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しおりを挟むカシャンッと金属が擦れる音がして、俺はアルディスを見上げた。
「何でこんなこと…」
アルディスの寝台の上、長い足枷をつけられ座り込む俺の震えた声にアルディスが答えた。
「ごめんね、書庫の整理って言っても王宮内で鉢合わせたら困るから」
にこりと笑って見せているが、いつもの笑顔じゃないことくらいわかっている。貼り付けたみたいな笑顔が、怖い。
おかしい。アルディスに何があった…?
「大丈夫、国交の間だけだ。夜は俺もいるから。」
「待って、本当に何が…っ」
言いかけた言葉は唇に触れたアルディスの人差し指で静止された。
「いいね、この部屋から一歩も出てはいけないよ。」
出てはいけないって…出れるわけないだろう、こんな重い足枷付けられて…!
「マーロ、護衛頼むよ」
「はい」
マーロさんを護衛に?大事な国交期間中に騎士団の中でも主力のマーロさんを俺につけるって…本当にどうゆうことなんだ。
「何も心配しないで。…俺がいないからって泣いちゃだめだぞ?」
「こんな状況で何冗談言ってるんだよ!」
「冗談でもないよ。じゃあまた夜に、愛してるよ」
「まっ…アルディス!!」
バタンと寝室の扉は無慈悲に閉じられた。
こんな事は初めてだ。何かあってもいつも俺に話してくれた。なのに何も言わず一方的にこんなことするなんて…
俺に隠したいことがある?
そういえば誓いを立てたあの日だって、何か様子が変じゃなかったか?
何か焦っているような、不安げな…。
それが原因かはわからないけど、あの時ちゃんと話を聞いておけばよかった。アルディスの力になりたいのに、これじゃまるで囲われの姫じゃないか。
…そんなに頼りないのかな。
一方的なだけじゃいやだ。貴方に忠誠を誓うものとして、寄り添いたい。支えたい。
「マーロさんお願いです、ここから解放してください」
「すまない、まだ無理だ」
「アルディスとちゃんと話さなきゃ…!」
ジャラッと足枷が音を立てる。
マーロさんは俺の顔を見てため息をついた。
「殿下と君の関係は確かに特別だ。でも立場が違う。あの人は国王になる男で、君はただの従者だ。大人しく命令に従いなさい。」
「…それでもっ、」
「大丈夫だ、意外と早く出られるさ」
どうゆうことだ?ただマーロさんが何か知ってるのは確かだ。
マーロさんが去った部屋にはいよいよ自分一人だ。部屋にあるのは数冊の本くらい。
…夜まで待つしかないか。
諦めて寝台に倒れ込んだ。するとキラリと光る何かに気づいた。
「…何だこれ、石?」
キラキラ光る小さなガラスの破片のような。窓から差し込む太陽の光に透かしてみると、それは薄い水色だった。
綺麗…だけどちょっと危ないな。こんな枕元にあったら目に入ってしまうかもしれない。今度メイドに言っておこう。
倒れ込んだ寝台のシーツからアルディスの匂いがする。…こんなときに思い出すことじゃないけど、あの日のことを思って1人赤面してしまう。
優しすぎるとも思えるような手つきで、確かめるように俺に触れてくれたあの夜。子どもの頃から今までずっと一緒にいて、お互い全てを知ってると思ってたけど、そうじゃなかった。
あんな風に全てを見られて、暴かれて。やっと俺の全てがアルディスの物になったと思った。
…なのに、今日のアルディスはまた俺の知らない顔をする。
俺はもう全てアルディスに捧げたのに、アルディスは俺にくれないのか?
それともやっぱり俺はただの従者?こんな風に思うこと自体がわがままなのかな。
「わからないよアルディス。…早く帰ってきて」
そう言って目を閉じた俺は深い眠りについた。
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