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『春日井、忘れものをする』
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『春日井、忘れものをする』
走り去っていった夏木さんの後ろ姿を見送った後、オレは夏木さんお手製のサンドイッチを持って教室に帰る。
自分の席につくなり今の騒動でわりと時間をとられてしまった為、ゆっくりと味わう時間もなく口の中へ放り込む。
卵焼きにも出汁が効いていたり、マスタードなんかも入っていておいしい。手間暇かけられた喫茶店の味という感じだ。
「そろそろ? かな?」
時間は五限目が始まる十分前。
まだ昼休み中だが移動時間も考えるとチャイムに間に合わなくりそうだ。
「残ってる人ー、そろそろ出て下さーい」
オレが声をかけると、わずかに残っていた女の子たちが慌てるように教科書などを手にして出ていった。
オレも教室を出る前に見渡し、サボリ申請を事前にしていた夏木さん以外に残っている生徒がいない事を確認してから廊下に出て施錠をして、視聴覚室へと向かった。
視聴覚に到着するなり、その前で待っていた春日井さん。
「ああ、宮城君。ありがとう」
「春日井さん? どうしたの?」
まさかわざわざオレをお出迎え、というわけでもないだろうに。
「それがね。私、教室に忘れ物していたのを今気づいたの。すぐに取ってくるから教室の鍵、いいかしら?」
オレはあわてて鍵を春日井さんに手渡す。
「時間、大丈夫?」
「ええ。先生には少し遅れますと言ってあるから。授業の準備で時間をとられてるんだから、これくらいはね?」
それもそうだ。
忘れ物をするのはポカかもしれないが、手伝いに時間をとられなければ、それを取りに行く時間はあり忘れ物にならないのだから。
「それじゃ」
「うん」
そう言って春日井さんは教室の方へと駆けていった。
「シッカリしている春日井さんでも、忘れ物なんてするんだな」
いつも真面目なシッカリ者というイメージだから意外であるものの誰だってミスはする。
少なくとも前世で人助けをしようとして自分が昇天なんて大ミスしたオレが言える立場じゃない。ま、あれをミスとは微塵も思っちゃいないが、もう少しうまくやれたかも、という思いはある。
今世では小さなミスも大きなミスも、なるべくしないように気を付けてやっているつもりだ。
***
「……そう、思っていた時期がオレにもありました」
春日井さんを見送り教室に入った所でふと気づく。
施錠やら残っている生徒の確認やらで……手ぶらで来ていた事に。
教科書もノートもない。
隣の席の生徒に貸してもらう?
それもまた青春一ページ。
気になるあの子と肩を寄せ合ってドギマギしながら授業をうわの空で受ける、実に素晴らしい。
ただ、その隣の女の子が問題だ。
「……夏木さん、いないしなぁ」
机をくっつけて見せてくれる隣人は今頃一人で、体育館裏のトイレでお楽しみ中だ。
先生が来るまでもう時間はない。
「……良し」
逡巡している時間がもったいないと判断し席を立つ。
近くの女子たちに「ちょっと教室に教科書を忘れちゃったから取りに行ってくるね。もしベルまでに帰ってこられなかったから先生に言っておいてくれる?」と言い残して視聴覚室から出る。
とは言いつつも、今から教室まで往復すればまず間に合わないだろう。
しかし忘れ物をとりに行って一人で戻ってくればお叱りもあるかもしれないが、遅刻免罪符を持つ春日井さんと一緒に戻れば、雰囲気的におとがめを逃れられるかもしれないという魂胆があった。
まぁ、そこまでしなくともこの世界は男に甘い。
くわえて冬原先生が日々漏らす愚痴からして男子生徒というのは非常に理不尽で面倒な存在とも聞いている。
次の授業の先生も少々の遅刻を理由に男子生徒とトラブルを起こしたくないだろうからそう怒られる事もないだろうけれど、オレはこの世界では少しでもいい子ちゃんぶって生きたいのだ。
イケメンで優しい優等生。
それが実はビッチであるというギャップ萌えの素晴らしさは、前世で積んだクンフーによりよく知っているつもりだ。
などと考えつつ、先生に見つかっても怒られない程度に廊下を小走りで移動している途中、五限目開始のチャイムがなった。
手早く春日井さんと合流して教科書をとって戻らねば。
「あれ、もし春日井さんと入違ったら……マズくない?」
今さら思い立ったが、もし春日井さんと入れ違いになった場合、オレは施錠された教室に入れず、何の成果も得られずに視聴覚室に戻るハメになる。
視聴覚室から教室までのルートは一つに限ったものじゃない。
「……急ぐか」
ゆるゆるな小走りから、ちょい本気ダッシュに切り替えて教室へ。
すでに授業の始まっている廊下はとても静かで、オレの駆ける足音が妙に響く。
