225 / 412
『春日井、救出作戦』
しおりを挟む
『春日井、救出作戦』
この教室にも女生徒の小さな体なら隠す場所はある。
教室の後ろの掃除道具入れのロッカー?
いや、今すぐにというのは難しい。
さすがに近くにホウキやモップが転がっていれば、あやしまない事そのものがあやしい。
掃除道具入れではない。その逆の場所、つまり教室の前。
黒板の前、教壇にある教師用の机だ。
アレであれば中に潜る事ができる。
春日井さんの現在位置はオレの机のある場所、つまりは最後列。
隠れる場所は最前列。
つまりオレが教室に入るとすれば後ろから入る事がのぞましい。
当然、今のこの状況で扉を開けるわけにはいかない。
春日井さんと目と目で通じ合うのには、少々シチュエーションがファンタスティックだ。
「……よし」
オレは来たばかりの廊下を少し戻る。
春日井さんが一人で盛り上がっている教室から、二つほどの教室を戻り、深呼吸する。
そして教室にいる生徒たちに聞こえるような声量で。
「わ、わ、わっ、わっすれもっのー!」
と、能天気な声で歌いながら廊下をゆっくり歩き始めた。
通り過ぎた一年三組の教室で、一拍置いて笑い声が響いた。
一組の宮城君の声! そんな歓声? のようなものも聞こえてくる。
少々、恥ずかしいが、教室の中までオレの声が届いている証拠だ。
一年二組の教室の前でさらに歩調をゆるめ、かつ、声を大きくする。
やがて我らが一組の教室だが、春日井さんは気づいてくれただろうか。
この道化を演じるオレの存在と気遣いに。
やがて二組の教室内からも笑い声とオレの名前が飛び交っていた。
この世界、ムダに目立つような行動をとる男は少ないゆえに、オレが少々、変わっているという事は逆によく知られている。
噂に登るにしたってせいぜい三日四日くらいなものだろう。
その程度で春日井さんのカドオナを見なかった事にできるのなら安いものだ。
牛歩もかくやというトロトロスピードでついに戻ってきた一組。
「……」
オレはおそるおそる窓をのぞきこむ。
オレの机で気持ちよさそうにしていた春日井さんの姿はすでになく、心の中でガッツポーズをとった。
きっと教壇の机の中に身を潜らせ、息をひそめているのだろう。
良し、これならとあとはオレがさりげなく教科書を取って戻ればいいだけだ。
そうして意気揚々とドアに手をかけるが。
「……開かないじゃん」
なるほど、そう来たか。
いや、そりゃそうか。
春日井さんが教室にいないのに、鍵があいているのはおかしい。
鍵が開いている、それすなわち春日井さんが中にいる、という事なんだから。
もし開いている教室に入れば、不思議に思って探すだろう。
であれば。
彼女からすればさっきの痴態は見られていないわけであり、オレをやり過ごすなら施錠をした方が確実だ。
オレとしては手ぶらで視聴覚室に帰るハメになるわけだが、これもまた平和的な解決の一つだろう。
オレは何も見なかったし、彼女も何も見られなかった。
平和な世界である。
「……戻りますかね」
だがオレがこのままずっとここに留まると、春日井さんも出るに出られない。
教壇の方の机を一目見た後、オレは戻ろうとして。
ガタンッ!
と。
さっきまで手をかけていたドアが大きく揺れた。
何かがぶつかる様な。
まるで、体重の軽い女生徒が倒れ込んだような音だった。
「……」
さすがにこの状況で、これだけの物音に気づかなかったというのは無理がある。
おそらく、この扉をへだてた向こう側には春日井さんがいる。
オレはてっきり教壇の机に隠れると思ったが、そんな時間がなかったか、それとも思いつかなかったのか。
施錠をした扉に体を寄せる事で、窓からの死角に入り込んだのだろう。
うまく盲点をつかれた形だったが、最後に何かトラブルがあって物音を立ててしまったわけか。
オレも彼女もまったく望んでいないバッドエンドである。
この教室にも女生徒の小さな体なら隠す場所はある。
教室の後ろの掃除道具入れのロッカー?
