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『幕間:GW編・二日目 夏木青葉の母、涼香(スズカ)の、とある一日(1)』
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『幕間:GW編・二日目 夏木青葉の母、涼香(スズカ)の、とある一日(1)』
「ふいー」
いまだ本調子とはいかないものの、なんとか今まで通り営業していけるだろう、というほどに足が動かせるようになってきた。
アレは一ヶ月ほど前の話だったか。
その日の営業を終え、店の敷地内を掃除していた時に転んでしまったのが事の始まり。
足の付け根を強く打ってしまい、いったーと言いながら、立ち上がろうとして……まったく脚に力が入らない。
なんだなんだ? と混乱しながらも這うようにして店のドアをあけて娘を呼んだ。
面倒そうな声の返事が二階からした後、店の入り口で転がってる私を見て駆け寄ってくる我が娘、青葉の慌てようはなかなか見ごたえがあった。
娘の肩を借りて店に入り、客用ソファに腰を下ろす。
どうしたのかと問いかける娘に対して、私はそこで転んだものの脚に力が入らないと答える。
痛みは無いが脚が動かないので自力で病院に行くことも難しい。
客商売だし、大げさにしたくなかったものの、結局は救急車に来てもらった。
時間も診療外だったため、救急指定の総合病院へ。
そこでようやく大腿骨骨折という事がわかり、そのまま入院。骨折しているのに痛みがないということもあるのだと四十年近く経った人生で初めて学んだが、できれば一生、自分の経験で学びたくもない知識だった。
その後、ボルト固定の手術を受け、リハビリも含む一ヶ月弱を入院と通院に費やしたが、ようやくこうして現場復帰できた。
多少つっぱる感覚はあるが自力で立てない、歩けない、座れない、という事もなく、こうして店もなんとかまわせるほどに回復した。
重いものを持ったりは怖いが休みの日は青葉も手伝ってくれているし、なんとかやっていけるだろう。
青葉は忙しかった昼の手伝いを終えたあと、自前で作ったサンドイッチを持って自分の部屋に上がっていった。
すでに時間は15時をまわっている。店の営業は7時から16時まで。
これから来る客もわずかだし閉店時間も近い。かつ、ヒマな時間でもあるので私はテーブルの拭き掃除などを始めていたのだが。
カランカラン、と玄関のベルが鳴る。
「いら……っしゃいませ。一名様ですか? お好きな席にどうぞ」
「はい」
客に向かって挨拶をした時、驚きの声をあげなかった自分をほめたい。
そこには、おっっっそろしいまでの美少年がいた。
私があと十年若かったら放っておかないし、二十年若かったらこの場で押し倒していただろう、それほどのイケメンボーイだ。
ふ、貞操を守ったな少年、キミは運がいいぞ。
などと妄想をしつつすぐにカウンターにひっこみ、お冷を用意しながら、そのイケメンに見えないようにスマホを取り出して青葉にメッセージを送る。
あんなイケメンは滅多に見られないし、親子で目の保養としゃれこもうじゃないか。
『緊急事態発生、即帰還セヨ』
と五秒かからず送信。
だが三十秒以上たってうよやく返ってきた返信は『眠い』。
娘はいまだにフリック入力ができないトロい生き物なのだ。
いや、そんな事はどうでもいい。私は再度メッセージを送りつける。
『イケメン襲来、イケメン襲来! アレを見ないともったいないお化けが出るぞ!』
と九秒で送信する。
二秒で二階から降りてくる足音が響く。
「……母さん? マジで?」
エプロンをつけながら店に戻ってきた青葉なのだが、とてもイヤそうな顔をしていた。なぜよ?
「ほらほらアレアレ。奥のボックス席でこっちに背中向けて座ってる若い男がいるだろ? せっかくだから間近で拝んできな。はい、お冷。注文も聞いてきなよ? ついでに連絡先とスリーサイズ、今、彼女が何人いるかもな!」
私はお冷とおしぼりの載ったトレイを娘に押し付ける。
「……アタシはいいよ。母さん、いってきなよ。イケメン好きだろ?」
「親孝行なら店の手伝いだけで十分だ。ほら、はやく行きな!」
「う、うー」
結局、トレイを受け取った青葉がそれを持って、美少年の座るボックス席へ向かった。
つっぱったナリをしてるが、男に縁がないのは若いころの私と同じだ。
きっと顔を赤くしながら、しどろもどろになるに違いない。後で盛大にからかってやろうと観察していると。
「いらっしゃいませ!」
あのバカ娘、あんなデカい声で挨拶するとか、どんだけ緊張してるのか?
