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『幕間:二年一組、猪瀬加奈子の場合(2)』
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『幕間:二年一組、猪瀬加奈子の場合(2)』
そんな教室の雰囲気を感じとったのか、冬原が教室内を覗き込みながら、違うぞと言って手を振る。
「朝な。男子トイレの蛇口が盛大に壊れて宮城が派手に濡れた。呼ばれて直しに行った私も同様にびしょ濡れになったんだよ。この紙袋は宮城の着替えだ」
よく見れば冬原の髪も少し濡れているようだ。
「梅守先生、そういうわけですので二人の出欠の方は……」
「ええ、ええ、大丈夫ですよ。その男の子も濡れたままでかわいそうに。早く行ってあげなさいな」
春日井ちゃんは、先生二人の視線を受けて「分かりました」と言うなり、ダッシュで保健室へ駆けていった。
私だって同じ立場だったら猛ダッシュだろう。
保健室で待つ宮城君にお礼を言われつつも、濡れて色っぽくなった美少年が拝めるとなければ、ちんたら歩いていられるはずがない。嗚呼、こんなチャンスがあるなら委員長に立候補すれば良かった。
隣の琴美も同様なのだろう。嫉妬と羨望の眼差しを春日井ちゃんが消えていったどドアに向けている。
しょせん私達はクジでハズレを引いて、強制就任した風紀委員と図書委員だ。
自ら立候補して委員長に就任していた春日井ちゃんとは、詰んでいる徳が違う。神はやはりいるのだ。
「はい。では授業を再開しますね」
梅守先生がパンパンと手を叩き、授業が再開される。
しかしクラスのざわつきは止まらない。
冬原が用意した紙袋の中身が気になるのだ。
男子用の学生服の替えを用意した可能性もあるが……春日井ちゃんに渡していた紙袋は、駅前商店街に入っている安心価格がウリの服飾量販店。
つまり……宮城君の私服姿が拝めるのである。
私たちがブランドを着てもたいして見栄えはしないが、イケメンであればどれだけ安心できるお値段の服だろうがイケメン度合が増すのである。
もちろん普段の学生服だって最高だが最高というものは一番という意味ではない。
最高の隣に最高は共存しうる。甲乙つけがたい、そういう言葉が昔からあるように。
であれば、きっと私服の宮城君もいつも違う風味のイケメンというわけだ。
ここまでは誰も否定しない真実。
ただ、問題はそのイケメン度合が冬原のセンスによって大きく変わってくるという話なのだ。
間違ってもアニメコラボシャツなどのキャラクターがプリントされているようなシャツなんて買ってきていないとは思うが……もしそんな事をしでかしていたら次に冬原がこの教室に姿をみせた時に暴動が起きるに違いない。
「ねねねね、加奈子はどう思う? 冬原、どんなの買ってきたかな?」
真っ白に燃え尽きていたはずの隣人はすでに不死鳥のごとく復活していた。
そして私と同じく、冬原のファションセンスに期待と不安を抱いていた。
「んー、無地の長袖ティーシャツ、とかかな。下はジーパンとか?」
無難なチョイスとしてはそんな所だろう。
「んー、そんなとこだよねぇ。間違ってもキャラものとか……いや、けど宮城君ならそれもアリか……いや、ないな……」
琴美が真剣な顔で独り言を言い始めたので、私はそれ以上の言葉をかける事なく宮城君が来るのを待つ。
普段であればちょこちょこと私語が注意される授業中。
それが今はシンとして、ただ梅守先生の声だけが教室の中に響いている。
全員が耳をすましてるのだ。
もちろん授業を熱心に受けているというわけではない。
廊下を歩く足音。この教室に向かってくる靴音。
それを待ちわびるようにして、全員が耳を澄ましているのだ。
いや、それだけではない。
隣の琴美も含めてカメラを起動した状態のケータイを教室のドアにエイムしているのが数人いる。
私服姿をデータにおさめたいというのはわかるが、別に盗撮なんてしなくても宮城君なら頼めば撮らせてくれる……いや、別に盗撮じゃないな。先生に見つからないようにしているだけだ。