そうしてたどりついた教室。
ドアに手をかけてわずかに開きかけた時、教室内の異変に気付いた。
走り去っていった夏木さんの後ろ姿を見送った後、オレは夏木さんお手製のサンドイッチを持って教室に帰る。
自分の席につくなり今の騒動でわりと時間をとられてしまった為、ゆっくりと味わう時間もなく口の中へ放り込む。
卵焼きにも出汁が効いていたり、マスタードなんかも入っていておいしい。手間暇かけられた喫茶店の味という感じだ。
「そろそろ? かな?」
時間は五限目が始まる十分前。
まだ昼休み中だが移動時間も考えるとチャイムに間に合わなくりそうだ。
「残ってる人ー、そろそろ出て下さーい」
オレが声をかけると、わずかに残っていた女の子たちが慌てるように教科書などを手にして出ていった。
オレも教室を出る前に見渡し、サボリ申請を事前にしていた夏木さん以外に残っている生徒がいない事を確認してから廊下に出て施錠をして、視聴覚室へと向かった。
視聴覚に到着するなり、その前で待っていた春日井さん。
「ああ、宮城君。ありがとう」
「春日井さん? どうしたの?」
まさかわざわざオレをお出迎え、というわけでもないだろうに。
「それがね。私、教室に忘れ物していたのを今気づいたの。すぐに取ってくるから教室の鍵、いいかしら?」
オレはあわてて鍵を春日井さんに手渡す。
「時間、大丈夫?」
「ええ。先生には少し遅れますと言ってあるから。授業の準備で時間をとられてるんだから、これくらいはね?」
それもそうだ。
忘れ物をするのはポカかもしれないが、手伝いに時間をとられなければ、それを取りに行く時間はあり忘れ物にならないのだから。
「それじゃ」
「うん」
そう言って春日井さんは教室の方へと駆けていった。
「シッカリしている春日井さんでも、忘れ物なんてするんだな」
いつも真面目なシッカリ者というイメージだから意外であるものの誰だってミスはする。
少なくとも前世で人助けをしようとして自分が昇天なんて大ミスしたオレが言える立場じゃない。ま、あれをミスとは微塵も思っちゃいないが、もう少しうまくやれたかも、という思いはある。
今世では小さなミスも大きなミスも、なるべくしないように気を付けてやっているつもりだ。
***
「……そう、思っていた時期がオレにもありました」
春日井さんを見送り教室に入った所でふと気づく。
施錠やら残っている生徒の確認やらで……手ぶらで来ていた事に。
教科書もノートもない。
隣の席の生徒に貸してもらう?
それもまた青春一ページ。
気になるあの子と肩を寄せ合ってドギマギしながら授業をうわの空で受ける、実に素晴らしい。
ただ、その隣の女の子が問題だ。
「……夏木さん、いないしなぁ」
机をくっつけて見せてくれる隣人は今頃一人で、体育館裏のトイレでお楽しみ中だ。
先生が来るまでもう時間はない。
「……良し」
逡巡している時間がもったいないと判断し席を立つ。
近くの女子たちに「ちょっと教室に教科書を忘れちゃったから取りに行ってくるね。もしベルまでに帰ってこられなかったから先生に言っておいてくれる?」と言い残して視聴覚室から出る。
とは言いつつも、今から教室まで往復すればまず間に合わないだろう。
しかし忘れ物をとりに行って一人で戻ってくればお叱りもあるかもしれないが、遅刻免罪符を持つ春日井さんと一緒に戻れば、雰囲気的におとがめを逃れられるかもしれないという魂胆があった。
まぁ、そこまでしなくともこの世界は男に甘い。
くわえて冬原先生が日々漏らす愚痴からして男子生徒というのは非常に理不尽で面倒な存在とも聞いている。
次の授業の先生も少々の遅刻を理由に男子生徒とトラブルを起こしたくないだろうからそう怒られる事もないだろうけれど、オレはこの世界では少しでもいい子ちゃんぶって生きたいのだ。
イケメンで優しい優等生。
それが実はビッチであるというギャップ萌えの素晴らしさは、前世で積んだクンフーによりよく知っているつもりだ。
などと考えつつ、先生に見つかっても怒られない程度に廊下を小走りで移動している途中、五限目開始のチャイムがなった。
手早く春日井さんと合流して教科書をとって戻らねば。
「あれ、もし春日井さんと入違ったら……マズくない?」
今さら思い立ったが、もし春日井さんと入れ違いになった場合、オレは施錠された教室に入れず、何の成果も得られずに視聴覚室に戻るハメになる。
視聴覚室から教室までのルートは一つに限ったものじゃない。
「……急ぐか」
ゆるゆるな小走りから、ちょい本気ダッシュに切り替えて教室へ。
すでに授業の始まっている廊下はとても静かで、オレの駆ける足音が妙に響く。
そうしてたどりついた教室。
ドアに手をかけてわずかに開きかけた時、教室内の異変に気付いた。
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