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最終章 砂漠の薔薇
〇二三 オカズ奪還②
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「あ? なんでもねーよっ!」
「隠すということは、やはり恋文だな……浮気か?」
「は!? 違うって!」
ただの新聞の切り抜きだけど、俺の夜のオカズっていうセンシティブな内容が含まれている可能性があるからエリアスには表示できないだけなんだよ。
だがしかし、妙な圧を掛けつつにじり寄ってくるエリアスから距離を取ろうとじりじりと後退りした俺はあっという間に壁際に追い詰められ、後ろ手に隠し持っていた姿絵を奪われてしまった。
「あっ……! くそっ! 返せ!」
「これは……私の姿絵? 新聞の切り抜きか?」
「そうだよっ! 分かったらもういいだろ! 返せよっ!」
他人のオカズを奪うとか勇者にあるまじき行為だぞ!
姿絵を眺めたままエリアスは意外そうに瞠目していたが、やがて徐々に険しい表情になる。
「実物がここにいるのに姿絵に浮気か?」
「それ浮気って呼ぶのかよ!?」
「紛うことなく浮気だ!」
「返せよっ! ウルソナでひとりぼっちで絶望しかけていた時、それだけが俺の心の支えだったんだからなっ!」
そう叫んだ刹那、エリアスに一瞬の隙が生まれ俺は見事姿絵をひったくって取り返すことに成功した。
オカズ奪還!
「心の支え……?」
「そうだよ。聖者を捜してる勇者が俺のことも助けに来てくれないかなって妄想してたんだ。そしたら本当に勇者が俺を助けに来てくれた。だからこれは俺にとって物凄く大事な物なんだよ」
エリアスは急に神妙な顔つきになる。
「そうか……もしやそれがナナセに自死を思い止まらせていたのか?」
エリアスのその言葉に俺は心臓が止まるかと思った。
俺が死のうとしていたことをどうしてエリアスが知ってるんだよ。
気まずさに俯いているとエリアスは続ける。
「事後処理を任せた部下から連絡があった。再会したとき手から滑り落ちて割れた香油壜の中身は桃や杏子の種子から集めた仁で、つまり毒だったと。いや、ナナセを責めているのではない。寧ろ、よくぞ思い止まってくれたと礼を言いたい」
意外な言葉に顔を上げるとエリアスは困ったように微笑んでいた。
「本来であれば私が護るべき所を力及ばず勾引かされた挙句、ナナセに死を選択させるほど追い詰めさせてしまった……だが、生きていてくれてありがとう、ナナセ」
それでもう駄目だった。
そんな風に優しくされたら、泣く。
俺はエリアスにしがみついて泣いた。
泣きながら俺は、解呪以降初めて「怖かった」って口にした。
知らなかった奴隷の現実を初めて目にして憤ったことも。
自分がどれだけ非力な存在なのか思い知らされたことも。
死を考えていたときのことはずっと黙っていようと思ってたのに、死のうなんて考えてごめんなさいってエリアスに謝った。
嗚咽交じりでほとんど聞き取れなかったんじゃないかと思うけど、エリアスは俺が全部吐き出して泣き止むまでずっと抱き締めて背中を撫でていてくれた。
俺が漸く落ち着いてきて泣き止んだ頃、エリアスは虹色の婚約指輪を再び俺の左手に薬指に着けて、そこにまるで祈りを込めるみたいに口付けをくれる。
「ナナセは非常事態の時、恐怖心を抑えて頑張るだろう。それでいつも感情が追い付いてくるのが遅いんだ」
そうか。そうなのか。
自分ではよく分からない。
でもエリアスが言うならそうなのだろう。
エリアス無双は見られなかったけど、俺はしっかり惚れ直したぜ。
だがそこで不図、大切なことをエリアスに話していなかったことに気付く。
「そうだ俺、この世界で友達が出来たんだ。今度エリーにも紹介するよ」
政権交代したばかりのウルソナに賓客としてもてなさなければならない勇者と聖者を受け入れる余裕は今はまだないだろう。
けど、落ち着いたら会いに行きたい。
ナズーリンたちに勇者エリアスを紹介したらどんな反応をするかな。
「ああ、楽しみにしている」
淡褐色と淡緑色の混ざり合う榛色の瞳が優しく細められる。
俺はもう一度抱き着いてエリアスの匂いを吸い込んだ。
この匂い、最高に落ち着く。
もう自ら死のうなんて考えない。
だって、俺の死はエリアスの聖剣「熄」によってのみ齎されるものなのだから。
――こうして俺のオカズは無事に俺の手に戻ったのだった。
だけどエリアスがいるとセックスしちゃうからシコる暇がないんだよな。
「隠すということは、やはり恋文だな……浮気か?」
「は!? 違うって!」
ただの新聞の切り抜きだけど、俺の夜のオカズっていうセンシティブな内容が含まれている可能性があるからエリアスには表示できないだけなんだよ。
だがしかし、妙な圧を掛けつつにじり寄ってくるエリアスから距離を取ろうとじりじりと後退りした俺はあっという間に壁際に追い詰められ、後ろ手に隠し持っていた姿絵を奪われてしまった。
「あっ……! くそっ! 返せ!」
「これは……私の姿絵? 新聞の切り抜きか?」
「そうだよっ! 分かったらもういいだろ! 返せよっ!」
他人のオカズを奪うとか勇者にあるまじき行為だぞ!
