【R18】転生先は男女比１：３０の貞操逆転世界～ビッチを夢見る三十路の魂～

『号令係、爆誕』

『号令係、爆誕』

というわけで、人気のない廊下を春日井さんと二人で歩く。

それぞれの教室からは授業が行われている為、先生たちの声がかすかに響いている。

授業中に廊下を歩くことなんてめったにないので、何か特別な事をしているような気になってくる。

「一限目ってなんだっけ？」
「現国よ」

現国、というと、ああ、物腰の柔らかいおばあちゃん先生だ。確か梅守（ウメモリ）先生だったかな。

事情も通っているようだし、怒られる事もないだろう。

実際、最初に春日井さんがクラスのドアをノックして入った時も、先生は何も言わずにうなずいて迎えていた。

オレが続くと「冬原先生から事情は聴いています。朝から災難でしたね」といたわってくれた。

軽く頭を下げつつ自分の席につく。

スーツ姿が面白いのか、自分の席につく途中に通ったクラスメートたちに色々とほめられたり写真をとられたりしつつ、最後列の自分の席についた。

「お前、朝からナニやってんだ。それになんだ、その恰好」

いきなりのご挨拶。

夏木さんが可哀そうな人を見る目でオレを見てくるので、意趣返しとばかりに少しからかってみる。

「おはよう、青葉ちゃ……夏木さん」
「バッ……お前……」

名前を呼ばれかけて、思った以上にとまどう夏木さん。

からかわれたと知ると、眉間にしわを寄せて眉を吊り上げた。かわいい。

などと新しい青春の一ページを綴っていたところ、スボンの中に無理やり押し込められた息子が自分を主張してくる。

そうだな、息子よ。確かに父も不完全燃焼のままではある。

「夏木さん」
「……んだよ」

完全にお怒りモードである。

しかしそれに構わずオレはノートの切れはしに、時間と場所を書いてそっと手渡す。

書いた内容は『昼休み　体育館裏のトイレ』の二つの単語だけ。

夏木さんはメモを開くまでもなく、いつもの内容だとすぐに察してにらみつけてきたものの。

「……チッ」

と舌打ちしながら、オレのメモの中身をチラリと確認すると、くしゃっと丸めてスカートのポケットの中につっこんだ。

さすがにちょっとからかいすぎたから断られるかな、と思ったもののそうでもなかった。

実にツンデレの見本のようなムーヴにオレは感動を覚えながらも昼休みを待つ……と、その前にやる事がある。

しばらくして一限目終了を知らせるチャイムが鳴った。

おばあちゃん先生が春日井さんに向かい「では、今日はここまで」と言ったが春日井さんは何も言わない。

先生がお顔に刻まれた優しいしわをさらに深くして、おや？　という顔をする。

春日井さんの周囲の生徒も彼女を見ている。

オレは立ち上がり「きりーつ」とちょっと緊張で固い声で号令をかける。

とっさに反応したのか皆が立ち上がりながらオレを見る。

隣の夏木さんもびっくりしたような顔で立ち上がった。いつも寝たままなのにね？

「れーい」

とオレが続けて号令をかけると、皆、こちらを見ながら器用に頭を下げていた。

「……お前？」
「驚いた？　今日から副委員長になったからよろしくね？」

夏木さんはなんとも言えない顔になって、オレを見ていたが。

「フン。やっぱりな」

と鼻をならして、いつものように机につっぷして居眠りを始めた。

やっぱり？

オレはその謎の呟きに首をかしげるが、夏木さんが机の上で丸めた背中が無言の拒絶オーラを発していた為、オレは何も聞かなかった。