251 / 266
番外編 聖者の取説
聖者の取説①
しおりを挟む
⚠️結婚式前、辺境伯領での話です。
――良い。
寒い冬の日、赤々と燃える暖炉の前でソファーに腰掛けて膝の上に微睡むナナセを乗せて過ごす至福の時間。……良い。
異世界から来訪した聖者に一目惚れしたのが一年と半年ほど前。
初めは鮸膠も無く断られ、逃げられてしまったが、今ではこうして私の腕の中で三週間後に控えた結婚式を待っている。
ここに至るまでには数多の紆余曲折があったが、ナナセの提案で私の実家であるブルーメンタール辺境伯領ギュンター城で式を挙げる運びとなったため二人で早めに現地入りした次第だ。
私たちが普段寝起きしている隊舎のある王宮からこの城までは、以前この地を訪れた時と同様に今回も転移門を使用した。
ナナセが私の家族と会うのはこれで三度目だ。
一度目は王都から脱出したナナセを獣人領から連れ帰った直後で、二度目は花嫁が拉致されて敢え無く中止に終わった最初の結婚式の時である。
思い返せば私はナナセに逃げられたり奪われたりしてばかりだが、それはナナセに対する私の理解が足りなかったせいなのだ。
だがこれからは違う。私はもう二度とナナセは手放さない。
そのためにはナナセに対する理解を深める必要があるだろう。
ナナセの行動は常に私の予想の斜め上を行く。
私はナナセに対する認識を改め、もういっそ違う種族の生き物か未知の生物と捉えるべきなのかも知れないと思い始めているレベルである。
それは正に私がそんなことを考えている矢先の出来事だった。
前回と同じく転移門で出迎えた私の両親に挨拶をしようとしたナナセが「へぷちっ」と正気を失いかけるほど可愛らしいくしゃみをしたかと思えば、顔を蒼白にして歯の根が合わないほどガチガチと震え出して挨拶どころではなくなってしまったのだ。
このとき私は知らなかったのだが、私たちの婚礼を見るために冬の妖精たちが集まり始めていて彼らの関心が一気にナナセに集中したために起こった現象だったらしい。
妖精族は気配を消すのが得意で滅多に人族の前に姿を現さないので私も全く気付けなかったのだ。
だがそんなこととは知る由もない私は兎に角これは尋常ではないと判断し、急ぎ城内へ担ぎ込み、暖炉の前へ連れて行くとナナセの身体は驚くほど冷えていた。
それからすぐに風呂の用意をさせ、冷えた身体を熱い湯で温めてグリューワインを飲ませる。
グリューワインは赤ワインにオレンジピール、シナモン、クローブといったハーブ類と砂糖や蜂蜜を加え、酒精を飛ばさないよう直火に掛けず蒸気で一気に熱したもので、ヴェイラ王国では子供の頃から慣れ親しんだ身体を温める冬の飲み物だ。
甘くて飲みやすいからナナセも気に入ったようで、飲み終わる頃には身体もある程度温まり漸く話せるまでに回復した。
「あー、吃驚した……ブルーメンタール領の冬がこんなに寒いとは思わなかったぜ」
――良い。
寒い冬の日、赤々と燃える暖炉の前でソファーに腰掛けて膝の上に微睡むナナセを乗せて過ごす至福の時間。……良い。
異世界から来訪した聖者に一目惚れしたのが一年と半年ほど前。
初めは鮸膠も無く断られ、逃げられてしまったが、今ではこうして私の腕の中で三週間後に控えた結婚式を待っている。
ここに至るまでには数多の紆余曲折があったが、ナナセの提案で私の実家であるブルーメンタール辺境伯領ギュンター城で式を挙げる運びとなったため二人で早めに現地入りした次第だ。
私たちが普段寝起きしている隊舎のある王宮からこの城までは、以前この地を訪れた時と同様に今回も転移門を使用した。
ナナセが私の家族と会うのはこれで三度目だ。
一度目は王都から脱出したナナセを獣人領から連れ帰った直後で、二度目は花嫁が拉致されて敢え無く中止に終わった最初の結婚式の時である。
思い返せば私はナナセに逃げられたり奪われたりしてばかりだが、それはナナセに対する私の理解が足りなかったせいなのだ。
だがこれからは違う。私はもう二度とナナセは手放さない。
そのためにはナナセに対する理解を深める必要があるだろう。
ナナセの行動は常に私の予想の斜め上を行く。
私はナナセに対する認識を改め、もういっそ違う種族の生き物か未知の生物と捉えるべきなのかも知れないと思い始めているレベルである。
それは正に私がそんなことを考えている矢先の出来事だった。
前回と同じく転移門で出迎えた私の両親に挨拶をしようとしたナナセが「へぷちっ」と正気を失いかけるほど可愛らしいくしゃみをしたかと思えば、顔を蒼白にして歯の根が合わないほどガチガチと震え出して挨拶どころではなくなってしまったのだ。
このとき私は知らなかったのだが、私たちの婚礼を見るために冬の妖精たちが集まり始めていて彼らの関心が一気にナナセに集中したために起こった現象だったらしい。
妖精族は気配を消すのが得意で滅多に人族の前に姿を現さないので私も全く気付けなかったのだ。
だがそんなこととは知る由もない私は兎に角これは尋常ではないと判断し、急ぎ城内へ担ぎ込み、暖炉の前へ連れて行くとナナセの身体は驚くほど冷えていた。
それからすぐに風呂の用意をさせ、冷えた身体を熱い湯で温めてグリューワインを飲ませる。
グリューワインは赤ワインにオレンジピール、シナモン、クローブといったハーブ類と砂糖や蜂蜜を加え、酒精を飛ばさないよう直火に掛けず蒸気で一気に熱したもので、ヴェイラ王国では子供の頃から慣れ親しんだ身体を温める冬の飲み物だ。
甘くて飲みやすいからナナセも気に入ったようで、飲み終わる頃には身体もある程度温まり漸く話せるまでに回復した。
「あー、吃驚した……ブルーメンタール領の冬がこんなに寒いとは思わなかったぜ」
0
異世界で聖者やってたら勇者に求婚されたんだが
第一章 聖者降臨
📖文庫版(紙の書籍)
📖Kindle(電子書籍)
📖BOOK☆WALKER(電子書籍)
次章続巻も順次刊行予定
OLOLON
※この作品の出版権は作者本人に帰属しています。詳しくはこちらを参照してください。
第一章 聖者降臨
📖文庫版(紙の書籍)
📖Kindle(電子書籍)
📖BOOK☆WALKER(電子書籍)
次章続巻も順次刊行予定
OLOLON
※この作品の出版権は作者本人に帰属しています。詳しくはこちらを参照してください。
お気に入りに追加
1,326
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)


怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

ある日、人気俳優の弟になりました。
雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。
「俺の命は、君のものだよ」
初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……?
平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…
月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた…
転生したと気づいてそう思った。
今世は周りの人も優しく友達もできた。
それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。
前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。
前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。
しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。
俺はこの幸せをなくならせたくない。
そう思っていた…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる