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最終章 砂漠の薔薇
〇二四 涎が垂れているぞ①
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俺たちの結婚式はその年の最後の日――エリアスの誕生日に、雪と氷に閉ざされたブルーメンタール辺境伯領のギュンター城にて親族だけで執り行われた。
勿論、俺の両親も数日前からこの城に滞在している。
花咲く谷の名の示す通り、この地は真冬でも花が咲く。
雪の結晶を幾つも重ねたような八重咲の花を髪に挿した刹那、「美しい花瓶」という言葉が頭を過ったが、もう頭痛に苛まれることはない。
辺境伯領の更に北に位置するエルフ領の技術で織られたというオーロラみたいな光沢を放つ婚礼衣装を身に纏い、揃いで誂えた婚礼衣装の胸に俺の頭から一輪抜き取った花を挿したエリアスに差し出された手を取り、俺たちは親族だけに見守られ祝福を受けながら結婚式を挙げた。
前の婚礼衣装も気に入っていたけど、今度のもとても素晴らしい出来だった。
オーロラみたいな光沢を放つ雪と氷をそのまま織り込んだような不思議な色合いの白い生地で作られた婚礼衣装は、無色透明の宝石がいっぱい縫い付けてあって祭服に近いデザインだが、グローブまで一体化されていて縫製跡が全く見えない。
揃いで誂えたエリアスの婚礼衣装は後ろが燕尾になっているフロックで、その艶姿に俺は最早溜息しか出なかった。
色気が駄々洩れだったから艶姿で合ってる。間違いない。
「こんな美しい人と伴侶になれるなんて私は世界一の幸せ者だ」
それ今、俺が言おうと思ってたことなのに先に言うなよ。
「エリーってもしかして俺の心が読めるの?」
「読みたいとは常々思っている」
本当に心が読めたら、俺が今どれだけ幸せかエリアスにも伝わるのに。
俺の左手にあった虹色の酸化皮膜加工と魔法抵抗付きのチタン合金製の婚約指輪は右手の薬指へ移動し、左手の薬指には新たにエリアスとお揃いの結婚指輪が輝いている。
婚約指輪や結婚指輪を薬指に填めるのは、諸説あるが指の間から幸せが零れ落ちないようにするためだ。
これでもう両手で掬った幸せが指の間から零れ落ちることはないだろう。
この指輪は抜け落ちた勇者の角を愛の化身ルヴァが鍛えた逸品だ。
以前この指輪がやっと俺の手に入ると喜んでいたのだが、今は指輪よりもエリアスだけいればいいと思う。
こちらの結婚式は披露宴も兼ねているので、北の宇宙ウルソナから戻って以来エリアスに甘やかされ捲っていた俺は羽目を外してエリアスと即興で創作ダンスを踊ったり、この地方の伝統的な手長海老料理をエリアスに食べさせて貰って思いっきり楽しんだ。
その正餐の席で、俺が呪詛でウルソナへ拉致されたとき、呆然としているエリアスを俺の親父が殴ったという話を当のエリアスから聞かされて俺は青くなったり赤くなったりした。
エリアスの美しいご尊顔に何かあったらどうしてくれるんだよクソ親父!
俺たち平たい顔族とは違うんだぞ!
人類の損失だぞ!
「どこを殴られたんだ?」
俺がそう訊くと、エリアスは「ここだ」と自分の口の横あたりをトントンと指で突っついた。
そんなところを殴られたら歯で口の中を切ったかも知れない。
食べたり飲んだりするたびに痛んだだろう。可哀想に。
俺がいればすぐに治してあげられたんだが、そもそも俺が拉致られたから殴られたのだ。
「痛かったか?」
殴られた場所に俺が指先でそっと触れると、エリアスは「痛かった」と素直に肯定した。
「実はまだ痛い」
「えっ!?」
もう三箇月以上経ってるぞ!?
勿論その間、エリアスも俺の治癒に付き添っていたから普通の怪我なら治っているはずだ。
それがまだ痛むって呪いかなんかじゃないか!?
