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最終章 砂漠の薔薇
〇二三 オカズ奪還①
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北の宇宙ウルソナからの荷物が届いたのは俺の記憶が戻って間もなくのことだった。
ウルソナで政権交代があったことをエリアスから聞いたばかりだったので、多分これはその直後に物流が滞っていないのを見計らってから送ってくれたものだろう。
差出人の名前はナズーリンだ。
俺を股の間に座らせて後ろから抱き込むようにしてソファーに掛けているエリアスの様子を窺うと、俺の髪を櫛で梳かすのに忙しそうで、荷物の方には余り興味を示していない。
以前はハーフアップにしていたから、エリアスの選んでくれた髪飾りを着けていたけど、ボブカットになってからはそれらを着けなくなった。
エリアスは俺を着飾らせたり飾り付けたりするのが好きだから、がっかりするかと思いきや、新しい楽しみ方を見付けたようでそれがこれだ。
梳かしながら時折髪に口付けたりしているのでエリアスの言う「姫君扱い」に近付いたのかもしれないが、折角、俺の髪のメンテをする専用メイドを付けてくれたのにエリアスがこれではあんまり意味がなかったと思う。
兎に角、エリアスの注意は逸れている。
開けるなら今だろう。
逸る気持ちを抑えつつ、小脇に抱えられる程のサイズの蒲鉾型の蓋の付いた海賊の宝箱みたいな形の小箱を早速開けてみる。
中には手紙と思しき巻物と砂漠の薔薇と、それから俺の二十歳の誕生日にエリアスから贈られたあの虹色の婚約指輪が丁寧に梱包されて入っていた。
指輪、見つけ出して取り返してくれたんだな。
足が付くから売れないと言っていた指輪が俺の元に戻って来たということは、あの奴隷商たちは捕らえられたのだろう。
なんだか指が寂しいからすぐにも自分で着けたいが、これはエリアスが俺の髪を梳かすのに飽きたら着けて貰おう。
砂漠の薔薇はあの娼館の名前にもなっていたが、砂漠の砂が結晶化して丁度薔薇のような形になったものだ。
日本のパワーストーンショップで数百円で手に入る砂色の小さなものは見たことがあったが、異世界の砂漠の薔薇は両手で持つサイズで水晶のように透き通っていてほんのりと薔薇色だった。
ちょっとアナルローズを思い出してしまって手に取るのを一瞬躊躇ってしまったけど、ナズーリンは俺が異世界へ来て初めてセックスを抜きにして出来た友達かも知れないことに気付く。
あそこにいたのはほんの僅かな間だったけど、本気で死ぬことを考えたり、久々に和食を食ったり、文字の読めない男娼たちに新聞を読み聞かせたり、俺はなんて非現実的な刻を過ごしていたんだろう。
あの砂漠でのどこか夢のような日々を思うと懐かしさが溢れる。
ノスタルジックな気分に浸りながら巻物の封蝋を割って開いてみれば、手紙と一緒に例の新聞の切り抜きが巻かれていた。
エリアスの姿絵!
ちゃんと姿見の裏から見付けてくれたんだな!
ありがとう、ナズーリン!
マジで感謝しかない!
