陽気な吸血鬼との日々

波根 潤

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「さよなら」

五十六、

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 パンを焼いた後はのんびりと過ごし、晩ごはんの時間にはシチューを食べた。なんだか食べてばかりの一日で、俺もケリーもあまりお腹は空いておらず余った分は冷凍した。冷凍庫の中にはケリーが下味をつけてくれたお肉と魚がたくさんあって、暫く食には困らなさそうだった。
 その日の夜、「できれは明日血を吸いたい」と言われた。帰る時に必要な吸血鬼特有の力でもあるのかもしれないと納得し、その日の夜は静かに過ぎて行った。


 俺が昨日、ケリーとパンを焼いている間、清水達はインターハイ予選を順調に勝ち進んでいたらしく今週末にも試合があるのだと教えてくれた。朝清水と会った時、嬉しそうにしていたのだが思い詰めている様子にも見えて少し心配になってしまった。いつものように無表情で、話しかけたら普通に話してくれるのだがずっと体に力が入っているように見える。

 「清水は「負けたら全部俺の責任」とか見当違いなことは言わないけど「俺が乱れたらダメだ」って人一倍思うタイプだから本人が気付かないところで色々と気負っちゃうんだよねー」

昼休憩に、清水がトイレに立ったタイミングで平田が言った。同じ試合に出ていたはずなのに、清水と違って平田はいつも通りでのんびりとパンを食べている。
 元々の性格もあるだろうが、ケリーと会った時も清水は動じていなかった。乱れたら駄目だというのは、もしかしたら普段から清水が心がけているのかもしれない。しかし、人一倍とはどういうことだろう。部長が頼りないのだろうか。

「清水って副部長だよね。部長ってどんな人なの?」
「あー、林?技術はあるけど試合後半とか点差開いてる時とか、焦りが出るとすこーし雑になる感じ。普段は力強いからチームの士気はしっかりあげてくれるんだけど」
「なんか、清水と対照的だね」
「本来清水が部長の予定だったんだけど、本人がサポートの方が向いてるって言って副部長に落ち着いた。そんな訳で相性は良いよ」

「俺とは悪いけど」とぼやくように平田が言っていると、清水が戻ってきた。

「なんの話?」
「林」
「ああ。昨日かっこよかったよね」
「清水のセットが良かっただけじゃん」
「褒められた、嬉しい。チョコあげる」

平田にチョコを渡し、流れるように俺にも渡された。なんだかルーティン化している。だが、貰えるのは嬉しい。
 口の中にチョコを放り込んで舌の上で溶かしながら(もう半日過ぎたな。)とぼんやり思った。



 ホームルームが終わって、部活に行く清水を見送ろうと思ったがその前に「杉野」と話しかけられた。

「なに?」

清水からしたら貴重な練習時間だ。その時間を削ってまで何を話すことがあるのだろう。

「いや、ごめん。全然話聞けなくて」
「話?」
「島崎さんのこと」
「……ああ」

一瞬、誰?と言いそうになり、ケリーのことだと思い出した。最近その呼び名を話すことも無かったので忘れかけていた。

「でも俺、大丈夫って言ったし」
「だけどあの日から様子が可笑しいし、元気が無いように見える。嬉しそうにしてた弁当も、最近は見るの辛そうにしてるし」

流石清水だ、よく見てる。ここ一週間程、平田も一緒に食べるようになって話をする時間は減ったが、気にかけてくれたみたいだ。毎日、来週にはこの弁当は食べられないのだと考えないようにしても頭の中にその考えは浮かんできて、美味しそうな弁当も見るのが辛くなってしまっていた。
 だが、清水がそれに気付いていたとしても、余計な心配をかけたくない。大切な試合を前にする清水に、こんな懸念材料を増やしてはならない。

「清水が思うより全然大丈夫だから。ケイは今日で帰るし、明日から弁当じゃなくなるから残念な気持ちにはなるかもしれないけど、心配する程のことじゃないよ」
「でも……」
「もし気になるなら、来週以降話聞いてよ。今は試合のことだけ考えて。俺のせいで力が発揮できないとかは無いと思うけど、余計な心配事にはなりたくない」

あえて「全然なんともない」とは言わず、寂しい気持ちを強く否定はしなかった。清水は聡いから、そんな嘘が通じる相手では無い。それなら現段階では俺のことなんて考えないように、試合に意識を向けされるようにした。
 清水は「でも」と口を開きかけたが、それ以上言葉は続くことは無く小さなため息を吐いた。

「わかった。試合が終わったらちゃんと聞くから。だけど不安なことがあったらいつでも相談して。一人で悩まないで」
「うん。ありがと」

心なしか清水の顔が和らいだように見えた。試合のことだけじゃなく、俺のことも気かがりだったのかと金曜日に言った投げやりな「大丈夫」という言葉を悔いた。あの時に、今のような言葉をかければ良かったかもしれない。

(なんで清水みたいな人が俺の傍にいてくれるんだろう。)

変な男だが、俺には勿体無いくらいの優しい友達にそのように思った。

「じゃあ、部活行ってくる」
「うん、行ってらっしゃい。頑張って」
「ありがと。気をつけて帰って」

ひらひらと手を振って、清水は教室から出て行った。俺もバイトに行こうと、カバンを手に取った。
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