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『クラスに転入してきた少年は天使だった(冬原interval01)』
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『クラスに転入してきた少年は天使だった(冬原interval01)』
新学期になり、私は新しいクラス名簿を見て心の中でガッツポーズをしていた。
我が二年一組には男子生徒がいないのだ。
男子生徒はバランスよく各クラスに編入されるため、ゼロという事はあまりある事ではないが実際ない事もないのだ。
男子生徒というのはハッキリ言ってトラブルの原因だ。
クラスにおける男女の人数差は、一人、ないし、二人の男子に対して、女生徒は三十人近い。
一時の恋愛感情、それもほぼ報われることのない男子との交際目当てに争いが生まれ、奪い合いに至り、やがて崩れていく女の友情は何度も見てきたし、そういった問題というのは教師が介入したところでどうにかなるものではない。
むしろ、余計にこじれる。
男子に味方すれば年増女が若い男に媚を売ってと言われ、女子に味方すれば男性蔑視だの差別だとセクハラだのと訴訟寸前までいったもことあり、間をとろうとすれば教師としての問題解決能力がうぬんかんぬんと上から言われる始末。
ハッキリいえば、男子生徒の顔なんて見たくない。
ゆえに今年の担任はラクができると思っていたのに。
まさかの男子転入生だ。
それも四月が始まってすぐに。ぬか喜びもいいところだった。
学生のころは自分のクラスに何人の男子がいるかというだけで友人相手に上か下かを競えるほどの話題だったが、教師という立場になると浮かれている小娘どもが憎たらしくて仕方ない。
今でも付き合いのある学生時代の空手部活の先輩からは『若い男と同じ空間を共有できるなんて、毎日目の保養ができてうらやましいな』とからかわれるが、決してそんないいものじゃない。
ただでさえ難しい年頃の男子生徒だ。扱いを間違えれば即爆発する危険物。
遠くから眺めていられる立場なら目の保養もできるだろう。
しかし担任となると心労が遥かに勝る。
私は朝のホームルームのたびに、転入生の顔を見て今日も問題を起こさないでくれよと願いつつも……その尋常じゃない美少年に見とれてもいた。
仕方ないだろう!?
二年前から始めた姉活が、かけた金と時間と労力に対してまったく成果をあげていないんだ。
そんなところへ、物理的には手が届くが、絶対に手を出してはいけない距離にあんな美少年をよこすなんて、この世に神はいないと確信したよ。
しかもその美少年、名を宮城京というが、宮城はトラブルを起こすこともなく毎日を平穏に過ごしている。
いや、そればかりかクラスにとてもなじんでいる。
隣席の夏木などとは距離が近いためか、ホームルーム中でも小声でちょくちょく会話もしているようだ。
考えられない光景だ。
男子が自分から女子に話かけるというのは、よほど大事な要件か、パシリに使う時くらいものだろう。
それがどうだ。
笑顔で話しかけているのは宮城であり、それを迷惑そうな顔で受け答えしているのが夏木だ。
しかし夏木。男子にかまわれてそのツラは私の鉄拳が飛んでも文句が言えん話だぞ?
宮城の社交性はかなり高く、他のクラスメートに対しても距離感が近い。
男子というのは写真や動画を撮られるのを非常に嫌悪する。
なぜか?
女子のおかずに使われるからだ。
無論、そうでない女子もいるだろう。
単純に好ましい相手の姿を手にしておきたいという純粋な想いもあるだろうが、それはそれ、これはこれ、手元にあって使わない女はいない。
よって男子本人の承諾のない隠し撮りなどは、特にトラブルの原因になりやすい。
実際に撮っていなくても、女子のケータイが男子の方を向いていたら盗撮を疑われても仕方ない事だ。
だから小娘どもは策を弄する。
教科書に穴をあけて授業中に盗撮する者。
動画モードにしてさりげなく男子の方向へ向けて、あとから静止画としてトリミングする者。
処罰を覚悟でがっつり動画盗撮する者。
じつに様々な手法と覚悟をもってケータイを駆使する欲求不満な小娘どもだが、私とてかつては同じ道を歩んだ修羅だ。
たいがいの手段は熟知しているし、その衝動も仕方ないものとして、度が過ぎるもの以外は見ないふりをする事にしている。
しかし。
私は信じられない光景を見た。
それも一回や二回ではない、ほぼ毎日。
それは女子と一緒に写真を撮られる宮城の姿だ。
乞われればいつでも一緒に、それも笑顔で撮影に応じている。
金銭などのやり取りがあるのではと疑ったが、そういう事もなさそうだった。
加えて自身一人での写真撮影にも応じてる。
しかもふざけながらとはいえ、ポーズまでつけるほどのサービス精神だ。
クラスメートの男子というのは朝と帰りに挨拶を返してくれるだけで幸せを感謝するほどの対象。
であれば、この宮城という男子はクラスの女子たちにとっては神そのものであり、他のクラスの女子からすれば一組というのは理想郷とも言えるだろう。
そうなると不思議な事に抜け駆けをしようとする生徒がいなくなった。
男に飢えたメス狼の群れは宮城という極上の餌を共有するように規律良くまとまったのだ
盗撮する必要もなく、いつでも笑顔で言葉を返してくれる、しかも美少年。
それを誰かの一時の暴走によって台無しにならないように、互いが互いを監視しつつも、自制するようになったのだ。
おかげでウチのクラスに、男子と女子にありがちなトラブルは一切起こっていない。
私はきっとこの一年、今後の長い教師生活でもっとも平穏なものになるだろうと確信していた。
新学期になり、私は新しいクラス名簿を見て心の中でガッツポーズをしていた。
我が二年一組には男子生徒がいないのだ。
男子生徒はバランスよく各クラスに編入されるため、ゼロという事はあまりある事ではないが実際ない事もないのだ。
男子生徒というのはハッキリ言ってトラブルの原因だ。
クラスにおける男女の人数差は、一人、ないし、二人の男子に対して、女生徒は三十人近い。
一時の恋愛感情、それもほぼ報われることのない男子との交際目当てに争いが生まれ、奪い合いに至り、やがて崩れていく女の友情は何度も見てきたし、そういった問題というのは教師が介入したところでどうにかなるものではない。
むしろ、余計にこじれる。
男子に味方すれば年増女が若い男に媚を売ってと言われ、女子に味方すれば男性蔑視だの差別だとセクハラだのと訴訟寸前までいったもことあり、間をとろうとすれば教師としての問題解決能力がうぬんかんぬんと上から言われる始末。
ハッキリいえば、男子生徒の顔なんて見たくない。
ゆえに今年の担任はラクができると思っていたのに。
まさかの男子転入生だ。
それも四月が始まってすぐに。ぬか喜びもいいところだった。
学生のころは自分のクラスに何人の男子がいるかというだけで友人相手に上か下かを競えるほどの話題だったが、教師という立場になると浮かれている小娘どもが憎たらしくて仕方ない。
今でも付き合いのある学生時代の空手部活の先輩からは『若い男と同じ空間を共有できるなんて、毎日目の保養ができてうらやましいな』とからかわれるが、決してそんないいものじゃない。
ただでさえ難しい年頃の男子生徒だ。扱いを間違えれば即爆発する危険物。
遠くから眺めていられる立場なら目の保養もできるだろう。
しかし担任となると心労が遥かに勝る。
私は朝のホームルームのたびに、転入生の顔を見て今日も問題を起こさないでくれよと願いつつも……その尋常じゃない美少年に見とれてもいた。
仕方ないだろう!?
二年前から始めた姉活が、かけた金と時間と労力に対してまったく成果をあげていないんだ。
そんなところへ、物理的には手が届くが、絶対に手を出してはいけない距離にあんな美少年をよこすなんて、この世に神はいないと確信したよ。
しかもその美少年、名を宮城京というが、宮城はトラブルを起こすこともなく毎日を平穏に過ごしている。
いや、そればかりかクラスにとてもなじんでいる。
隣席の夏木などとは距離が近いためか、ホームルーム中でも小声でちょくちょく会話もしているようだ。
考えられない光景だ。
男子が自分から女子に話かけるというのは、よほど大事な要件か、パシリに使う時くらいものだろう。
それがどうだ。
笑顔で話しかけているのは宮城であり、それを迷惑そうな顔で受け答えしているのが夏木だ。
しかし夏木。男子にかまわれてそのツラは私の鉄拳が飛んでも文句が言えん話だぞ?
宮城の社交性はかなり高く、他のクラスメートに対しても距離感が近い。
男子というのは写真や動画を撮られるのを非常に嫌悪する。
なぜか?
女子のおかずに使われるからだ。
無論、そうでない女子もいるだろう。
単純に好ましい相手の姿を手にしておきたいという純粋な想いもあるだろうが、それはそれ、これはこれ、手元にあって使わない女はいない。
よって男子本人の承諾のない隠し撮りなどは、特にトラブルの原因になりやすい。
実際に撮っていなくても、女子のケータイが男子の方を向いていたら盗撮を疑われても仕方ない事だ。
だから小娘どもは策を弄する。
教科書に穴をあけて授業中に盗撮する者。
動画モードにしてさりげなく男子の方向へ向けて、あとから静止画としてトリミングする者。
処罰を覚悟でがっつり動画盗撮する者。
じつに様々な手法と覚悟をもってケータイを駆使する欲求不満な小娘どもだが、私とてかつては同じ道を歩んだ修羅だ。
たいがいの手段は熟知しているし、その衝動も仕方ないものとして、度が過ぎるもの以外は見ないふりをする事にしている。
しかし。
私は信じられない光景を見た。
それも一回や二回ではない、ほぼ毎日。
それは女子と一緒に写真を撮られる宮城の姿だ。
乞われればいつでも一緒に、それも笑顔で撮影に応じている。
金銭などのやり取りがあるのではと疑ったが、そういう事もなさそうだった。
加えて自身一人での写真撮影にも応じてる。
しかもふざけながらとはいえ、ポーズまでつけるほどのサービス精神だ。
クラスメートの男子というのは朝と帰りに挨拶を返してくれるだけで幸せを感謝するほどの対象。
であれば、この宮城という男子はクラスの女子たちにとっては神そのものであり、他のクラスの女子からすれば一組というのは理想郷とも言えるだろう。
そうなると不思議な事に抜け駆けをしようとする生徒がいなくなった。
男に飢えたメス狼の群れは宮城という極上の餌を共有するように規律良くまとまったのだ
盗撮する必要もなく、いつでも笑顔で言葉を返してくれる、しかも美少年。
それを誰かの一時の暴走によって台無しにならないように、互いが互いを監視しつつも、自制するようになったのだ。
おかげでウチのクラスに、男子と女子にありがちなトラブルは一切起こっていない。
私はきっとこの一年、今後の長い教師生活でもっとも平穏なものになるだろうと確信していた。
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