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『GW編・六日目 私服の彼女は意外と攻めていた(2)』
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『GW編・六日目 私服の彼女は意外と攻めていた(2)』
「……そうか。いいぜ、オレにできる事なら言ってくれ。一つ年上の兄貴分ってヤツだな」
シマ先輩はとてもいい笑顔でそう言った。
頼れる先輩な感じだった。
「ありがとうございます……兄貴とお呼びしましょうか?」
「ハッ、そりゃいいな。好きに呼びな?」
それも悪くないな、という顔だ。
オレとしては100パーセント冗談だったが、シマ先輩が案外とやぶさかではないオーラを出しているので、時折、軽口交じりで呼んでみよう。
などとコントのような事をやっていると周囲の女性客の視線がどんどん集まってきた。
かといってオーダー待ちでオレの後ろに並んでいるというわけでもないようだ。
「あ、他のお客さんの邪魔になってしまいましたね。ありがとうございます」
オレは持っていたトレイを軽くかかげる。
「おう。ま、ゆっくりしていけ、キョーダイ」
オレのさきほどの冗談が気に入ったのか、シマ先輩がオレをそう呼んだ。
それだと仁義なき系になってしまうなと苦笑しつつ、オレはカウンターから離れて席を探す。
するとオレたちを遠巻きに見ていた女性客たちが、すぐにシマ先輩のところへ殺到した。
「シマ君、あの子と知り合い? 名前なんて言うの?」
「同じ学校の子? 年上の彼女欲しくないか聞いてくれない?」
「年下? 同い年? ここでバイトしたりする予定とかないかな?」
うんざりした顔のシマ先輩。
「……ご注文は?」
それでも一応の接客をするあたり、根は真面目なんだろう。
「いつもの」
「いつもの」
「いつもの」
全員常連かよと心の中でツッコミつつ、関わるとまた騒ぎになりそうなのでオレは若い女性客にたかられ始めた心優しい兄貴を見捨てて、カウンターから少し離れたボックス席に座った。
オレを遠巻きに見ている周囲からの視線は多少なりと気になるが、昨日のように下世話な声をかけられる事もなく平穏な時間が過ぎていく。
さきほどの三人組はシマ先輩からそれぞれコーヒーなどを受け取った後、オレのすぐ後ろのボックス席に座りこみ会話を楽しんでいるようで……皆が一様にこちらにスマホのカメラを向けているあたりご愛敬である。
あからさまにこちらを撮っているわけではなく、紙ナプキンに穴をあけてカメラを隠していたり、バックにケータイをうまく隠したりと手慣れた盗撮の技(業)を感じさせるものだ。
しかもここは学校という閉鎖空間ではなく公共の場だ。場合によってはお縄になるというリスクもある。
そのクラスメートよりも熟達したスキルとその覚悟に思わず感心してしまう。
互いが四人掛けのボックス席に座っており、オレは一人。あちらは三人。
であれば、同じボックス席に座れば、店としても助かるし、オレも彼女たちも幸せになれるのではなかろうか。
いわゆる三方よしであるしオレからモーションをかけるのもやぶさかではなのだが、シマ先輩がこちらをずっと監視しているのだ。
どうも後ろの三人がオレにちょっとかいをかけないかと心配してくれているらしい。
その心遣い、誠にありがたいいが今は少しだけよそ見をしてほしい。根を詰めて働くと疲れてしまいますよ、と心でシマ先輩をねぎらうもオレの思いはどうにも伝わらなかった。
そうしてドーナツも食べ終えた後も、後ろの三人組とどうにかコンタクトできないかと未練たらしくカフェオレをちびちびやっていた時。
「あの……宮城君?」
「え?」
いつの間にかボックス席の横に立っていたのは、毎日教室で顔を合わせているクラスメートだった。
制服姿で身に慣れているせいか、一瞬だけ私服の彼女とわからず反応が遅れてしまった。
「春日井さん?」
「……良かった」
ホッとした顔になる春日井さん。
「覚えててくれたんだ。私の事」
「それは当然じゃないかな? ただ私服姿は初めて見たからすぐにわからなかったよ、ごめんね。すごく大人っぽくて素敵だよ」
