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『春に舞い降りた私の天使(春日井crushing01)』

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『春に舞い降りた私の天使(春日井crushing01)』

私の名前は春日井陽子。

よくある母子家庭の一人娘。

父の名も顔も知らず、バンクに登録されていた14ケタの番号だけが戸籍の父の欄に記入されている。

珍しい事ではなく、むしろ大多数がそうだろう。

母は常々言っていた。

良い大学を出て、良い会社に入れば、きっと自分を見初めてくれる男性に出会える、と。

だが母は大企業の重役でもあったし、出身校も知らない者はいない最高学府だった。

身内びいきと言われるかもしれないが、美人でもあるし、性格だって温厚だ。

そんな母ですら夫を持つ事が難しいのがこの世の中。

どれほど努力しても、男性とお付き合いすることすらできないのではないかと諦めてもいた。

一方で、運とめぐり合わせだけで父を持つ者もいる。

小学校の頃は単にうらやましかった。

夏木 青葉。

小学校で一年生の時に同じクラスになった子。

仲良くなり始めたのは三年生くらいだろうか。

初めて彼女の家に遊びにいった時の衝撃は今も忘れない。

『初めまして、青葉のお友達かな。よろしくね?』

頭を撫でられた私は硬直した。

大きな背、大きな手、低い声。

大人の男性を初めて間近で見て、触れられた瞬間だった。

青葉の父だった。

以来、私はちょこちょこと青葉の家に遊びに行くこととなり、彼女の父とお話することを楽しみとしていた。

やがて成長し、思春期を迎えるころには、自覚はなかったものの性的な対象と見ていた。

もちろん友人の父に対してアプローチなどするはずもないし、そんなつもりもない。

ただ会話できる男性がいる、という事だけで幸せだった。

そして中学二年になったある日。

彼はいなくなった。

いつも豪快に笑っていた青葉の母親は、その時ばかりは苦笑したような顔で「ちょっと長い散歩に出かけたのさ」と言っていた。

一方で青葉は混乱し、泣きわめいていた。

かける言葉もないが、なんとかなだめようとした私に対しこう言った。

「お父さんのいない陽子ちゃんにはわからないよ!」

と。

私はカッとなり。

「お父さんのいる青葉ちゃんに私の気持ちがわかるの!?」と。

妬ましかった。

羨ましかった。

なんで私にはお父さんがいないのに青葉ちゃんにはいるの? という、ずっと心の奥でくすぶっていた思いをぶつけてしまった。

互いに子供とはいえ、言ってはいけない言葉を投げつけ合ってしまったのだ。

青葉の母親、涼香さんもさすがにマズい思ったのか、私達の仲を取り持とうとしてくれたが、結局、私達はその日を境に疎遠となった。

同じ高校に入り、同じクラスになった今も変わらない。

青葉はお父さんがいなくなったあたりから生活態度がかわり、髪なども染めるようになった。

父をなくした娘が興味を引く為に非行に走る、そんなものだろう。
だが実際に素行不良、というわけではないのでポーズだけだと思う。

見た目や無愛想な言動で怖がられているが、昔から青葉を知っている私は必要であれば構わず接する。

ただそれは友人としてではなく、あくまでクラス委員として。

本音で言えば、昔の失言もあって顔も合わせづらい。

だがあの時とっさに出た言葉は本心だ。

父を知らない私にとって、父がいた幸せな時間を。思い出を持ってるくせに甘えるな、と、今も思うのもまた事実。

一方で、青葉が私をどう思っているかはわからない。

私に対するぶっきらぼうな態度を見れば、あっちも私を嫌っているだろうが、むやみにつっかかってくる事はない。

今さら仲直り、というのも難しいし、これくらいの距離感がちょうどいいと思う。

昔馴染みが新学期早々、クラスで孤立しているのは少し気になったが、今更そんなことで世話を焼いたり焼かれたい年頃でもない。

この一年もそうして過ぎていくものだと考えていた。

そんな中、転機がおとずれた。

転入生。

四月も入ったばかりで時期的にどうなんだろう? 何か事情があったのかと思ったが、そんな疑問は一瞬で吹き飛んだ。

転入生は男子生徒。

それも目を奪われる、いや、心を奪われるほどの美少年だった。

名前は、宮城京、君。

このクラスに初恋がまだだったクラスメートがいたのであれば、この日その数がゼロとなったのは間違いない。
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