そうして今か今かと待ち構えていると。
コツコツと二人分の足音が廊下に響き、やがて教室のドアがノックされた。
そんな教室の雰囲気を感じとったのか、冬原が教室内を覗き込みながら、違うぞと言って手を振る。
「朝な。男子トイレの蛇口が盛大に壊れて宮城が派手に濡れた。呼ばれて直しに行った私も同様にびしょ濡れになったんだよ。この紙袋は宮城の着替えだ」
よく見れば冬原の髪も少し濡れているようだ。
「梅守先生、そういうわけですので二人の出欠の方は……」
「ええ、ええ、大丈夫ですよ。その男の子も濡れたままでかわいそうに。早く行ってあげなさいな」
春日井ちゃんは、先生二人の視線を受けて「分かりました」と言うなり、ダッシュで保健室へ駆けていった。
私だって同じ立場だったら猛ダッシュだろう。
保健室で待つ宮城君にお礼を言われつつも、濡れて色っぽくなった美少年が拝めるとなければ、ちんたら歩いていられるはずがない。嗚呼、こんなチャンスがあるなら委員長に立候補すれば良かった。
隣の琴美も同様なのだろう。嫉妬と羨望の眼差しを春日井ちゃんが消えていったどドアに向けている。
しょせん私達はクジでハズレを引いて、強制就任した風紀委員と図書委員だ。
自ら立候補して委員長に就任していた春日井ちゃんとは、詰んでいる徳が違う。神はやはりいるのだ。
「はい。では授業を再開しますね」
梅守先生がパンパンと手を叩き、授業が再開される。
しかしクラスのざわつきは止まらない。
冬原が用意した紙袋の中身が気になるのだ。
男子用の学生服の替えを用意した可能性もあるが……春日井ちゃんに渡していた紙袋は、駅前商店街に入っている安心価格がウリの服飾量販店。
つまり……宮城君の私服姿が拝めるのである。
私たちがブランドを着てもたいして見栄えはしないが、イケメンであればどれだけ安心できるお値段の服だろうがイケメン度合が増すのである。
もちろん普段の学生服だって最高だが最高というものは一番という意味ではない。
最高の隣に最高は共存しうる。甲乙つけがたい、そういう言葉が昔からあるように。
であれば、きっと私服の宮城君もいつも違う風味のイケメンというわけだ。
ここまでは誰も否定しない真実。
ただ、問題はそのイケメン度合が冬原のセンスによって大きく変わってくるという話なのだ。
間違ってもアニメコラボシャツなどのキャラクターがプリントされているようなシャツなんて買ってきていないとは思うが……もしそんな事をしでかしていたら次に冬原がこの教室に姿をみせた時に暴動が起きるに違いない。
「ねねねね、加奈子はどう思う? 冬原、どんなの買ってきたかな?」
真っ白に燃え尽きていたはずの隣人はすでに不死鳥のごとく復活していた。
そして私と同じく、冬原のファションセンスに期待と不安を抱いていた。
「んー、無地の長袖ティーシャツ、とかかな。下はジーパンとか?」
無難なチョイスとしてはそんな所だろう。
「んー、そんなとこだよねぇ。間違ってもキャラものとか……いや、けど宮城君ならそれもアリか……いや、ないな……」
琴美が真剣な顔で独り言を言い始めたので、私はそれ以上の言葉をかける事なく宮城君が来るのを待つ。
普段であればちょこちょこと私語が注意される授業中。
それが今はシンとして、ただ梅守先生の声だけが教室の中に響いている。
全員が耳をすましてるのだ。
もちろん授業を熱心に受けているというわけではない。
廊下を歩く足音。この教室に向かってくる靴音。
それを待ちわびるようにして、全員が耳を澄ましているのだ。
いや、それだけではない。
隣の琴美も含めてカメラを起動した状態のケータイを教室のドアにエイムしているのが数人いる。
私服姿をデータにおさめたいというのはわかるが、別に盗撮なんてしなくても宮城君なら頼めば撮らせてくれる……いや、別に盗撮じゃないな。先生に見つからないようにしているだけだ。
そうして今か今かと待ち構えていると。
コツコツと二人分の足音が廊下に響き、やがて教室のドアがノックされた。
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