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『春日井の告白』
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『春日井の告白』
一応、オレは転入生という設定もあるので、初めて見るような顔で春日井さんの隣を歩く。
「広い公園だね。緑もたくさんあるし」
「ええ。自然公園だからあるのは自動販売機くらいだけど。日曜日には売店なんかも開いているんだけどね」
それも知っている。
子連れの親子なんかで賑わっている公園で生前のオレには縁のなかった場所だ。
大きな敷地の中には区分けされた小さな公園や広場がいくつもある。
小学生くらいのお子様向け遊具がある広場や、ピクニックなんかにあおつらえな広くて手入れのされた草原の広場、小さな川や池が巡らされた景観用の公園、などなど。
中には予約と使用料も必要だがテニスコートやバーベキュー、ワンデイキャンプの施設のエリアなんてのある。
まぁ、とにかく広くて色々ある場所だ。外周を歩くだけでも半日はかかる。
公園に入り少し歩いて、春日井さんが足を止めたのは噴水とベンチのある広場だ。
「座りましょうか」
「そうだね」
噴水のある大きな石畳の広場には、ベンチが何脚か設置してある。
春日井さんがその一つを指さして促してくる。
カフェとは違って対面ではなく、横並びに座るオレと春日井さん。
「……」
「……」
どちらともなく口を閉ざして、噴水越しに見える夕陽を眺める。
この広場には他に人もおらず、時折少し離れた遊具のある広場から子供たちの声が聞こえてくるのみだ。
「ふふ、子供は元気ね」
「ここまで声が聞こえてくるほどだから。元気がありあまっているよ」
「宮城君は子供、好き?」
「うん、好きだよ」
実におだやかな雰囲気。
オレがどれほど鋼のメンタルの持主であっても、このシチュエーションでセフレになってくださいとは言えない。
「……昨日の事だけどね」
「あ、うん」
唐突に春日井さんがオレの求めていた話題をふってきた。
「本当に感謝しているの。あんな事をしてしまった私をかばってくれて……その、片づけまでしてくれて。水をかぶせられた時は混乱したけど、とっさにあんな事を思いつくなんて宮城君、さすがね」
流石も何も、知られちゃいけない床の染みを片づけるのは二回目だったし。
それよりもおしっこを漏らしてオレが証拠隠滅をしたという所までは記憶にある誤魔化し設定か。把握。
あとはオレの机と仲良くしていた事をオレが知っているという肝心の所はどうなのか?
「それでね。その。私、あれからずっと宮城君の事ばかり考えてしまうようになって……」
「う、うん」
夕陽に照らされた学生が二人。
周りには誰もいない公園で、聞こえてくるのは子供たちの楽し気な声。
息遣いが届くほどの場所に座るクラスメート。
春と夏のスキマにある、涼しくもあり、暑くもない、わずかな時間。
それはまるで燃え上がる恋の前兆とよく似ている。
「宮城君」
呼びかけられて春日井さんを見れば、その頬が赤いのは夕陽だけのせいじゃないだろう。
「私、私ね……」
うるんだ瞳はオレを見つめたまま、まだ言葉になっていない想いを如実に伝えてくる。
その勇気と決意に満ちたまなざしは尊敬に値する。
だがここで春日井さんの言葉をそのまま受け入れるわけにはいかないのだ。
オレは――ビッチ。
夏木さんにセフレになってくれといい、先生にも同様の関係を認めさせたビッチだ。
もしあの時、夏木さんではなく春日井さんを最初のターゲットにしていたら、きっと雰囲気に流されて春日井さんの告白を受け止めただろう。
そして爽やかで時折エッチな青春ラブストーリーが始まったていたかもしれない。
だが、そうはならなかったんだ。ならなかったんだよ。
今のオレは二人のセフレを持つ、駆け出しなれどビッチの末席を汚す身。
であれば、そのビッチたる誇りと二人のセフレへの礼儀としてこの好意は受け入れられない、春日井さんの無垢な言葉は受け入れられないのだ。
「私、宮城君の……ッ!」
だからせめて正面から受け止め、正面から断らなければならない。
その上でオレはセフレ契約を投げかける。
好きだといった男に体だけの関係を求められた時、春日井さんはどう思うだろうか?
