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『GW編・二日目 夏木青葉の隠し事(6)』
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『GW編・二日目 夏木青葉の隠し事(6)』
「おい。そろそろ閉店だぞ」
アタシはレシートをヒラヒラさせる。
母さんには閉店時間を気にするなと言われていたが、それどころじゃない。家庭崩壊の危機なんだ。
会計で母さんの顔をジックリ見ればいいさ。
若く見えるって言っても目じりにシワくらいあるはずだ。あるよな?
「あー、もうそんな時間か」
「はやく手を抜け、んっ」
「はーい」
最後に強く揉んでいくのも忘れず、ようやく宮城はアタシから離れる。
角度からして母さんには宮城の変態アクションが見えていないはずだ。
せいぜい顔をよせあって仲良く会話していたぐらいには見えただろう。
それだって、あとで何を言われて、何を聞かれる事やら。
「じゃあ、ちょっとお姉さんとお話してくるねー」
「好きにしろ」
軽いステップでカウンターにあるレジに向かう宮城。
ため息をつきながら、その後ろについていくアタシ。
それまで盗み見していたはずの母さんだが、まったくそんな素振りも見せずに店主として対応する。
素は肝っ玉系母ちゃんだが、見た目は美人だし演技派でもあるので、たいていの人はおしとやかな淑女みたいだと騙される。
「御馳走様でした。すみません、長居してしまって」
「こちらこそすみません、おくつろぎの所、ウチの娘がお邪魔してしまったみたいで」
どちらも演技派だ。
何も知らない人が見れば品のある女性店主と、礼儀正しい男子高生なんだろうけど、アタシから見ると二人の頭の上にかぶった猫が何匹も見えてジャレあっているようだ。
タヌキとキツネの化かし合いみたいな陰険なものじゃないだけマシか。
「いえ、とんでもないです。夏木さん……青葉さんには学校でとてもお世話になっていまして」
「は?」
母さんがこっちを見たが、アタシはそっぽ向いてスルーだ。
後で色々と聞かれるんだろうなぁ、いやだなぁ。
「申し遅れました。ボク、宮城京と言います。青葉さんとはクラスメートで席が隣です」
「あら、そうでしたか。青葉がご迷惑おかけしていなければいいんですが……」
チラチラとアタシを見る母さんの目は、何で黙っていた、という不満と追及がこもっている。
しかしその顔も宮城に向き直る時には、微笑みに変わっている。
「でしたら今日はいつもお世話になっているお礼、という事でお勘定は結構ですよ」
母さんが宮城からレシートを強引に受け取りながらそう言った。
「いえ。お世話になっているのはボクの方ですから、そういうわけにはまいりません、ええと……お姉さま」
宮城もまたそう言いながら母さんからレシートを取り返そうとして……おい、やめろ! さりげなく母さんの手を握るな! 本当にやめろぉぉ!
「あ、失礼しました。急に触れてしまってご不快でしたね。ごめんなさい」
知ってるぞ、宮城、オメー! そのいじらしい表情も演技だってな! 人の母親を逆ナンするな!
「い、いあいあ、こんなオバさんの手なんて、恥ずかしくてね!? あと、お姉さまはいくらなんでもお世辞がミエミエだからやめなさいな。悪い気はしませんけどね?」
母さんも……半分冗談、半分本気になってない? 大丈夫? 半分も本気って事だぞ?
「本当に? ……お姉さまでなくて?」
「母さんが十九で産んだのがアタシだ。若く見えても四十前だよ」
アタシはそれ以上の暴走を止めるべく、宮城の肩に手をかける。
これ以上、踏み込むなら力ずくで店から叩きだすしかない。
だと言うのに。
コイツはさらに余計な事をほざいた。
「お母さま? お化粧、お上手? なんですね?」
普通なら失礼にあたるだろう言葉だが、ほとんど化粧をしない母さんの場合、これも褒め言葉になっちまう。
実際、母さんが見た事もない顔になってきた。
心なしか……ほっぺ、赤くなってないか?
ヤバイ、これはもうヤバイ。
宮城が母さんにコーヒーぶっかけられる前に、とっとと店から叩きださないと。
アタシはバカの肩に置いてた手に力をこめつつその言葉を否定した。
「飲食業だぞ? 母さんはあんまり化粧しねーよ」
さーて、お帰りの時間だ。
と思った瞬間。
「夏木さんとよく似てるよね。へー、なら夏木さん、将来はもっと美人になるんだなー」
もっと?
それは今も美人って……事なんだろうか。
つい嬉しくて、手にこめていた力が抜けた。
……クソ。
アタシ、我ながらチョロすぎないか?
いかん。気を引き締めないと。
「とにかくこの人はアタシの母さんって事で気が済んだな? あとここはアタシが持つから。それで二人ともいいだろ」
アタシは宮城が、目の前のおっぱいお化けをようやく母さんだと認識したのを見て会話を打ち切る。
ついでにレシートも取り上げた。
……あいかわらず、大きくてゴツゴツした手だ。
「そう? じゃあ、ごちそう様、夏木さん」
「別にいいさ、このくらい」
一日分の手伝い賃の半分は飛んだけどな。
「ふふふ。じゃあ、今度、体で返すね?」
「バっ、おまっ!?」
母さんの前でなんつー冗談……いや、本気だ。コイツは本気で言ってる。
「おい。そろそろ閉店だぞ」
アタシはレシートをヒラヒラさせる。
母さんには閉店時間を気にするなと言われていたが、それどころじゃない。家庭崩壊の危機なんだ。
会計で母さんの顔をジックリ見ればいいさ。
若く見えるって言っても目じりにシワくらいあるはずだ。あるよな?
