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『傘』
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『傘』
「あんまコッチくんな! 肩がぬれるだろ!」
「ボクの傘だし。ちゃんと持ってよ」
「クソが」
放課後、突然の土砂降り。
怒涛のように振り続ける雨を前に校舎玄関で絶望していると、帰り支度のトロい生き物がようやく靴をはいてやってきた。
「うわぁ、すごい雨」
「見りゃわかる」
「じゃあね」
するとコイツは折り畳みの傘を広げて、雨の中へ歩き出した。
「待て待て待て!」
「なに?」
「何? じゃねぇよ、入れろよ!」
コイツ素でなに? とか返したぞ? 血の色、青いんじゃねぇのか!?
「でもこれ折り畳みで小さいし、ヒビキが入ったらボクが濡れるでしょ?」
「いや、そうだが、そこは仕方ないなって言うところだろ」
「えー」
本気でイヤそうな顔になる。幼馴染に対する所業とは思えん。
「じゃあ、はい。持って」
「ん、おう?」
差し出された傘を手に取るオレ。
「オレが持つのかよ」
「ボクが持つとヒビキの頭をつっつくよ? そのムダに大きい背が役に立つね?」
いちいち腹の立つヤツだ。
だが、ここで文句を言って一人で帰られると困る。今は泣き寝入りだ。
というか、コイツはオレが文句を言えないとわかっていてやっているから始末が悪い。
オレが傘を持つとぐいぐいとこちらに寄ってくる。
「寄りすぎだ。オレが濡れるだろ!」
「これでもボクの肩、冷たいんですけど」
一つ傘の下、オレが左、青い血の冷血漢が右。
たしかにお互いの肩は濡れているが、あきらかにオレの方が濡れている。
だというのに。
「もっと中に入れてよ」
「もう無理だっつーの! 冷てぇ!」
オレの胸元まで寄り添うにして密着してくる。
それを突き離したりと、押し合いしているうちに二人ともずぶ振れだ。
肩どころか首の近くまで傘からはずれて、襟から雨が首の中に雨が入り込んでくるし、髪からも水滴が垂れている。
もう、傘、意味ねーな。
「冷たい。もっと寄ろうよ。くっつけ少しは暖かいんじゃない?」
「二人してこんだけ濡れてんのにあったかいわけねえだろうが!」
「そう? ……ボクは暖かいよ?」
胸元に入り込むようにしてきたキョウのつむじ髪がオレの鼻先をくすぐる。
その髪も肩もびしょ濡れだってのに、何を言ってるんだコイツは。
結局、雨が弱まる事もなくオレたちは傘の下を取り合いながら帰宅した。
「あんまコッチくんな! 肩がぬれるだろ!」
「ボクの傘だし。ちゃんと持ってよ」
「クソが」
放課後、突然の土砂降り。
怒涛のように振り続ける雨を前に校舎玄関で絶望していると、帰り支度のトロい生き物がようやく靴をはいてやってきた。
「うわぁ、すごい雨」
「見りゃわかる」
「じゃあね」
するとコイツは折り畳みの傘を広げて、雨の中へ歩き出した。
「待て待て待て!」
「なに?」
「何? じゃねぇよ、入れろよ!」
コイツ素でなに? とか返したぞ? 血の色、青いんじゃねぇのか!?
「でもこれ折り畳みで小さいし、ヒビキが入ったらボクが濡れるでしょ?」
「いや、そうだが、そこは仕方ないなって言うところだろ」
「えー」
本気でイヤそうな顔になる。幼馴染に対する所業とは思えん。
「じゃあ、はい。持って」
「ん、おう?」
差し出された傘を手に取るオレ。
「オレが持つのかよ」
「ボクが持つとヒビキの頭をつっつくよ? そのムダに大きい背が役に立つね?」
いちいち腹の立つヤツだ。
だが、ここで文句を言って一人で帰られると困る。今は泣き寝入りだ。
というか、コイツはオレが文句を言えないとわかっていてやっているから始末が悪い。
オレが傘を持つとぐいぐいとこちらに寄ってくる。
「寄りすぎだ。オレが濡れるだろ!」
「これでもボクの肩、冷たいんですけど」
一つ傘の下、オレが左、青い血の冷血漢が右。
たしかにお互いの肩は濡れているが、あきらかにオレの方が濡れている。
だというのに。
「もっと中に入れてよ」
「もう無理だっつーの! 冷てぇ!」
オレの胸元まで寄り添うにして密着してくる。
それを突き離したりと、押し合いしているうちに二人ともずぶ振れだ。
肩どころか首の近くまで傘からはずれて、襟から雨が首の中に雨が入り込んでくるし、髪からも水滴が垂れている。
もう、傘、意味ねーな。
「冷たい。もっと寄ろうよ。くっつけ少しは暖かいんじゃない?」
「二人してこんだけ濡れてんのにあったかいわけねえだろうが!」
「そう? ……ボクは暖かいよ?」
胸元に入り込むようにしてきたキョウのつむじ髪がオレの鼻先をくすぐる。
その髪も肩もびしょ濡れだってのに、何を言ってるんだコイツは。
結局、雨が弱まる事もなくオレたちは傘の下を取り合いながら帰宅した。
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