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番外編 聖者の取説
聖者の取説①
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⚠️結婚式前、辺境伯領での話です。
――良い。
寒い冬の日、赤々と燃える暖炉の前でソファーに腰掛けて膝の上に微睡むナナセを乗せて過ごす至福の時間。……良い。
異世界から来訪した聖者に一目惚れしたのが一年と半年ほど前。
初めは鮸膠も無く断られ、逃げられてしまったが、今ではこうして私の腕の中で三週間後に控えた結婚式を待っている。
ここに至るまでには数多の紆余曲折があったが、ナナセの提案で私の実家であるブルーメンタール辺境伯領ギュンター城で式を挙げる運びとなったため二人で早めに現地入りした次第だ。
私たちが普段寝起きしている隊舎のある王宮からこの城までは、以前この地を訪れた時と同様に今回も転移門を使用した。
ナナセが私の家族と会うのはこれで三度目だ。
一度目は王都から脱出したナナセを獣人領から連れ帰った直後で、二度目は花嫁が拉致されて敢え無く中止に終わった最初の結婚式の時である。
思い返せば私はナナセに逃げられたり奪われたりしてばかりだが、それはナナセに対する私の理解が足りなかったせいなのだ。
だがこれからは違う。私はもう二度とナナセは手放さない。
そのためにはナナセに対する理解を深める必要があるだろう。
ナナセの行動は常に私の予想の斜め上を行く。
私はナナセに対する認識を改め、もういっそ違う種族の生き物か未知の生物と捉えるべきなのかも知れないと思い始めているレベルである。
それは正に私がそんなことを考えている矢先の出来事だった。
前回と同じく転移門で出迎えた私の両親に挨拶をしようとしたナナセが「へぷちっ」と正気を失いかけるほど可愛らしいくしゃみをしたかと思えば、顔を蒼白にして歯の根が合わないほどガチガチと震え出して挨拶どころではなくなってしまったのだ。
このとき私は知らなかったのだが、私たちの婚礼を見るために冬の妖精たちが集まり始めていて彼らの関心が一気にナナセに集中したために起こった現象だったらしい。
妖精族は気配を消すのが得意で滅多に人族の前に姿を現さないので私も全く気付けなかったのだ。
だがそんなこととは知る由もない私は兎に角これは尋常ではないと判断し、急ぎ城内へ担ぎ込み、暖炉の前へ連れて行くとナナセの身体は驚くほど冷えていた。
それからすぐに風呂の用意をさせ、冷えた身体を熱い湯で温めてグリューワインを飲ませる。
グリューワインは赤ワインにオレンジピール、シナモン、クローブといったハーブ類と砂糖や蜂蜜を加え、酒精を飛ばさないよう直火に掛けず蒸気で一気に熱したもので、ヴェイラ王国では子供の頃から慣れ親しんだ身体を温める冬の飲み物だ。
甘くて飲みやすいからナナセも気に入ったようで、飲み終わる頃には身体もある程度温まり漸く話せるまでに回復した。
「あー、吃驚した……ブルーメンタール領の冬がこんなに寒いとは思わなかったぜ」
――良い。
寒い冬の日、赤々と燃える暖炉の前でソファーに腰掛けて膝の上に微睡むナナセを乗せて過ごす至福の時間。……良い。
異世界から来訪した聖者に一目惚れしたのが一年と半年ほど前。
初めは鮸膠も無く断られ、逃げられてしまったが、今ではこうして私の腕の中で三週間後に控えた結婚式を待っている。
ここに至るまでには数多の紆余曲折があったが、ナナセの提案で私の実家であるブルーメンタール辺境伯領ギュンター城で式を挙げる運びとなったため二人で早めに現地入りした次第だ。
私たちが普段寝起きしている隊舎のある王宮からこの城までは、以前この地を訪れた時と同様に今回も転移門を使用した。
ナナセが私の家族と会うのはこれで三度目だ。
一度目は王都から脱出したナナセを獣人領から連れ帰った直後で、二度目は花嫁が拉致されて敢え無く中止に終わった最初の結婚式の時である。
思い返せば私はナナセに逃げられたり奪われたりしてばかりだが、それはナナセに対する私の理解が足りなかったせいなのだ。
だがこれからは違う。私はもう二度とナナセは手放さない。
そのためにはナナセに対する理解を深める必要があるだろう。
ナナセの行動は常に私の予想の斜め上を行く。
私はナナセに対する認識を改め、もういっそ違う種族の生き物か未知の生物と捉えるべきなのかも知れないと思い始めているレベルである。
それは正に私がそんなことを考えている矢先の出来事だった。
前回と同じく転移門で出迎えた私の両親に挨拶をしようとしたナナセが「へぷちっ」と正気を失いかけるほど可愛らしいくしゃみをしたかと思えば、顔を蒼白にして歯の根が合わないほどガチガチと震え出して挨拶どころではなくなってしまったのだ。
このとき私は知らなかったのだが、私たちの婚礼を見るために冬の妖精たちが集まり始めていて彼らの関心が一気にナナセに集中したために起こった現象だったらしい。
妖精族は気配を消すのが得意で滅多に人族の前に姿を現さないので私も全く気付けなかったのだ。
だがそんなこととは知る由もない私は兎に角これは尋常ではないと判断し、急ぎ城内へ担ぎ込み、暖炉の前へ連れて行くとナナセの身体は驚くほど冷えていた。
それからすぐに風呂の用意をさせ、冷えた身体を熱い湯で温めてグリューワインを飲ませる。
グリューワインは赤ワインにオレンジピール、シナモン、クローブといったハーブ類と砂糖や蜂蜜を加え、酒精を飛ばさないよう直火に掛けず蒸気で一気に熱したもので、ヴェイラ王国では子供の頃から慣れ親しんだ身体を温める冬の飲み物だ。
甘くて飲みやすいからナナセも気に入ったようで、飲み終わる頃には身体もある程度温まり漸く話せるまでに回復した。
「あー、吃驚した……ブルーメンタール領の冬がこんなに寒いとは思わなかったぜ」
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異世界で聖者やってたら勇者に求婚されたんだが
第一章 聖者降臨
📖文庫版(紙の書籍)
📖Kindle(電子書籍)
📖BOOK☆WALKER(電子書籍)
次章続巻も順次刊行予定
OLOLON
※この作品の出版権は作者本人に帰属しています。詳しくはこちらを参照してください。
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