異世界で聖者やってたら勇者に求婚されたんだが

マハラメリノ

文字の大きさ
上 下
239 / 266
最終章 砂漠の薔薇

〇二三 オカズ奪還②

しおりを挟む
「あ? なんでもねーよっ!」
「隠すということは、やはり恋文だな……浮気か?」
「は!? 違うって!」

ただの新聞の切り抜きだけど、俺の夜のオカズっていうセンシティブな内容が含まれている可能性があるからエリアスには表示できないだけなんだよ。
だがしかし、妙な圧を掛けつつにじり寄ってくるエリアスから距離を取ろうとじりじりと後退りした俺はあっという間に壁際に追い詰められ、後ろ手に隠し持っていた姿絵を奪われてしまった。

「あっ……! くそっ! 返せ!」
「これは……私の姿絵? 新聞の切り抜きか?」
「そうだよっ! 分かったらもういいだろ! 返せよっ!」

他人のオカズを奪うとか勇者にあるまじき行為だぞ!
姿絵を眺めたままエリアスは意外そうに瞠目していたが、やがて徐々に険しい表情になる。

「実物がここにいるのに姿絵に浮気か?」
「それ浮気って呼ぶのかよ!?」
「紛うことなく浮気だ!」
「返せよっ! ウルソナでひとりぼっちで絶望しかけていた時、それだけが俺の心の支えだったんだからなっ!」

そう叫んだ刹那、エリアスに一瞬の隙が生まれ俺は見事姿絵をひったくって取り返すことに成功した。
オカズ奪還!

「心の支え……?」
「そうだよ。聖者を捜してる勇者が俺のことも助けに来てくれないかなって妄想してたんだ。そしたら本当に勇者が俺を助けに来てくれた。だからこれは俺にとって物凄く大事な物なんだよ」

エリアスは急に神妙な顔つきになる。

「そうか……もしやそれがナナセに自死を思い止まらせていたのか?」

エリアスのその言葉に俺は心臓が止まるかと思った。
俺が死のうとしていたことをどうしてエリアスが知ってるんだよ。
気まずさに俯いているとエリアスは続ける。

「事後処理を任せた部下から連絡があった。再会したとき手から滑り落ちて割れた香油壜の中身は桃や杏子の種子から集めた仁で、つまり毒だったと。いや、ナナセを責めているのではない。寧ろ、よくぞ思い止まってくれたと礼を言いたい」

意外な言葉に顔を上げるとエリアスは困ったように微笑んでいた。

「本来であれば私が護るべき所を力及ばず勾引かされた挙句、ナナセに死を選択させるほど追い詰めさせてしまった……だが、生きていてくれてありがとう、ナナセ」

それでもう駄目だった。
そんな風に優しくされたら、泣く。

俺はエリアスにしがみついて泣いた。
泣きながら俺は、解呪以降初めて「怖かった」って口にした。
知らなかった奴隷の現実を初めて目にして憤ったことも。
自分がどれだけ非力な存在なのか思い知らされたことも。
死を考えていたときのことはずっと黙っていようと思ってたのに、死のうなんて考えてごめんなさいってエリアスに謝った。

嗚咽交じりでほとんど聞き取れなかったんじゃないかと思うけど、エリアスは俺が全部吐き出して泣き止むまでずっと抱き締めて背中を撫でていてくれた。

俺が漸く落ち着いてきて泣き止んだ頃、エリアスは虹色の婚約指輪を再び俺の左手に薬指に着けて、そこにまるで祈りを込めるみたいに口付けをくれる。

「ナナセは非常事態の時、恐怖心を抑えて頑張るだろう。それでいつも感情が追い付いてくるのが遅いんだ」

そうか。そうなのか。
自分ではよく分からない。
でもエリアスが言うならそうなのだろう。

エリアス無双は見られなかったけど、俺はしっかり惚れ直したぜ。
だがそこで不図、大切なことをエリアスに話していなかったことに気付く。

「そうだ俺、この世界で友達が出来たんだ。今度エリーにも紹介するよ」

政権交代したばかりのウルソナに賓客としてもてなさなければならない勇者と聖者を受け入れる余裕は今はまだないだろう。
けど、落ち着いたら会いに行きたい。
ナズーリンたちに勇者エリアスを紹介したらどんな反応をするかな。

「ああ、楽しみにしている」

淡褐色と淡緑色の混ざり合う榛色ヘイゼルの瞳が優しく細められる。
俺はもう一度抱き着いてエリアスの匂いを吸い込んだ。
この匂い、最高に落ち着く。
もう自ら死のうなんて考えない。
だって、俺の死はエリアスの聖剣「うずみび」によってのみ齎されるものなのだから。

――こうして俺のオカズは無事に俺の手に戻ったのだった。
だけどエリアスがいるとセックスしちゃうからシコる暇がないんだよな。
しおりを挟む
異世界で聖者やってたら勇者に求婚されたんだが
第一章 聖者降臨


📖文庫版(紙の書籍)
📖Kindle(電子書籍)
📖BOOK☆WALKER(電子書籍)

次章続巻も順次刊行予定
OLOLON

※この作品の出版権は作者本人に帰属しています。詳しくはこちらを参照してください。
感想 21

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ある日、人気俳優の弟になりました。

雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。 「俺の命は、君のものだよ」 初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……? 平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

処理中です...