「えっ、あっ、うん、あ、ありがと」
オレの本心からの誉め言葉に春日井さんが若干、挙動不審になる。
「……そうか。いいぜ、オレにできる事なら言ってくれ。一つ年上の兄貴分ってヤツだな」
シマ先輩はとてもいい笑顔でそう言った。
頼れる先輩な感じだった。
「ありがとうございます……兄貴とお呼びしましょうか?」
「ハッ、そりゃいいな。好きに呼びな?」
それも悪くないな、という顔だ。
オレとしては100パーセント冗談だったが、シマ先輩が案外とやぶさかではないオーラを出しているので、時折、軽口交じりで呼んでみよう。
などとコントのような事をやっていると周囲の女性客の視線がどんどん集まってきた。
かといってオーダー待ちでオレの後ろに並んでいるというわけでもないようだ。
「あ、他のお客さんの邪魔になってしまいましたね。ありがとうございます」
オレは持っていたトレイを軽くかかげる。
「おう。ま、ゆっくりしていけ、キョーダイ」
オレのさきほどの冗談が気に入ったのか、シマ先輩がオレをそう呼んだ。
それだと仁義なき系になってしまうなと苦笑しつつ、オレはカウンターから離れて席を探す。
するとオレたちを遠巻きに見ていた女性客たちが、すぐにシマ先輩のところへ殺到した。
「シマ君、あの子と知り合い? 名前なんて言うの?」
「同じ学校の子? 年上の彼女欲しくないか聞いてくれない?」
「年下? 同い年? ここでバイトしたりする予定とかないかな?」
うんざりした顔のシマ先輩。
「……ご注文は?」
それでも一応の接客をするあたり、根は真面目なんだろう。
「いつもの」
「いつもの」
「いつもの」
全員常連かよと心の中でツッコミつつ、関わるとまた騒ぎになりそうなのでオレは若い女性客にたかられ始めた心優しい兄貴を見捨てて、カウンターから少し離れたボックス席に座った。
オレを遠巻きに見ている周囲からの視線は多少なりと気になるが、昨日のように下世話な声をかけられる事もなく平穏な時間が過ぎていく。
さきほどの三人組はシマ先輩からそれぞれコーヒーなどを受け取った後、オレのすぐ後ろのボックス席に座りこみ会話を楽しんでいるようで……皆が一様にこちらにスマホのカメラを向けているあたりご愛敬である。
あからさまにこちらを撮っているわけではなく、紙ナプキンに穴をあけてカメラを隠していたり、バックにケータイをうまく隠したりと手慣れた盗撮の技(業)を感じさせるものだ。
しかもここは学校という閉鎖空間ではなく公共の場だ。場合によってはお縄になるというリスクもある。
そのクラスメートよりも熟達したスキルとその覚悟に思わず感心してしまう。
互いが四人掛けのボックス席に座っており、オレは一人。あちらは三人。
であれば、同じボックス席に座れば、店としても助かるし、オレも彼女たちも幸せになれるのではなかろうか。
いわゆる三方よしであるしオレからモーションをかけるのもやぶさかではなのだが、シマ先輩がこちらをずっと監視しているのだ。
どうも後ろの三人がオレにちょっとかいをかけないかと心配してくれているらしい。
その心遣い、誠にありがたいいが今は少しだけよそ見をしてほしい。根を詰めて働くと疲れてしまいますよ、と心でシマ先輩をねぎらうもオレの思いはどうにも伝わらなかった。
そうしてドーナツも食べ終えた後も、後ろの三人組とどうにかコンタクトできないかと未練たらしくカフェオレをちびちびやっていた時。
「あの……宮城君?」
「え?」
いつの間にかボックス席の横に立っていたのは、毎日教室で顔を合わせているクラスメートだった。
制服姿で身に慣れているせいか、一瞬だけ私服の彼女とわからず反応が遅れてしまった。
「春日井さん?」
「……良かった」
ホッとした顔になる春日井さん。
「覚えててくれたんだ。私の事」
「それは当然じゃないかな? ただ私服姿は初めて見たからすぐにわからなかったよ、ごめんね。すごく大人っぽくて素敵だよ」
「えっ、あっ、うん、あ、ありがと」
オレの本心からの誉め言葉に春日井さんが若干、挙動不審になる。
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