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番外編 聖者の取説
聖者の取説⑤ 【完】
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酔っていて要領を得ないので聞き出すのに苦労したが、ナナセの話を要約すると、先程のベージュ脂肪細胞の解説と同様にナナセは民族的な特徴で酒精を分解する酵素を持っていないため、酒を飲むと酒精が体内で毒素を出すのだという。
誕生日に飲んだスパークリングワインのように冷やして飲む物なら体内に入ってからも吸収に時間が掛かるため然程影響はないが、グリューワインのように熱い物はあっという間に酒精が回って一気に酔ってしまうのだと……。
そんなことは初耳である。今度は私が蒼白になる番だった。
なんということだ。私は良かれと思ってナナセに毒を盛っていたのだ。
しかし大丈夫なのかナナセの民族は。
よく今まで絶滅せずに生き残ってこられたな。
「ナナセ? それではナナセにとって酒は毒で、ナナセは酒を飲むと死んでしまうという意味に取れるが……」
「死なねーよー♡ いーっぱい♡ 飲まなければー……」
「待て、寝るなナナセ! やはり多量に飲めば死ぬのではないか!? いっぱいとはどのくらいが致死量なんだ!?」
まさか今飲んだ二杯が致死量だったなんてことはあるまいな。
恐ろしくなって少しでも情報を聞き出そうとしたが、ナナセは眠くて首が上手く据わらないのか頭をあっちこっちへぐにゃぐにゃ傾けながら「わかんねえ」とだけ呟いて瞼を瞑ってしまった。
「ナナセ!? ナナセ!? ……水! 水、いや、白湯だ、誰か白湯を持ってこい! 早く!」
ベルを鳴らしてメイドを呼びながらナナセを抱き上げて急ぎ寝室へ運んだ。
頼むからそういう命に係わるような重要な情報はもっと早く教えておいてくれ。
ナナセにとっては普通のことでも私にとっては普通ではない。
寒さに弱く、酒精が毒になるなど、ちょっとしたことで死んでしまうかも知れないではないか。
これは早急に使用人全員に対応を徹底させる必要がある。
ベッドへ横たえた途端に服を脱ぎ始めたナナセに何とか白湯を飲ませながら私が考えていたのは、可及的速やかにナナセの取扱説明書を作成し配布しなければということだった。
――着いて早々そんなことがあり、以来ここブルーメンタール辺境伯領ではナナセには蒸気ではなく直火で煮立てて酒精を完全に飛ばしたグリューワインが供されている。
そんなものでもナナセは香りだけで酔ってしまうようで、飲み終わるとすぐにうとうとと舟を漕ぎ始める。
その瞬間を狙ってすかさず膝の上に抱き寄せてしまえば、耳元でナナセの健やかな寝息を聞きながら暖炉の前で過ごす至福の時間が約束されるのだ。
寒い冬の日、暖炉には赤々と燃える火、膝にはナナセ。
良い――やはり、良い。
番外編 聖者の取説【完】
明日からは「番外編 シュノー・ブリューテ 」が始まります。
誕生日に飲んだスパークリングワインのように冷やして飲む物なら体内に入ってからも吸収に時間が掛かるため然程影響はないが、グリューワインのように熱い物はあっという間に酒精が回って一気に酔ってしまうのだと……。
そんなことは初耳である。今度は私が蒼白になる番だった。
なんということだ。私は良かれと思ってナナセに毒を盛っていたのだ。
しかし大丈夫なのかナナセの民族は。
よく今まで絶滅せずに生き残ってこられたな。
「ナナセ? それではナナセにとって酒は毒で、ナナセは酒を飲むと死んでしまうという意味に取れるが……」
「死なねーよー♡ いーっぱい♡ 飲まなければー……」
「待て、寝るなナナセ! やはり多量に飲めば死ぬのではないか!? いっぱいとはどのくらいが致死量なんだ!?」
まさか今飲んだ二杯が致死量だったなんてことはあるまいな。
恐ろしくなって少しでも情報を聞き出そうとしたが、ナナセは眠くて首が上手く据わらないのか頭をあっちこっちへぐにゃぐにゃ傾けながら「わかんねえ」とだけ呟いて瞼を瞑ってしまった。
「ナナセ!? ナナセ!? ……水! 水、いや、白湯だ、誰か白湯を持ってこい! 早く!」
ベルを鳴らしてメイドを呼びながらナナセを抱き上げて急ぎ寝室へ運んだ。
頼むからそういう命に係わるような重要な情報はもっと早く教えておいてくれ。
ナナセにとっては普通のことでも私にとっては普通ではない。
寒さに弱く、酒精が毒になるなど、ちょっとしたことで死んでしまうかも知れないではないか。
これは早急に使用人全員に対応を徹底させる必要がある。
ベッドへ横たえた途端に服を脱ぎ始めたナナセに何とか白湯を飲ませながら私が考えていたのは、可及的速やかにナナセの取扱説明書を作成し配布しなければということだった。
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良い――やはり、良い。
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明日からは「番外編 シュノー・ブリューテ 」が始まります。
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次章続巻も順次刊行予定
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