手紙には俺が聖者で驚いたけど何か普通と違っていたから大いに納得したということと、俺たちの結婚へのお祝いの言葉と、それからナズーリンたちはギャレットの計らいで何と現在王宮で侍従として働くため修行中なのだと書いてあった。
ギャレットは俺が聖者だと知っていて任せる程度にナズーリンたちのことを信頼しているようだったし、政権交代下の王宮は何かと荒れるだろうから信用の置ける者で固めたいのだろう。
文面は誰かに代筆して貰ったようだが、最後に記された名前だけはナズーリン、スーリ、ショシャンナの三人分あり、どれもたどたどしい文字なので各自が書いたようだ。
俺はその文字一つ一つを大切に指でなぞりながら、込み上げてくる感情に涙を堪えていると不意に耳元で甘ったるい声がする。
「目当てのものは見付けて貰えたか?」
「!?」
急に声を掛けられて俺はリアルに一メートルくらい飛び上がり、そのまま飛び退りながら慌てて姿絵を後ろ手に隠した。
「新王が即位したばかりで今は国が大変なときだから送るの遅くなってごめんって。あと結婚のお祝いを貰ったよ。それからウルソナで奴隷商に盗られちゃった婚約指輪も見付けてくれたんだ!」
俺はその場をなんとか誤魔化そうとテーブルの上の箱を指さしたが、エリアスはすっと目を細めただけで俺から視線を外そうとしない。
「ナナセ? 今何を隠した?」
ウルソナで政権交代があったことをエリアスから聞いたばかりだったので、多分これはその直後に物流が滞っていないのを見計らってから送ってくれたものだろう。
差出人の名前はナズーリンだ。
俺を股の間に座らせて後ろから抱き込むようにしてソファーに掛けているエリアスの様子を窺うと、俺の髪を櫛で梳かすのに忙しそうで、荷物の方には余り興味を示していない。
以前はハーフアップにしていたから、エリアスの選んでくれた髪飾りを着けていたけど、ボブカットになってからはそれらを着けなくなった。
エリアスは俺を着飾らせたり飾り付けたりするのが好きだから、がっかりするかと思いきや、新しい楽しみ方を見付けたようでそれがこれだ。
梳かしながら時折髪に口付けたりしているのでエリアスの言う「姫君扱い」に近付いたのかもしれないが、折角、俺の髪のメンテをする専用メイドを付けてくれたのにエリアスがこれではあんまり意味がなかったと思う。
兎に角、エリアスの注意は逸れている。
開けるなら今だろう。
逸る気持ちを抑えつつ、小脇に抱えられる程のサイズの蒲鉾型の蓋の付いた海賊の宝箱みたいな形の小箱を早速開けてみる。
中には手紙と思しき巻物と砂漠の薔薇と、それから俺の二十歳の誕生日にエリアスから贈られたあの虹色の婚約指輪が丁寧に梱包されて入っていた。
指輪、見つけ出して取り返してくれたんだな。
足が付くから売れないと言っていた指輪が俺の元に戻って来たということは、あの奴隷商たちは捕らえられたのだろう。
なんだか指が寂しいからすぐにも自分で着けたいが、これはエリアスが俺の髪を梳かすのに飽きたら着けて貰おう。
砂漠の薔薇はあの娼館の名前にもなっていたが、砂漠の砂が結晶化して丁度薔薇のような形になったものだ。
日本のパワーストーンショップで数百円で手に入る砂色の小さなものは見たことがあったが、異世界の砂漠の薔薇は両手で持つサイズで水晶のように透き通っていてほんのりと薔薇色だった。
ちょっとアナルローズを思い出してしまって手に取るのを一瞬躊躇ってしまったけど、ナズーリンは俺が異世界へ来て初めてセックスを抜きにして出来た友達かも知れないことに気付く。
あそこにいたのはほんの僅かな間だったけど、本気で死ぬことを考えたり、久々に和食を食ったり、文字の読めない男娼たちに新聞を読み聞かせたり、俺はなんて非現実的な刻を過ごしていたんだろう。
あの砂漠でのどこか夢のような日々を思うと懐かしさが溢れる。
ノスタルジックな気分に浸りながら巻物の封蝋を割って開いてみれば、手紙と一緒に例の新聞の切り抜きが巻かれていた。
エリアスの姿絵!
ちゃんと姿見の裏から見付けてくれたんだな!
ありがとう、ナズーリン!
マジで感謝しかない!
手紙には俺が聖者で驚いたけど何か普通と違っていたから大いに納得したということと、俺たちの結婚へのお祝いの言葉と、それからナズーリンたちはギャレットの計らいで何と現在王宮で侍従として働くため修行中なのだと書いてあった。
ギャレットは俺が聖者だと知っていて任せる程度にナズーリンたちのことを信頼しているようだったし、政権交代下の王宮は何かと荒れるだろうから信用の置ける者で固めたいのだろう。
文面は誰かに代筆して貰ったようだが、最後に記された名前だけはナズーリン、スーリ、ショシャンナの三人分あり、どれもたどたどしい文字なので各自が書いたようだ。
俺はその文字一つ一つを大切に指でなぞりながら、込み上げてくる感情に涙を堪えていると不意に耳元で甘ったるい声がする。
「目当てのものは見付けて貰えたか?」
「!?」
急に声を掛けられて俺はリアルに一メートルくらい飛び上がり、そのまま飛び退りながら慌てて姿絵を後ろ手に隠した。
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「ナナセ? 今何を隠した?」
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📖BOOK☆WALKER(電子書籍)
次章続巻も順次刊行予定
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※この作品の出版権は作者本人に帰属しています。詳しくはこちらを参照してください。
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