いや、今すぐにというのは難しい。
さすがに近くにホウキやモップが転がっていれば、あやしまない事そのものがあやしい。
掃除道具入れではない。その逆の場所、つまり教室の前。
黒板の前、教壇にある教師用の机だ。
アレであれば中に潜る事ができる。
春日井さんの現在位置はオレの机のある場所、つまりは最後列。
隠れる場所は最前列。
つまりオレが教室に入るとすれば後ろから入る事がのぞましい。
当然、今のこの状況で扉を開けるわけにはいかない。
春日井さんと目と目で通じ合うのには、少々シチュエーションがファンタスティックだ。
「……よし」
オレは来たばかりの廊下を少し戻る。
春日井さんが一人で盛り上がっている教室から、二つほどの教室を戻り、深呼吸する。
そして教室にいる生徒たちに聞こえるような声量で。
「わ、わ、わっ、わっすれもっのー!」
と、能天気な声で歌いながら廊下をゆっくり歩き始めた。
通り過ぎた一年三組の教室で、一拍置いて笑い声が響いた。
一組の宮城君の声! そんな歓声? のようなものも聞こえてくる。
少々、恥ずかしいが、教室の中までオレの声が届いている証拠だ。
一年二組の教室の前でさらに歩調をゆるめ、かつ、声を大きくする。
やがて我らが一組の教室だが、春日井さんは気づいてくれただろうか。
この道化を演じるオレの存在と気遣いに。
やがて二組の教室内からも笑い声とオレの名前が飛び交っていた。
この世界、ムダに目立つような行動をとる男は少ないゆえに、オレが少々、変わっているという事は逆によく知られている。
噂に登るにしたってせいぜい三日四日くらいなものだろう。
その程度で春日井さんのカドオナを見なかった事にできるのなら安いものだ。
牛歩もかくやというトロトロスピードでついに戻ってきた一組。
「……」
オレはおそるおそる窓をのぞきこむ。
オレの机で気持ちよさそうにしていた春日井さんの姿はすでになく、心の中でガッツポーズをとった。
きっと教壇の机の中に身を潜らせ、息をひそめているのだろう。
良し、これならとあとはオレがさりげなく教科書を取って戻ればいいだけだ。
そうして意気揚々とドアに手をかけるが。
「……開かないじゃん」
なるほど、そう来たか。
いや、そりゃそうか。
春日井さんが教室にいないのに、鍵があいているのはおかしい。
鍵が開いている、それすなわち春日井さんが中にいる、という事なんだから。
もし開いている教室に入れば、不思議に思って探すだろう。
であれば。
彼女からすればさっきの痴態は見られていないわけであり、オレをやり過ごすなら施錠をした方が確実だ。
オレとしては手ぶらで視聴覚室に帰るハメになるわけだが、これもまた平和的な解決の一つだろう。
オレは何も見なかったし、彼女も何も見られなかった。
平和な世界である。
「……戻りますかね」
だがオレがこのままずっとここに留まると、春日井さんも出るに出られない。
教壇の方の机を一目見た後、オレは戻ろうとして。
ガタンッ!
と。
さっきまで手をかけていたドアが大きく揺れた。
何かがぶつかる様な。
まるで、体重の軽い女生徒が倒れ込んだような音だった。
「……」
さすがにこの状況で、これだけの物音に気づかなかったというのは無理がある。
おそらく、この扉をへだてた向こう側には春日井さんがいる。
オレはてっきり教壇の机に隠れると思ったが、そんな時間がなかったか、それとも思いつかなかったのか。
施錠をした扉に体を寄せる事で、窓からの死角に入り込んだのだろう。
うまく盲点をつかれた形だったが、最後に何かトラブルがあって物音を立ててしまったわけか。
オレも彼女もまったく望んでいないバッドエンドである。
10
お気に入りに追加
851
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
シン・三毛猫現象 〜自然出産される男が3万人に1人の割合になった世界に帰還した僕はとんでもなくモテモテになったようです〜
ミコガミヒデカズ
ファンタジー
気軽に読めるあべこべ、男女比モノです。
以前、私がカクヨム様で書いていた小説をリメイクしたものです。
とあるきっかけで異世界エニックスウェアに転移した主人公、佐久間修。彼はもう一人の転移者と共に魔王との決戦に挑むが、
「儂の味方になれば世界の半分をやろう」
そんな魔王の提案に共に転移したもう一人の勇者が応じてしまう。そんな事はさせないと修は魔王を倒そうとするが、事もあろうに味方だったもう一人の勇者が魔王と手を組み攻撃してきた。
瞬間移動の術でなんとか難を逃れた修だったが、たどり着いたのは男のほとんどが姿を消した異世界転移15年後の地球だった…。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる