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『男の少ない社会での暗黙』

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『男の少ない社会での暗黙』

要するに不用意にやらかす前に、やる事やってからヤレという話だ。

冬原先生がさらに言葉を足す。

「女子からすれば社会に出る前の学校生活という期間は、おおかたの人生で男性と接触できる最も長い時間でもあるからな。積極的な女子も多い。無論、無理強いなどは言語道断だが」

言われてみればそうかもしれない。

男女比が三十倍の世界では自然と女職場ばかりだろう。

職場にまったく男がいないというのも珍しい話ではなかろうし、逆にクラスに一人か二人と言えど、毎日男と接触できる機会があるというのは学生時代だけという女性も出てくるわけか。

夏木さんも自分が男とあんな事こんな事をするとは思ってもいなかったと言っていたし。

最初の駄賃うんぬんだって、手をつなぐ、だったくらいだからなぁ。

オレは自分の価値と立ち位置というのもう少し理解する必要がありそうだ。

いい事ばかりではないだろうし、何かやらかす前に色々と確認しておこう。

「ゆえに男子生徒に過剰にかまおうとする女子も多い。それが原因でクラスの雰囲気が険悪になるという事はめずらしくないし、男子も女性嫌悪や蔑視意識などが強くなってしまう事もある」

この世界の男子はモテモテだぜヤッターとはならないようだ。

言われてみればオレも毎日クラスの女子には構われている。

確かにスキンシップとはまでは言わないが、グイグイくる子もいるし、一緒に写真を撮ってと言ってくる子もいる。

前世は自分の写真など大嫌いだったが、イケメンになってみると自分に対しての余裕というものがすごい。

さぁ、好きなだけお撮りなさい、という心持ちになる。

請われればセクシーポーズもサービスする心積もりだが今の所そういった要望は受けた事はない。

せいぜい肩を密着させるほどに寄って写真をとるくらいだ。

そう考えると冬原先生からすれば、オレは女子と問題をおこさない扱いやすい生徒というわけか。

「宮城はクラスの誰に対しても人当りがいいし、女子との関係も良好のようだ。今年はどんな男女間トラブルが起きるかと思っていたからな。担任としても非常にありがたいし、助かっているよ……あ」

つい本音が出たという顔の冬原先生が、すぐにしまったという顔でおじいちゃん先生をおそるおそる見る。

「冬原先生。後で少しお時間をもらえますか」
「は、はい」

どうやら冬原先生はおじいちゃん先生に頭があがらないようだ。

「ともかく今日の話はそういう事だ。避妊具に関しては保健室に来ればワシが用意する事もできる。その際に何か悩みがあれば手助けしよう」
「――はい。ありがとうございます」

すごいな、この世界。

保健室で生理用ナプキンを用意するというのは前世では聞いた事があったが、男子生徒に避妊具を用意する、というのは予想外だった。

それだけ男性に対して過保護なのか、少ない男性を少しでも多くの女性に割り当てる為の配慮なのかはわからない。多分どっちもだろうが、これはこれでオレにとってもありがたい話だ。

夏木さんがいつも口に欲しいと言っていたのも、この辺りが原因かもしれない。

お口のエッチな娘さんに育ってくれましたと喜んでいたが、実際は現実的な配慮をしてくれていただけの可能性もある。

後で確認しておこう。

「では本日はこれにて解散としよう。繰り返すが冊子に目を通しておくように。不明な点な質問があればワシか担任の冬原先生に質問しなさい」
「うむ。宮城。一人で悩む事はないからな。恥ずかしがらず、何かあれば大人に頼れ」

キリっとした顔の冬原先生。

失言の失点をカバーするようにその薄い胸をドンと叩いた。

「はい。その時はよろしくお願いします、今日はありがとうございました」
「ああ、放課後に悪かったな。では私も一緒に戻ろう」

席を立ちあがり、退室しようとしたオレに冬原先生が続くが。

「冬原先生は少しお待ちを」
「……はい」

上手い事逃げようとしていた冬原先生がつかまった。

冬原先生は案外、面白い人かもしれない。
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