陽気な吸血鬼との日々

波根 潤

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出会い

四、

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 連れてこなければ良かった。そう思ったのは男にカップ麺を食べさせて、俺はシャワーから帰ってきた直後だった。

 「いやー、ありがとうな!本当助かったわ!!」

 

 アパートに帰ってきてすぐ、俺の隣をよろよろと歩いていた男は丸いローテーブルの前に座り込み、その上に突っ伏した。血を飲んだにも関わらず、歩けるだけの体力しかなかったのかと、担ぐのは無理にしても肩を貸すぐらいはした方が良かったかもしれないと少し申し訳なくなった。男の様子を見ながらカップ麺の準備をする。

(でも吸血鬼にとってのエネルギー源が食事なら血って本当になんなの?血飲んであれって血の価値ショボくない?)

 吸血鬼の生態に疑問は深まる一方だった。

 「カップ麺これしか無かったけど、いい?」
「いい」
「湯いれたから三分待ってこの袋あとで入れて……って食べ方わかる?」
「わかる」
「ならよかった。俺シャワー浴びてくる」

 そう言って、背後から「行ってらっしゃい……」という弱々しい声を聞きながらシャワーに向かった。

(吸血鬼の世界にもカップ麺ってあるんだろうか)

 なぜ食べ方がわかるのがまた疑問だったが、気にせずシャワーを終わらせて男の元に戻る。するとそこには、ローテーブルの上にスープまで飲み干されたカップ麺の容器があり、お腹が満たされたことで元気になって騒がしくなった男がいた。俺を見るやいなや大きな声で話しかけられて、今に至る。呆気に取られていると、俺の様子を気にせず男は話し出した。

 「血吸えなくてフラフラするわ、意識は遠のくわ、おまけにお腹もすいて動けなくなるわで、まじで死ぬかと思った!あと数時間でも遅れてたらヤバかったよ!あ、俺ケリーっていうんだけど、君の名前は?ってか君はごはん食べないの?もしかしてこのカップ麺って君の晩ごはんだった!?だったら申し訳ない!君のおかげで元気になったからね、すぐに買ってくる!って、あ!今こっちの通貨のお金無いんだった!」
「いいから黙って」

 いきなり早口で捲し立てられ、まじかと頭をおさえる。様子が違いすぎる、先程までの静けさはなんだったのだろう。あの様子ならアパートに連れてきても近所迷惑にはならないだろうし、カップ麺だけ食べたらすぐにいなくなると思っていたのに。それどころか人の食事の心配までしてきて意外とお節介な性格なのだろうかと、げんなりする。

(嫌な奴じゃないと追い出すの心苦しいし。)

はあ、とため息を吐く。

「とりあえず静かにして。ここアパート。壁薄いし、騒がしいと迷惑になる」
「あ、そうか。悪い」

そう言って口元に手を覆う仕草に素直で良かったとホッと一息吐く。騒がしいのは嫌いだが、話はわかるようで安心した。

(悪い奴じゃ無さそうだし、気が済むまでいさせるか。)

 渋々そう思い、向かいに座る。男を見ると何が面白いのかニコニコと顔に笑みを浮かべて俺を見ていたので「なに?」と聞くと、

「なんでもない。助けてくれてありがとな」

と改めてお礼を言われて、こそばゆくなった。

「別に、断るとずるずる長引きそうだったから連れてきただけだし」
「それでもありがとう。あと、血も。助かった」
「ああ、そういえば……」

 その言葉に俺は吸血鬼に血を吸われたのだと、なかなかの体験をしたことを思い出す。というのも倒れていた時と今の様子があまりにも違い過ぎて、頭の隅に追いやられていた。

(っていうか、名前ケリー?こんなに日本人っぽいのに)

早口で捲し立てられた衝撃でサラッと聞き流していたけど、確かそう名乗られたはずだ。吸血鬼の中で人間の常識が通じないとは思うが、出会って色々と気になったことがたくさんある。

「ケリーだっけ?いくつか質問していい?」

どうせまだ出て行かないだろうし、気になったことを聞いてみることにした。体は疲れていたはずなのに、この非日常感で全然眠気が襲ってこないし。ケリーは「おお、いいぞ」と和やかに返事をした。

「その前に君の名前を教えてくれないか?」
「ああ、そっか。さっきも聞いてきたな。杉野清飛だよ」
「そっか!清飛って呼んでいいか?」
「お好きにどうぞ」

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