸い込まれそうな、そんな不思議な感覚になる。
同時に色々な不安が薄れて、逆に温かい安心感を肌に感じる。
この人の為なら何でもしたい、何でもしてあげたいと思える、不思議な気持ちになっていく。
今なら言える。
勇気を出して宮城君を誘った。
「宮城君。それでね。お礼もしたいし、今日の放課後……お茶とかどうかな?」
「あ。うん、もちろん。お礼なんていらないけど、お茶に誘ってもらえるのは嬉しいよ」
私の勇気は報われた。
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