俺が驚いて目を丸くして言葉を失っていると、エリアスが悲壮な表情で長い睫毛を伏せる。
「ナナセがキスして、ちちんぷいぷいしてくれたら治るかも知れない」
あー、はいはい。
なんだ、そういうことか。
驚かすなよ。心配したじゃないか。
だが俺はエリアスにそれ以上の心配を掛けたのだ。
今日は結婚式だし、これくらいエリアスに許された正当な権利だよな。
今イチャつかなくて何時イチャつくんだって話だ。
俺がエリアスの椅子の肘掛けに手を付いて身を乗り出すと、エリアスが俺の方へ頬を突き出してくる。
「ちちんぷいぷい、ちちんぷいぷい。痛いの痛いの飛んでけ」
俺がお呪いの呪文を唱えながらエリアスの口の端に口付けると、親父が「お前らもう結婚しろ! いや、さっきしてたな!」と叫んでいたのが面白かった。
勿論、俺の両親も数日前からこの城に滞在している。
花咲く谷の名の示す通り、この地は真冬でも花が咲く。
雪の結晶を幾つも重ねたような八重咲の花を髪に挿した刹那、「美しい花瓶」という言葉が頭を過ったが、もう頭痛に苛まれることはない。
辺境伯領の更に北に位置するエルフ領の技術で織られたというオーロラみたいな光沢を放つ婚礼衣装を身に纏い、揃いで誂えた婚礼衣装の胸に俺の頭から一輪抜き取った花を挿したエリアスに差し出された手を取り、俺たちは親族だけに見守られ祝福を受けながら結婚式を挙げた。
前の婚礼衣装も気に入っていたけど、今度のもとても素晴らしい出来だった。
オーロラみたいな光沢を放つ雪と氷をそのまま織り込んだような不思議な色合いの白い生地で作られた婚礼衣装は、無色透明の宝石がいっぱい縫い付けてあって祭服に近いデザインだが、グローブまで一体化されていて縫製跡が全く見えない。
揃いで誂えたエリアスの婚礼衣装は後ろが燕尾になっているフロックで、その艶姿に俺は最早溜息しか出なかった。
色気が駄々洩れだったから艶姿で合ってる。間違いない。
「こんな美しい人と伴侶になれるなんて私は世界一の幸せ者だ」
それ今、俺が言おうと思ってたことなのに先に言うなよ。
「エリーってもしかして俺の心が読めるの?」
「読みたいとは常々思っている」
本当に心が読めたら、俺が今どれだけ幸せかエリアスにも伝わるのに。
俺の左手にあった虹色の酸化皮膜加工と魔法抵抗付きのチタン合金製の婚約指輪は右手の薬指へ移動し、左手の薬指には新たにエリアスとお揃いの結婚指輪が輝いている。
婚約指輪や結婚指輪を薬指に填めるのは、諸説あるが指の間から幸せが零れ落ちないようにするためだ。
これでもう両手で掬った幸せが指の間から零れ落ちることはないだろう。
この指輪は抜け落ちた勇者の角を愛の化身ルヴァが鍛えた逸品だ。
以前この指輪がやっと俺の手に入ると喜んでいたのだが、今は指輪よりもエリアスだけいればいいと思う。
こちらの結婚式は披露宴も兼ねているので、北の宇宙ウルソナから戻って以来エリアスに甘やかされ捲っていた俺は羽目を外してエリアスと即興で創作ダンスを踊ったり、この地方の伝統的な手長海老料理をエリアスに食べさせて貰って思いっきり楽しんだ。
その正餐の席で、俺が呪詛でウルソナへ拉致されたとき、呆然としているエリアスを俺の親父が殴ったという話を当のエリアスから聞かされて俺は青くなったり赤くなったりした。
エリアスの美しいご尊顔に何かあったらどうしてくれるんだよクソ親父!
俺たち平たい顔族とは違うんだぞ!
人類の損失だぞ!
「どこを殴られたんだ?」
俺がそう訊くと、エリアスは「ここだ」と自分の口の横あたりをトントンと指で突っついた。
そんなところを殴られたら歯で口の中を切ったかも知れない。
食べたり飲んだりするたびに痛んだだろう。可哀想に。
俺がいればすぐに治してあげられたんだが、そもそも俺が拉致られたから殴られたのだ。
「痛かったか?」
殴られた場所に俺が指先でそっと触れると、エリアスは「痛かった」と素直に肯定した。
「実はまだ痛い」
「えっ!?」
もう三箇月以上経ってるぞ!?
勿論その間、エリアスも俺の治癒に付き添っていたから普通の怪我なら治っているはずだ。
それがまだ痛むって呪いかなんかじゃないか!?
俺が驚いて目を丸くして言葉を失っていると、エリアスが悲壮な表情で長い睫毛を伏せる。
「ナナセがキスして、ちちんぷいぷいしてくれたら治るかも知れない」
あー、はいはい。
なんだ、そういうことか。
驚かすなよ。心配したじゃないか。
だが俺はエリアスにそれ以上の心配を掛けたのだ。
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