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『春日井、救出作戦』
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『春日井、救出作戦』
この教室にも女生徒の小さな体なら隠す場所はある。
教室の後ろの掃除道具入れのロッカー?
いや、今すぐにというのは難しい。
さすがに近くにホウキやモップが転がっていれば、あやしまない事そのものがあやしい。
掃除道具入れではない。その逆の場所、つまり教室の前。
黒板の前、教壇にある教師用の机だ。
アレであれば中に潜る事ができる。
春日井さんの現在位置はオレの机のある場所、つまりは最後列。
隠れる場所は最前列。
つまりオレが教室に入るとすれば後ろから入る事がのぞましい。
当然、今のこの状況で扉を開けるわけにはいかない。
春日井さんと目と目で通じ合うのには、少々シチュエーションがファンタスティックだ。
「……よし」
オレは来たばかりの廊下を少し戻る。
春日井さんが一人で盛り上がっている教室から、二つほどの教室を戻り、深呼吸する。
そして教室にいる生徒たちに聞こえるような声量で。
「わ、わ、わっ、わっすれもっのー!」
と、能天気な声で歌いながら廊下をゆっくり歩き始めた。
通り過ぎた一年三組の教室で、一拍置いて笑い声が響いた。
一組の宮城君の声! そんな歓声? のようなものも聞こえてくる。
少々、恥ずかしいが、教室の中までオレの声が届いている証拠だ。
一年二組の教室の前でさらに歩調をゆるめ、かつ、声を大きくする。
やがて我らが一組の教室だが、春日井さんは気づいてくれただろうか。
この道化を演じるオレの存在と気遣いに。
やがて二組の教室内からも笑い声とオレの名前が飛び交っていた。
この世界、ムダに目立つような行動をとる男は少ないゆえに、オレが少々、変わっているという事は逆によく知られている。
噂に登るにしたってせいぜい三日四日くらいなものだろう。
その程度で春日井さんのカドオナを見なかった事にできるのなら安いものだ。
牛歩もかくやというトロトロスピードでついに戻ってきた一組。
「……」
オレはおそるおそる窓をのぞきこむ。
オレの机で気持ちよさそうにしていた春日井さんの姿はすでになく、心の中でガッツポーズをとった。
きっと教壇の机の中に身を潜らせ、息をひそめているのだろう。
良し、これならとあとはオレがさりげなく教科書を取って戻ればいいだけだ。
そうして意気揚々とドアに手をかけるが。
「……開かないじゃん」
なるほど、そう来たか。
いや、そりゃそうか。
春日井さんが教室にいないのに、鍵があいているのはおかしい。
鍵が開いている、それすなわち春日井さんが中にいる、という事なんだから。
もし開いている教室に入れば、不思議に思って探すだろう。
であれば。
彼女からすればさっきの痴態は見られていないわけであり、オレをやり過ごすなら施錠をした方が確実だ。
オレとしては手ぶらで視聴覚室に帰るハメになるわけだが、これもまた平和的な解決の一つだろう。
オレは何も見なかったし、彼女も何も見られなかった。
平和な世界である。
「……戻りますかね」
だがオレがこのままずっとここに留まると、春日井さんも出るに出られない。
教壇の方の机を一目見た後、オレは戻ろうとして。
ガタンッ!
と。
さっきまで手をかけていたドアが大きく揺れた。
何かがぶつかる様な。
まるで、体重の軽い女生徒が倒れ込んだような音だった。
「……」
さすがにこの状況で、これだけの物音に気づかなかったというのは無理がある。
おそらく、この扉をへだてた向こう側には春日井さんがいる。
オレはてっきり教壇の机に隠れると思ったが、そんな時間がなかったか、それとも思いつかなかったのか。
施錠をした扉に体を寄せる事で、窓からの死角に入り込んだのだろう。
うまく盲点をつかれた形だったが、最後に何かトラブルがあって物音を立ててしまったわけか。
オレも彼女もまったく望んでいないバッドエンドである。
この教室にも女生徒の小さな体なら隠す場所はある。
教室の後ろの掃除道具入れのロッカー?
