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『春に舞い降りた私の天使(春日井crushing16)』

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『春に舞い降りた私の天使(春日井crushing16)』

平静を装う私だが、その実、もう心臓は期待ではちきれそうなほど高鳴り、血管の脈動はこのまま破裂するのではないかというほどになっている。

すぐそこに、まさに手が届く距離どころか、触れているのだ。

私は宮城君に触れている。

すぐにでも押し倒せる状況で……いや、押し倒すのはダメだ。

あくまで私は宮城君に使われる立場でないといけない。

私に触れられたまま、けれど動かない宮城君を見る。

私は待つ。

じっと待つ。

今にも宮城君が私を押し倒してくれるのを待つ。

しかし宮城君は動かず、ただ私に向かって信じられないという視線を向けるのみだった。

彼はとても美しくて。私のような薄汚い犯罪者とは違っていて……。

再三、思う。

やはりこれは夢なのでは、と。

あれだけのことをしていて、見逃してもらえるはずがない。

どれだけ優しい男性だって、自分の机で自慰をしていた女をかばうはずがない。

きっと私の記憶は壊れたのだ。

都合よく改変されていて、今の私のそんな狂った自分が見ている夢だ。

本当の私は、獄中の冷たいベッドの中、執行を待つ囚人に違いない。

こんな都合のいい事が現実のはずがないのだ。

であれば、やはりこれは夢。

今の私は夢の中の胡蝶。

正気を失った私が本物なのか、狂った私が夢に見る私が本物なのか。

どちらでもいい。

夢なら、覚める前にやる事は一つ。

「これ、邪魔だね」

強引に宮城君のまとう毛布をはぎとった。

「あ、だ、だめ」

宮城君の半身があらわになる。

うっすらと筋肉に包まれた、女とは違うガッシリとした体のラインが艶めかしい。

硬いと想像した男の体、机に想いを重ねて自慰をした宮城君の体。

だがそれよりも私の目に焼き付いたのは、彼の着用している下着。

ピッチリとした下着、膨らんでいる股間。

黒のボクサーパンツだった。

それを見て、その輝きを目に受けて、私の目は潰れたかと思った。

こんな淫猥な下着、女性向け雑誌の中であえぐ男しかはかないものだと思っていた。

もしこんな下着をはかせようとする女がいれば、まちがいなくムッツリだ。

今は、そんな事はどうでもいい。やっぱり宮城君はエロい天使様、私にふさわしいご主人様だった!

私は沸騰しそうになる頭と、熱でゆがみはじめた視界の中、宮城君へとおおいかぶさろとうした。

手順は頭ではわかっている。

まず手なり口なりで彼の準備を整えて、それから――。

その時、保健室の扉がノックされた。

「二人とも待たせたな。風邪などひいていないか?」

声とともに現れたのは、手に大きな紙袋を持った冬原先生だった。

「……ふむ」

冬原先生の視線はまっすぐこちらを向いている。

すなわちベッドの上で今にもおおいかぶさろうとしている下半身をさらしている私と、毛布を取られて黒い下着のみになった宮城君をだ。

夢の中だというのに、先生がジャマをする。

早くどこかに行ってくれないかなと思う。

自分の夢だというのに、自分の思い通りにならない、このもどかしさ。

誰もが経験があると思うけど、今がまさにそれだった。

荷物をおいて、冬原先生がゆっくりこちらに近づいてきた。

「……」
「……」

目が合う。

やっぱり美人よね。

私もこれだけ美人だったもっとうまくやれるのに。

「え? 先生?」 

あれ、なんだろう。何かおかしい。

先生の姿に違和感がある。

ああ、スーツ。そう、先生はスーツだ。

朝、宮城君が男子トイレの洗面台が故障して、それを直すため、に……塗れ……。

急に襲ってくる現実感。

そうだ。

「え? あれ? 私?」

私も、そうだ!

ならきば、これは現実。現実!

「え、え……? これ、夢じゃ!?」

私は目の前の宮城君を見る。

「み、宮城君!? え、ほ、本物!?」
「……はい、宮城ですよ。本物です」

そう言ってはにかんだ宮城君。

かかる吐息が温かい。

あれも現実、これも現実。

私は、私は……ッ!?

「……うーん」

夢だと思って、重ねた罪の大きさに耐え切れなくなって、視界がゆがんでいく。

「あっ、ちょっ!?」

再び意識を失った。
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