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『GW編・初日 かつての闘技場は様変わりしていた(2)』

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『GW編・初日 かつての闘技場は様変わりしていた(2)』

対戦代の向こうに座っていた子は、顔も背も手も、あきらかに小さい。

「……小学生か」

こういうのはあちらさんとも不思議と目が合うもので、視線が合ったお子様は一瞬、きょとんとする。

小学生がゲームセンターのビデオコーナーに出入りするというはどうなんだと思うが、自分だってなけなしの小遣いを持って連続技の練習をしたりしていたものだ。

それはともかく。

少女は固まったまま動かない。

フ、このイケメンフェイスに言葉を失ったか。

さもあらん。

オレだって、かつて美人のお姉さんと対戦した時は緊張したものだ。

だが。

相手の小学生(推定四年生)はオレが今ボッコボコにした対戦相手と悟った瞬間、クスクスと笑い出し、あげくこう言い放った。

「よわーい!」

と。

別にイケメンに驚いたわけではなく、対戦相手が男だったから驚いただけのようだ。

ふむ、このお年頃はまだ色気より、やんちゃな頃か。

まー、実際、弱かったわけで敗者が何を言ってもそれは負け惜しみでしかない。

「ざーこざーこ!」

しかし、それは言い過ぎじゃないでしょうか。

お兄さん、泣くぞ?

だがリアルで、ざーこざーこと言われるのは貴重な経験だ。

せっかくなので、もう少し味わっていこう。

オレは笑顔でお嬢ちゃんに近づき、声をかける。

「お嬢ちゃんは強いねー」
「でしょー! お兄さんはよわよわだね!」

褒めると自慢気に笑う。反応が素直でかわいい。

「横で見てていい?」
「いーよー!」

観戦者ができてますます機嫌をよくするお嬢ちゃん。

プレイの邪魔にならないよう、少し離れて横に立ち観戦するオレ。

十分ほど眺めていただろうか。

数人の対戦者が現れたが、ほぼ一方的に勝利をおさめていた。

対戦者は中学から高校生らしき年頃のお嬢さんたちだが、それらをなぎ倒すとは間違いなく本物だろう。

少なくとも後ろで見ていたオレではさっぱりついていけないレベルだった。

そりゃ勝てんわ。

「いやー、すごいね、いいもの見たよ」
「ふふーん!」
「良かったら教えてくれない?」
「えぇ、めんどくさーい」

おい。おいおい。

オレがガキの頃ならキレーなお姉さんにそんなふうに言われたらホイホイついていくというのに、このお嬢ちゃんはガチでゲーマーか。

「あ」

そんなお嬢ちゃんのドヤ顔マックスな表情が、一瞬で蒼白に切り替わった。

「失礼。こちらの子とお知り合いですか?」

急に背後から声をかけられ、振り返ればスーツの女性が立っていた。

年は五十近いだろうか? おばあちゃんと呼ぶには失礼だが、おばさんというには微妙なお年でもある。

「うわ、先生」

そのつぶやきで、大人しくなったお嬢ちゃんとの関係性を理解した。

ところどころ白髪混じりの髪を後ろにひっつめた女性の腕には腕章がありそこには『防犯巡回中』の文字が。

どうやら少女の学校の先生らしい。

オレが黙っていると、先生はお嬢ちゃんに話しかける。

「遊んではいけないと言いませんが、宿題は進んでいますか?」
「う、えっと……はい」

これは進んでいませんなぁ。

「帰りなさい、とは言いませんが、提出が遅れれば”また”宿題が追加されますよ? 知っていますね?」
「は、はい」

これは前科もありますねぇ。

「……それで、まだ遊んでいくのですか?」
「か、帰ります」

先生のこの言い方はちょっと意地悪な気がするが、オレとしても小学生の頃からゲームセンターに入り浸るというのはあまり良くないと思う。

先生だって好きでこんなキツく言いたくないだろう。

仕事だろうがなんだろうが、子供の笑顔が曇るのを見て喜ぶ大人はいない。

「お、お兄ちゃん、これ、やっていいよ」

プレイの途中だったため、捨てゲー(プレイを放棄して席を立つ事)は気がとがめたのか、オレに席をすすめる。

「そっか。じゃ、お金」
「あ、うん、でも」

プレイ途中の交代では受け取れないと思ったのだろうが、この年頃の百円玉の重さをオレはよく知っている。

「いいよいいよ。勉強がんばってね」
「……また今度あったらゲーム教えてあげる」
「本当? 嬉しいなぁ」

デレました。

そうして先生に見送られるようにして、幼い修羅は立ち去った。
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