「ふいー」
いまだ本調子とはいかないものの、なんとか今まで通り営業していけるだろう、というほどに足が動かせるようになってきた。
アレは一ヶ月ほど前の話だったか。
その日の営業を終え、店の敷地内を掃除していた時に転んでしまったのが事の始まり。
足の付け根を強く打ってしまい、いったーと言いながら、立ち上がろうとして……まったく脚に力が入らない。
なんだなんだ? と混乱しながらも這うようにして店のドアをあけて娘を呼んだ。
面倒そうな声の返事が二階からした後、店の入り口で転がってる私を見て駆け寄ってくる我が娘、青葉の慌てようはなかなか見ごたえがあった。
娘の肩を借りて店に入り、客用ソファに腰を下ろす。
どうしたのかと問いかける娘に対して、私はそこで転んだものの脚に力が入らないと答える。
痛みは無いが脚が動かないので自力で病院に行くことも難しい。
客商売だし、大げさにしたくなかったものの、結局は救急車に来てもらった。
時間も診療外だったため、救急指定の総合病院へ。
そこでようやく大腿骨骨折という事がわかり、そのまま入院。骨折しているのに痛みがないということもあるのだと四十年近く経った人生で初めて学んだが、できれば一生、自分の経験で学びたくもない知識だった。
その後、ボルト固定の手術を受け、リハビリも含む一ヶ月弱を入院と通院に費やしたが、ようやくこうして現場復帰できた。
多少つっぱる感覚はあるが自力で立てない、歩けない、座れない、という事もなく、こうして店もなんとかまわせるほどに回復した。
重いものを持ったりは怖いが休みの日は青葉も手伝ってくれているし、なんとかやっていけるだろう。
青葉は忙しかった昼の手伝いを終えたあと、自前で作ったサンドイッチを持って自分の部屋に上がっていった。
すでに時間は15時をまわっている。店の営業は7時から16時まで。
これから来る客もわずかだし閉店時間も近い。かつ、ヒマな時間でもあるので私はテーブルの拭き掃除などを始めていたのだが。
カランカラン、と玄関のベルが鳴る。
「いら……っしゃいませ。一名様ですか? お好きな席にどうぞ」
「はい」
客に向かって挨拶をした時、驚きの声をあげなかった自分をほめたい。
そこには、おっっっそろしいまでの美少年がいた。
私があと十年若かったら放っておかないし、二十年若かったらこの場で押し倒していただろう、それほどのイケメンボーイだ。
ふ、貞操を守ったな少年、キミは運がいいぞ。
などと妄想をしつつすぐにカウンターにひっこみ、お冷を用意しながら、そのイケメンに見えないようにスマホを取り出して青葉にメッセージを送る。
あんなイケメンは滅多に見られないし、親子で目の保養としゃれこもうじゃないか。
『緊急事態発生、即帰還セヨ』
と五秒かからず送信。
だが三十秒以上たってうよやく返ってきた返信は『眠い』。
娘はいまだにフリック入力ができないトロい生き物なのだ。
いや、そんな事はどうでもいい。私は再度メッセージを送りつける。
『イケメン襲来、イケメン襲来! アレを見ないともったいないお化けが出るぞ!』
と九秒で送信する。
二秒で二階から降りてくる足音が響く。
「……母さん? マジで?」
エプロンをつけながら店に戻ってきた青葉なのだが、とてもイヤそうな顔をしていた。なぜよ?
「ほらほらアレアレ。奥のボックス席でこっちに背中向けて座ってる若い男がいるだろ? せっかくだから間近で拝んできな。はい、お冷。注文も聞いてきなよ? ついでに連絡先とスリーサイズ、今、彼女が何人いるかもな!」
私はお冷とおしぼりの載ったトレイを娘に押し付ける。
「……アタシはいいよ。母さん、いってきなよ。イケメン好きだろ?」
「親孝行なら店の手伝いだけで十分だ。ほら、はやく行きな!」
「う、うー」
結局、トレイを受け取った青葉がそれを持って、美少年の座るボックス席へ向かった。
つっぱったナリをしてるが、男に縁がないのは若いころの私と同じだ。
きっと顔を赤くしながら、しどろもどろになるに違いない。後で盛大にからかってやろうと観察していると。
「いらっしゃいませ!」
あのバカ娘、あんなデカい声で挨拶するとか、どんだけ緊張してるのか?
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