いや、今すぐにというのは難しい。
さすがに近くにホウキやモップが転がっていれば、あやしまない事そのものがあやしい。
掃除道具入れではない。その逆の場所、つまり教室の前。
黒板の前、教壇にある教師用の机だ。
アレであれば中に潜る事ができる。
春日井さんの現在位置はオレの机のある場所、つまりは最後列。
隠れる場所は最前列。
つまりオレが教室に入るとすれば後ろから入る事がのぞましい。
当然、今のこの状況で扉を開けるわけにはいかない。
春日井さんと目と目で通じ合うのには、少々シチュエーションがファンタスティックだ。
「……よし」
オレは来たばかりの廊下を少し戻る。
春日井さんが一人で盛り上がっている教室から、二つほどの教室を戻り、深呼吸する。
そして教室にいる生徒たちに聞こえるような声量で。
「わ、わ、わっ、わっすれもっのー!」
と、能天気な声で歌いながら廊下をゆっくり歩き始めた。
通り過ぎた一年三組の教室で、一拍置いて笑い声が響いた。
一組の宮城君の声! そんな歓声? のようなものも聞こえてくる。
少々、恥ずかしいが、教室の中までオレの声が届いている証拠だ。
一年二組の教室の前でさらに歩調をゆるめ、かつ、声を大きくする。
やがて我らが一組の教室だが、春日井さんは気づいてくれただろうか。
この道化を演じるオレの存在と気遣いに。
やがて二組の教室内からも笑い声とオレの名前が飛び交っていた。
この世界、ムダに目立つような行動をとる男は少ないゆえに、オレが少々、変わっているという事は逆によく知られている。
噂に登るにしたってせいぜい三日四日くらいなものだろう。
その程度で春日井さんのカドオナを見なかった事にできるのなら安いものだ。
牛歩もかくやというトロトロスピードでついに戻ってきた一組。
「……」
オレはおそるおそる窓をのぞきこむ。
オレの机で気持ちよさそうにしていた春日井さんの姿はすでになく、心の中でガッツポーズをとった。
きっと教壇の机の中に身を潜らせ、息をひそめているのだろう。
良し、これならとあとはオレがさりげなく教科書を取って戻ればいいだけだ。
そうして意気揚々とドアに手をかけるが。
「……開かないじゃん」
なるほど、そう来たか。
いや、そりゃそうか。
春日井さんが教室にいないのに、鍵があいているのはおかしい。
鍵が開いている、それすなわち春日井さんが中にいる、という事なんだから。
もし開いている教室に入れば、不思議に思って探すだろう。
であれば。
彼女からすればさっきの痴態は見られていないわけであり、オレをやり過ごすなら施錠をした方が確実だ。
オレとしては手ぶらで視聴覚室に帰るハメになるわけだが、これもまた平和的な解決の一つだろう。
オレは何も見なかったし、彼女も何も見られなかった。
平和な世界である。
「……戻りますかね」
だがオレがこのままずっとここに留まると、春日井さんも出るに出られない。
教壇の方の机を一目見た後、オレは戻ろうとして。
ガタンッ!
と。
さっきまで手をかけていたドアが大きく揺れた。
何かがぶつかる様な。
まるで、体重の軽い女生徒が倒れ込んだような音だった。
「……」
さすがにこの状況で、これだけの物音に気づかなかったというのは無理がある。
おそらく、この扉をへだてた向こう側には春日井さんがいる。
オレはてっきり教壇の机に隠れると思ったが、そんな時間がなかったか、それとも思いつかなかったのか。
施錠をした扉に体を寄せる事で、窓からの死角に入り込んだのだろう。
うまく盲点をつかれた形だったが、最後に何かトラブルがあって物音を立ててしまったわけか。
オレも彼女もまったく望んでいないバッドエンドである。
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