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『春に舞い降りた私の天使(春日井crushing05)』
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『春に舞い降りた私の天使(春日井crushing05)』
「ねえ、宮城君ってまだ教室にいた?」
私は壁にかかっていている時計を見ながらたずねる。
「なに? 人気のない所で告白でもする気ー?」
冗談交じりの牽制が飛んでくる。
これが常に行われている砂上の鉄筋コンクリートのメンテナンスだ。
「そうじゃなくて。私、自分の教科書とか忘れたのよ。取りに行かないと。けど鍵がかかってたら教室に入れないし……」
事情を説明すると、あー、という顔になる二人。
そうこうしている間に、他の子たちも視聴覚室に入ってくる。
つまり、もうそんな時間だ。余裕はない。
「宮城君が来るのをここで待ってた方がよくない?」
「今から教室に戻って、途中で鍵をもらえればいいけど、宮城君がどこを通ってコッチに来るかわからないでしょ?」
その通りだ。
ちなみに、ここにも見えない牽制が入っている。
なるべく宮城君と二人きりにさせないように、という配慮が。
別に私を憎し、というわけではないし、これがウチのクラスの平和と健全さを保つ秘訣でもある。
やりすぎだと思うだろうか? けれど、ここまでやっているから毎日の幸せがあると考えれば?
ともかく、私は二人のクラスメートにうなずき、出口で待っていると伝えて視聴覚室を出る。
ドア付近で立って待つ私の横を通り過ぎながら、クラスメートがけげんな顔をしたり、理由をたずねかけたりしながら中に入ったいく。
青葉はこなかった。またサボりか。
「……あ」
そうして、ようやく。
男の子の歩幅ってやっぱり広いわね、と思いながら、やってくる宮城君の姿を見つけた。
そして、ドアの前で待っていた私を見る。
「ああ、宮城君。ありがとう」
私はまず施錠のお礼を言う。
「春日井さん? どうしたの?」
対して、首をかしげる宮城君。
普通の男の子がやってもクラっとする仕草なのだから、宮城君がやればクラクラさせられる。
「それがね。私、教室に忘れ物していたのを今気づいたの。すぐに取ってくるから教室の鍵、いいかしら?」
「時間、大丈夫?」
宮城君の差し出した鍵を受け取る。ほんのわずか指が触れた。
「ええ。先生には少し遅れますと言ってあるから。授業の準備で時間をとられてるんだから、これくらいはね?」
私の言葉に、そうだね、という顔でうなずく宮城君。
「それじゃ」
そう言い残し、私は急いで教室へと走り出す。
予鈴もなり終え、すでに廊下に人影はなく、それが私の足をさらに急がせる。
残ったクラスメートには先生への遅刻の言伝を頼んでいるものの、遅れないに越したことはない。
とはいえ、全力で走るというのも外聞が悪い。
そんなどちらともつかない速さで歩き、時に走って、綿しは教室に戻ってきた。
鍵を開けて、最前列の自分の机の中から教科書、ノート、ペンケースを取り出した。
「……」
誰もいない教室は見慣れた場所であるのに、いつもの光景と違って、不思議な雰囲気がある。
つい自然と視線が向くのは最後列。
壁際、窓から昼下がりのやわらかい陽光が差し込む場所にある机。
「宮城君……」
無意識に足が向かった。
ゆっくりと近づく。
本人がいるわけでもないのに、心臓の音が高鳴る。
近づけば近づくほど、今ここにいないはずの人の笑顔や声を感じる。
「ねえ、宮城君ってまだ教室にいた?」
私は壁にかかっていている時計を見ながらたずねる。
「なに? 人気のない所で告白でもする気ー?」
冗談交じりの牽制が飛んでくる。
これが常に行われている砂上の鉄筋コンクリートのメンテナンスだ。
「そうじゃなくて。私、自分の教科書とか忘れたのよ。取りに行かないと。けど鍵がかかってたら教室に入れないし……」
事情を説明すると、あー、という顔になる二人。
そうこうしている間に、他の子たちも視聴覚室に入ってくる。
つまり、もうそんな時間だ。余裕はない。
「宮城君が来るのをここで待ってた方がよくない?」
「今から教室に戻って、途中で鍵をもらえればいいけど、宮城君がどこを通ってコッチに来るかわからないでしょ?」
その通りだ。
ちなみに、ここにも見えない牽制が入っている。
なるべく宮城君と二人きりにさせないように、という配慮が。
別に私を憎し、というわけではないし、これがウチのクラスの平和と健全さを保つ秘訣でもある。
やりすぎだと思うだろうか? けれど、ここまでやっているから毎日の幸せがあると考えれば?
ともかく、私は二人のクラスメートにうなずき、出口で待っていると伝えて視聴覚室を出る。
ドア付近で立って待つ私の横を通り過ぎながら、クラスメートがけげんな顔をしたり、理由をたずねかけたりしながら中に入ったいく。
青葉はこなかった。またサボりか。
「……あ」
そうして、ようやく。
男の子の歩幅ってやっぱり広いわね、と思いながら、やってくる宮城君の姿を見つけた。
そして、ドアの前で待っていた私を見る。
「ああ、宮城君。ありがとう」
私はまず施錠のお礼を言う。
「春日井さん? どうしたの?」
対して、首をかしげる宮城君。
普通の男の子がやってもクラっとする仕草なのだから、宮城君がやればクラクラさせられる。
「それがね。私、教室に忘れ物していたのを今気づいたの。すぐに取ってくるから教室の鍵、いいかしら?」
「時間、大丈夫?」
宮城君の差し出した鍵を受け取る。ほんのわずか指が触れた。
「ええ。先生には少し遅れますと言ってあるから。授業の準備で時間をとられてるんだから、これくらいはね?」
私の言葉に、そうだね、という顔でうなずく宮城君。
「それじゃ」
そう言い残し、私は急いで教室へと走り出す。
予鈴もなり終え、すでに廊下に人影はなく、それが私の足をさらに急がせる。
残ったクラスメートには先生への遅刻の言伝を頼んでいるものの、遅れないに越したことはない。
とはいえ、全力で走るというのも外聞が悪い。
そんなどちらともつかない速さで歩き、時に走って、綿しは教室に戻ってきた。
鍵を開けて、最前列の自分の机の中から教科書、ノート、ペンケースを取り出した。
「……」
誰もいない教室は見慣れた場所であるのに、いつもの光景と違って、不思議な雰囲気がある。
つい自然と視線が向くのは最後列。
壁際、窓から昼下がりのやわらかい陽光が差し込む場所にある机。
「宮城君……」
無意識に足が向かった。
ゆっくりと近づく。
本人がいるわけでもないのに、心臓の音が高鳴る。
近づけば近づくほど、今ここにいないはずの人の笑顔や声を感じる。
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