姿絵を眺めたままエリアスは意外そうに瞠目していたが、やがて徐々に険しい表情になる。
「実物がここにいるのに姿絵に浮気か?」
「それ浮気って呼ぶのかよ!?」
「紛うことなく浮気だ!」
「返せよっ! ウルソナでひとりぼっちで絶望しかけていた時、それだけが俺の心の支えだったんだからなっ!」
そう叫んだ刹那、エリアスに一瞬の隙が生まれ俺は見事姿絵をひったくって取り返すことに成功した。
オカズ奪還!
「心の支え……?」
「そうだよ。聖者を捜してる勇者が俺のことも助けに来てくれないかなって妄想してたんだ。そしたら本当に勇者が俺を助けに来てくれた。だからこれは俺にとって物凄く大事な物なんだよ」
エリアスは急に神妙な顔つきになる。
「そうか……もしやそれがナナセに自死を思い止まらせていたのか?」
エリアスのその言葉に俺は心臓が止まるかと思った。
俺が死のうとしていたことをどうしてエリアスが知ってるんだよ。
気まずさに俯いているとエリアスは続ける。
「事後処理を任せた部下から連絡があった。再会したとき手から滑り落ちて割れた香油壜の中身は桃や杏子の種子から集めた仁で、つまり毒だったと。いや、ナナセを責めているのではない。寧ろ、よくぞ思い止まってくれたと礼を言いたい」
意外な言葉に顔を上げるとエリアスは困ったように微笑んでいた。
「本来であれば私が護るべき所を力及ばず勾引かされた挙句、ナナセに死を選択させるほど追い詰めさせてしまった……だが、生きていてくれてありがとう、ナナセ」
それでもう駄目だった。
そんな風に優しくされたら、泣く。
俺はエリアスにしがみついて泣いた。
泣きながら俺は、解呪以降初めて「怖かった」って口にした。
知らなかった奴隷の現実を初めて目にして憤ったことも。
自分がどれだけ非力な存在なのか思い知らされたことも。
死を考えていたときのことはずっと黙っていようと思ってたのに、死のうなんて考えてごめんなさいってエリアスに謝った。
嗚咽交じりでほとんど聞き取れなかったんじゃないかと思うけど、エリアスは俺が全部吐き出して泣き止むまでずっと抱き締めて背中を撫でていてくれた。
俺が漸く落ち着いてきて泣き止んだ頃、エリアスは虹色の婚約指輪を再び俺の左手に薬指に着けて、そこにまるで祈りを込めるみたいに口付けをくれる。
「ナナセは非常事態の時、恐怖心を抑えて頑張るだろう。それでいつも感情が追い付いてくるのが遅いんだ」
そうか。そうなのか。
自分ではよく分からない。
でもエリアスが言うならそうなのだろう。
エリアス無双は見られなかったけど、俺はしっかり惚れ直したぜ。
だがそこで不図、大切なことをエリアスに話していなかったことに気付く。
「そうだ俺、この世界で友達が出来たんだ。今度エリーにも紹介するよ」
政権交代したばかりのウルソナに賓客としてもてなさなければならない勇者と聖者を受け入れる余裕は今はまだないだろう。
けど、落ち着いたら会いに行きたい。
ナズーリンたちに勇者エリアスを紹介したらどんな反応をするかな。
「ああ、楽しみにしている」
淡褐色と淡緑色の混ざり合う榛色の瞳が優しく細められる。
俺はもう一度抱き着いてエリアスの匂いを吸い込んだ。
この匂い、最高に落ち着く。
もう自ら死のうなんて考えない。
だって、俺の死はエリアスの聖剣「熄」によってのみ齎されるものなのだから。
――こうして俺のオカズは無事に俺の手に戻ったのだった。
だけどエリアスがいるとセックスしちゃうからシコる暇がないんだよな。
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異世界で聖者やってたら勇者に求婚されたんだが
第一章 聖者降臨
📖文庫版(紙の書籍)
📖Kindle(電子書籍)
📖BOOK☆WALKER(電子書籍)
次章続巻も順次刊行予定
OLOLON
※この作品の出版権は作者本人に帰属しています。詳しくはこちらを参照してください。
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