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しおりを挟むこの国で近々国交を称し、隣国の王子を招き入れる。
その準備で最近は大忙しだった。
また、アルディスはその隣国の王子の妹、その国の第一王女との婚約話が持ち上がっていることもあり、余計気が重いようだ。
数多くいらっしゃる婚約者候補のご令嬢の中でも隣国の第一王女はその筆頭である。より国と国の縁を深める良い機会となるのだろう。
当の本人であるアルディス自身は結婚自体に消極的だ。何故かはわからない。
俺にとっても、アルディスは唯一無二の存在で、そんな彼が誰かのものになってしまうというのは想像しにくかった。
だけどいつかはそんな未来がやってくる。アルディスが心から想える人に出会ってくれて、幸せになってくれれば、それが俺の幸せだ。王となりこの国を背負うアルディスを少しでも支えられるように、俺ができることは何でもする。
…したいけど、剣の才もなければ身体がたくましいわけでもなく。唯一少しだけ秀でた頭脳で側近の名に恥じぬよう必死にしがみついている。
俺にも何か、アルディスの役に立てる絶対的な何かがあればいいのに。
ふぅ、と息をつき、アルディスに目を通してもらう書類を整理する。
「なんだ…『深海の瞳』?」
それは隣国に関する歴史的な書類。
『深海の瞳』…。深い海の色を閉じ込めた特別な瞳を持つ人間。その瞳は真実を写す鏡であり、その涙はサファイアに。その瞳が王家にあれば国はさらに豊かになろう。
そんな風に記されている。
そんな人がいるのか。迷信だろうけど、涙がサファイアになるなんて、さぞかし綺麗なんだろうなぁ。
ふと近くの壁にかかる鏡を見てみると、少し長い前髪に隠れた自分の瞳が見える。
そういえば自分の目も濃い青色。
昔、アルディスが瞳を褒めてくれたことがある。それまで自分の瞳の色なんて全く興味がなかったが、彼にそう言ってもらえて嬉しかったのを覚えている。
確かにこの国では多くは茶色や緑色の瞳を持ち、髪色は茶色かブロンド。その中で青い瞳と青い髪色を持つ俺は、やっぱり浮いて見える。
「なんでみんなと違うんだろう…」
この国で生まれているから、茶色や緑の瞳になるはずなのに…
「見た目に気を遣うタイプだったか?」
「っアルディス…と、シバナさん」
アルディスは不思議そうに俺を見つめ、シバナさんは怪訝そうに俺を見ていた。
シバナさんはアルディスの第一側近。最近は隣国の件で忙しいから常にアルディスと一緒に行動している。
「何をしてるかと思えば…。早くその資料を執務室へ運べ。」
「は、はい。すみません」
目線を合わせたくなくて、素早く頭を下げた。
シバナさんは俺のことをあまり良く思っていない。彼はとても優秀で、家柄も申し分なく、その上努力を重ねて王の側近になった。そりゃあ、俺みたいな場違いなやつはお断りだろう…
「それでは、失礼します」
「ああ、待ってレイン。」
アルディスに呼び止められ振り向く。アルディスが近づいてきて、肩に手を置いて小さな声で言った。
「今夜俺の部屋にきて。話がある」
「っ」
耳にかかった吐息がくすぐったくて、肩をすぼめる。変な声が出そうになるのを必死に抑えた。
当の本人はにっこり笑いながら、「じゃあ」と手を振って去っていく。
「な、何なんだよもう…」
普通に言ってくれればいいのに。
あんな言い方されたら変に意識してしまって敵わない。
だけど、こんなことでドキドキしてしまう俺が1番ダメだ。
鏡は先程の色白な自分とは違い、赤くなった頬を写し出していた。
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