異世界で聖者やってたら勇者に求婚されたんだが

マハラメリノ

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最終章 砂漠の薔薇

〇二六 生きること、死ぬこと、愛すること①

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ヴェルスパ王宮博物館は閉館時間間際にも拘わらず未だ来館者が大勢残っていた。
特にヴェイラ朝時代のレガリアの王冠は大人気で開館中は常に人垣が絶えないのだ。
今も修学旅行中らしい学生の団体が陣取っている。
王冠を近くで見るにはその学生の団体が帰るのを待つしかないだろう。
でもちょっとしたデートだと思えば待つのもそんなに苦ではない。
暇を持て余したエリアスは繋いだ手を自分の口元へ持って行って唇を押し当てたり、俺の指を一本一本触ったりしていて案外楽しそうだ。

「こちらがヴェイラ朝時代のレガリアの王冠になります。この王冠の装飾に使われている『聖者のメダイユ』は、このヴェイラ星が且つて王政を布いていた時代、聖者ナナセ様がヴェイラ朝最後の国王ルートヴィヒ陛下に贈ったもので、現存するオリハルコンの中では最古であることが分かっています。しかしながらこのオリハルコンは一万年前から現在に至るまで絶えることなく魔力を保有し続けていて、この技術は現代魔法を以てしても解明出来ていません」

そりゃあ、俺がこうして一万年間定期的に取り換えに来てるからだよ。
交換用の真鍮製の「聖者のメダイユ」はこの博物館の土産品売り場で買えるしな。

「こちらの魔導書『黎明と黄昏』の写本は、聖者ナナセ様が編纂した唯一の魔導書で……」

学生の団体がやっと次の展示に行ってくれたのでエリアスの手を引いて王冠の展示に近付くと、背後から声を掛けられる。

「兄ちゃん何か落ちたよ」

振り向くと学生らしき少年が床から何かを拾って俺に差し出すところだった。
さっきの学生の団体と同じ制服を着ている。

「兄ちゃんて俺のこと?」
「そうだよ。他に誰がいるっていうんだよ」

俺の見た目は十八歳・・・の頃と変わらなくても、兄ちゃんなんて呼ばれるのは烏滸がましい歳なんだがな。
もう歳を数えるのを止めて久しいから正確な年齢は俺にもよく分からん。
エリアスは今でも律義に数えてるから、知りたいときは訊けばわかるしそれで問題なかった。

「はいこれ、落としたよ」

少年に差し出されたのは「聖者のメダイユ」で、俺はそれをしまっておいたはずのポケットに慌てて手を突っ込んでゴソゴソと漁ってみたがどこにもない。
どうやら俺が落としたもので間違いないようだ。

代わりに俺の懐の中で寝ていたちぃたんが飛び起きて俺の腕を伝って肩まで駆け上り、そこで伸びをしながら欠伸した。
ちぃたんは俺が餓鬼の頃に契約したチタン合金の精霊で、白くてふわふわした狐と兎の中間のような姿をしている。
顔や手足やお腹に朱色の隈取みたいな模様が入ってるのが神獣ぽくて格好良い。
アルビオンの精霊なのでこの世界ではほとんど何もできなくてペットみたいなもんだ。
エリアスはちぃたんのことを「毛玉」と呼んで毛嫌いしているが、ちぃたんはエリアスのことを完全スルーしている。
ちぃたんがいると子供っぽいエリアスが見られるのでお得な気分だ。

「やべ、マジか。マジだ。ありがとな」

礼を言って受け取ると、俺はそれを持って王冠の展示台に近付いた。
この時代のセキュリティシステムにガラスケースなど必要ないので、王冠は手が触れられる位置に置いてある。

「それ、俺も持ってるよ。『聖者のメダイユ』のレプリカ。お土産品売り場で買ったんだ。それ、真鍮の方でしょ? ゴールドやシルバーのも売ってるけど、真鍮の方が色が本物に似てるから俺もそれにしたんだ」
「そっかそっか」
「メダイユといいその髪の色といい、兄ちゃんよっぽど聖者様が好きなんだね」

俺は外見的には以前と特に変わりなく今も前下がりボブだが、髪色は左右で違っていて半分だけ黒くて半分だけ真っ白だ。
俺がこの姿になって久しいので、聖者の姿といえば左右で違う白黒の髪ってくらい象徴的なアイコンになっている。

尚も人懐こく話し掛けてくる少年を軽くあしらいながら俺は王冠に手を掛けた。
エリアスが意識を逸らす魔法を展開しているので、魔導書の写本の前に固まっている学生の団体がこちらに気付くことはない。
でも時々その魔法に掛かってくれないこういう奴がいるんだ。

「触っちゃだめだよ! 警報が鳴るよ!」
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