心は通わなくとも、せめて体だけでもと了承するか。
それとも平手の一発でも見舞ってくるだろうか。そうであれば潔く諦めるつもりだ。
オレは無理強いはしたくない。
脅迫やそれに類する手段をとってまで事を為す事はしたくないのだ。
ただの平和的好色主義者として第二の人生を生きていきたい。
それだけが望みだが、だからこそゆずれないものもある。
そんなオレと知れば、真面目な春日井さんならきっと……。
オレは悲しい結果を半ば確信しながらも、春日井さんの告白を待つ。
「宮城君、私を……貴方のセックスフレンドにして欲しい!」
「ごめんね、春日井さん。ボクは恋人は作らないんだよってなんて言ったの今!?」
「セックスフレンドにして欲しいの!」
聞き間違いではなかったらしい。
一応、オレは転入生という設定もあるので、初めて見るような顔で春日井さんの隣を歩く。
「広い公園だね。緑もたくさんあるし」
「ええ。自然公園だからあるのは自動販売機くらいだけど。日曜日には売店なんかも開いているんだけどね」
それも知っている。
子連れの親子なんかで賑わっている公園で生前のオレには縁のなかった場所だ。
大きな敷地の中には区分けされた小さな公園や広場がいくつもある。
小学生くらいのお子様向け遊具がある広場や、ピクニックなんかにあおつらえな広くて手入れのされた草原の広場、小さな川や池が巡らされた景観用の公園、などなど。
中には予約と使用料も必要だがテニスコートやバーベキュー、ワンデイキャンプの施設のエリアなんてのある。
まぁ、とにかく広くて色々ある場所だ。外周を歩くだけでも半日はかかる。
公園に入り少し歩いて、春日井さんが足を止めたのは噴水とベンチのある広場だ。
「座りましょうか」
「そうだね」
噴水のある大きな石畳の広場には、ベンチが何脚か設置してある。
春日井さんがその一つを指さして促してくる。
カフェとは違って対面ではなく、横並びに座るオレと春日井さん。
「……」
「……」
どちらともなく口を閉ざして、噴水越しに見える夕陽を眺める。
この広場には他に人もおらず、時折少し離れた遊具のある広場から子供たちの声が聞こえてくるのみだ。
「ふふ、子供は元気ね」
「ここまで声が聞こえてくるほどだから。元気がありあまっているよ」
「宮城君は子供、好き?」
「うん、好きだよ」
実におだやかな雰囲気。
オレがどれほど鋼のメンタルの持主であっても、このシチュエーションでセフレになってくださいとは言えない。
「……昨日の事だけどね」
「あ、うん」
唐突に春日井さんがオレの求めていた話題をふってきた。
「本当に感謝しているの。あんな事をしてしまった私をかばってくれて……その、片づけまでしてくれて。水をかぶせられた時は混乱したけど、とっさにあんな事を思いつくなんて宮城君、さすがね」
流石も何も、知られちゃいけない床の染みを片づけるのは二回目だったし。
それよりもおしっこを漏らしてオレが証拠隠滅をしたという所までは記憶にある誤魔化し設定か。把握。
あとはオレの机と仲良くしていた事をオレが知っているという肝心の所はどうなのか?
「それでね。その。私、あれからずっと宮城君の事ばかり考えてしまうようになって……」
「う、うん」
夕陽に照らされた学生が二人。
周りには誰もいない公園で、聞こえてくるのは子供たちの楽し気な声。
息遣いが届くほどの場所に座るクラスメート。
春と夏のスキマにある、涼しくもあり、暑くもない、わずかな時間。
それはまるで燃え上がる恋の前兆とよく似ている。
「宮城君」
呼びかけられて春日井さんを見れば、その頬が赤いのは夕陽だけのせいじゃないだろう。
「私、私ね……」
うるんだ瞳はオレを見つめたまま、まだ言葉になっていない想いを如実に伝えてくる。
その勇気と決意に満ちたまなざしは尊敬に値する。
だがここで春日井さんの言葉をそのまま受け入れるわけにはいかないのだ。
オレは――ビッチ。
夏木さんにセフレになってくれといい、先生にも同様の関係を認めさせたビッチだ。
もしあの時、夏木さんではなく春日井さんを最初のターゲットにしていたら、きっと雰囲気に流されて春日井さんの告白を受け止めただろう。
そして爽やかで時折エッチな青春ラブストーリーが始まったていたかもしれない。
だが、そうはならなかったんだ。ならなかったんだよ。
今のオレは二人のセフレを持つ、駆け出しなれどビッチの末席を汚す身。
であれば、そのビッチたる誇りと二人のセフレへの礼儀としてこの好意は受け入れられない、春日井さんの無垢な言葉は受け入れられないのだ。
「私、宮城君の……ッ!」
だからせめて正面から受け止め、正面から断らなければならない。
その上でオレはセフレ契約を投げかける。
好きだといった男に体だけの関係を求められた時、春日井さんはどう思うだろうか?
心は通わなくとも、せめて体だけでもと了承するか。
それとも平手の一発でも見舞ってくるだろうか。そうであれば潔く諦めるつもりだ。
オレは無理強いはしたくない。
脅迫やそれに類する手段をとってまで事を為す事はしたくないのだ。
ただの平和的好色主義者として第二の人生を生きていきたい。
それだけが望みだが、だからこそゆずれないものもある。
そんなオレと知れば、真面目な春日井さんならきっと……。
オレは悲しい結果を半ば確信しながらも、春日井さんの告白を待つ。
「宮城君、私を……貴方のセックスフレンドにして欲しい!」
「ごめんね、春日井さん。ボクは恋人は作らないんだよってなんて言ったの今!?」
「セックスフレンドにして欲しいの!」
聞き間違いではなかったらしい。
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