「あー、もうそんな時間か」
「はやく手を抜け、んっ」
「はーい」
最後に強く揉んでいくのも忘れず、ようやく宮城はアタシから離れる。
角度からして母さんには宮城の変態アクションが見えていないはずだ。
せいぜい顔をよせあって仲良く会話していたぐらいには見えただろう。
それだって、あとで何を言われて、何を聞かれる事やら。
「じゃあ、ちょっとお姉さんとお話してくるねー」
「好きにしろ」
軽いステップでカウンターにあるレジに向かう宮城。
ため息をつきながら、その後ろについていくアタシ。
それまで盗み見していたはずの母さんだが、まったくそんな素振りも見せずに店主として対応する。
素は肝っ玉系母ちゃんだが、見た目は美人だし演技派でもあるので、たいていの人はおしとやかな淑女みたいだと騙される。
「御馳走様でした。すみません、長居してしまって」
「こちらこそすみません、おくつろぎの所、ウチの娘がお邪魔してしまったみたいで」
どちらも演技派だ。
何も知らない人が見れば品のある女性店主と、礼儀正しい男子高生なんだろうけど、アタシから見ると二人の頭の上にかぶった猫が何匹も見えてジャレあっているようだ。
タヌキとキツネの化かし合いみたいな陰険なものじゃないだけマシか。
「いえ、とんでもないです。夏木さん……青葉さんには学校でとてもお世話になっていまして」
「は?」
母さんがこっちを見たが、アタシはそっぽ向いてスルーだ。
後で色々と聞かれるんだろうなぁ、いやだなぁ。
「申し遅れました。ボク、宮城京と言います。青葉さんとはクラスメートで席が隣です」
「あら、そうでしたか。青葉がご迷惑おかけしていなければいいんですが……」
チラチラとアタシを見る母さんの目は、何で黙っていた、という不満と追及がこもっている。
しかしその顔も宮城に向き直る時には、微笑みに変わっている。
「でしたら今日はいつもお世話になっているお礼、という事でお勘定は結構ですよ」
母さんが宮城からレシートを強引に受け取りながらそう言った。
「いえ。お世話になっているのはボクの方ですから、そういうわけにはまいりません、ええと……お姉さま」
宮城もまたそう言いながら母さんからレシートを取り返そうとして……おい、やめろ! さりげなく母さんの手を握るな! 本当にやめろぉぉ!
「あ、失礼しました。急に触れてしまってご不快でしたね。ごめんなさい」
知ってるぞ、宮城、オメー! そのいじらしい表情も演技だってな! 人の母親を逆ナンするな!
「い、いあいあ、こんなオバさんの手なんて、恥ずかしくてね!? あと、お姉さまはいくらなんでもお世辞がミエミエだからやめなさいな。悪い気はしませんけどね?」
母さんも……半分冗談、半分本気になってない? 大丈夫? 半分も本気って事だぞ?
「本当に? ……お姉さまでなくて?」
「母さんが十九で産んだのがアタシだ。若く見えても四十前だよ」
アタシはそれ以上の暴走を止めるべく、宮城の肩に手をかける。
これ以上、踏み込むなら力ずくで店から叩きだすしかない。
だと言うのに。
コイツはさらに余計な事をほざいた。
「お母さま? お化粧、お上手? なんですね?」
普通なら失礼にあたるだろう言葉だが、ほとんど化粧をしない母さんの場合、これも褒め言葉になっちまう。
実際、母さんが見た事もない顔になってきた。
心なしか……ほっぺ、赤くなってないか?
ヤバイ、これはもうヤバイ。
宮城が母さんにコーヒーぶっかけられる前に、とっとと店から叩きださないと。
アタシはバカの肩に置いてた手に力をこめつつその言葉を否定した。
「飲食業だぞ? 母さんはあんまり化粧しねーよ」
さーて、お帰りの時間だ。
と思った瞬間。
「夏木さんとよく似てるよね。へー、なら夏木さん、将来はもっと美人になるんだなー」
もっと?
それは今も美人って……事なんだろうか。
つい嬉しくて、手にこめていた力が抜けた。
……クソ。
アタシ、我ながらチョロすぎないか?
いかん。気を引き締めないと。
「とにかくこの人はアタシの母さんって事で気が済んだな? あとここはアタシが持つから。それで二人ともいいだろ」
アタシは宮城が、目の前のおっぱいお化けをようやく母さんだと認識したのを見て会話を打ち切る。
ついでにレシートも取り上げた。
……あいかわらず、大きくてゴツゴツした手だ。
「そう? じゃあ、ごちそう様、夏木さん」
「別にいいさ、このくらい」
一日分の手伝い賃の半分は飛んだけどな。
「ふふふ。じゃあ、今度、体で返すね?」
「バっ、おまっ!?」
母さんの前でなんつー冗談……いや、本気だ。コイツは本気で言ってる。
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