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最終章 砂漠の薔薇
〇二二 「至極光栄」① ※エリアス視点
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マキシミリアン殿下は以前より厳重な修道院へ移され、王家直属の暗部に所属する者の中から交替で見張りが二名付くこととなった。
見張りの者たちにとってはマキシミリアン殿下とは何も確執はないが、実行犯は元暗部の同僚だ。
陛下から直接的な命を受けてはいないものの、暗部としては元とはいえ自分たちの同僚から反逆者を出してしまった汚名を雪ぐ機会を与えられたと忖度し、王家への忠誠を証明するため恐らく機を見て自殺に見せかけて暗殺されることだろう。
陛下からは「これが俺に出来る精一杯だ。許せ」とのお言葉を頂いた。
ナナセはそういった宮廷の忖度に疎いので、ただ「幽閉されている」と事実だけを伝えた。
政治の裏にある社会のことなどナナセは知らなくていい。見なくていい。聞かなくていい。
私だけを見て、私の声だけを聞いていて欲しい。
しかし、私がマキシミリアン殿下のことを伝えるとナナセはじっと何かを考えていた後、不意に「ルイ十七世って王太子がいたんだけど」と切り出した。
ナナセが語ってくれたルイ十七世の生涯は痛ましいの一言に尽きる。
彼の両親である国王のルイ十六世とその王妃マリー・アントワネットは、革命によって投獄され断頭台で処刑されたのだという。
彼は両親が処刑されたことも知らされず、幽閉先で考え付く限り最悪の虐待を受ける。
その頃まだ八歳の少年だったルイ十七世を娼婦に強姦させ性病に感染させたのだ。
更に彼は窓を塞いで光の入らなくした鉄格子付きの部屋に監禁され、敢えてトイレや便器なども置かれず排泄物と害虫と鼠だらけの部屋で蚤と虱の湧いたベッドで一年半後、結核と身体中に出来た腫瘍のため十歳という若さで亡くなる。
余りに悲惨な最期だったため、身代わりや生存説がまことしやかに囁かれ、偽者の出現が後を絶たなかったが、彼の検死を担当した医師が密かに心臓を持ち帰り、ワインの酒精を塗り、黄金の王冠飾りのついた卵型のクリスタルの壺に入れて保存し自宅の書棚に隠していたため母親との親子関係が証明され、心臓は正しくルイ十七世のもとだと断定されて王家の霊廟へ埋葬されたのだという。
ナナセはそれ以上のことは敢えて口にしなかったが、何故私に突然そんな話をしたのか、理由は明白だ。
結局ナナセは私が考えていたよりもずっと多くのことを把握していた。
私が見せる必要も知る必要もないと勝手に判断してナナセの視界から排除し遠ざけようとしていた世の中の汚い面など、ナナセはとうに知っている。
それを私に気付かせるために話したのだ。
マキシミリアン殿下は物事の分別の付く大人で、自分の犯した罪の責任は自分で取らなくてはならない。
けれどナナセは必要以上の断罪や私刑は望んでいないのだ。
あれだけの目に遭わされておいて尚、相手に慈悲を掛けるナナセはお人好しだし、正直甘いと思う。
だが私はナナセのそういうところに苛立ちを覚えるのと同時に愛して已まないのだ。
私は故意に情報を隠匿しようとしたことを謝り、今後は入手した情報をナナセにも共有することを約束した。
一方、北の宇宙ウルソナの情勢はというと、こちらも事後処理を任せた部下の調査結果が上がって来ている。
彼らの報告によると、ナナセが落とした香油壜の中に入っていたのはバラ科の植物の種に含まれる仁の部分で、幸い全て噛んで飲み下していたとしても致死量には程遠かったとの報告だった。
――あの日、ナナセは服毒自殺を図るつもりだったのだ。
実際には致死量未満の毒だったが、言語化してみるとナナセが死ぬということが急に現実味を帯びて感じられ、その恐ろしさにぞっとした。
性奴隷として処女性が商品価値となっていたため強姦などはされていないと言っていたが、あのナナセが死を考えるだけでなく実行に移そうとするとは、一体どれほどつらい目に遭ったのだろう。
見張りの者たちにとってはマキシミリアン殿下とは何も確執はないが、実行犯は元暗部の同僚だ。
陛下から直接的な命を受けてはいないものの、暗部としては元とはいえ自分たちの同僚から反逆者を出してしまった汚名を雪ぐ機会を与えられたと忖度し、王家への忠誠を証明するため恐らく機を見て自殺に見せかけて暗殺されることだろう。
陛下からは「これが俺に出来る精一杯だ。許せ」とのお言葉を頂いた。
ナナセはそういった宮廷の忖度に疎いので、ただ「幽閉されている」と事実だけを伝えた。
政治の裏にある社会のことなどナナセは知らなくていい。見なくていい。聞かなくていい。
私だけを見て、私の声だけを聞いていて欲しい。
しかし、私がマキシミリアン殿下のことを伝えるとナナセはじっと何かを考えていた後、不意に「ルイ十七世って王太子がいたんだけど」と切り出した。
ナナセが語ってくれたルイ十七世の生涯は痛ましいの一言に尽きる。
彼の両親である国王のルイ十六世とその王妃マリー・アントワネットは、革命によって投獄され断頭台で処刑されたのだという。
彼は両親が処刑されたことも知らされず、幽閉先で考え付く限り最悪の虐待を受ける。
その頃まだ八歳の少年だったルイ十七世を娼婦に強姦させ性病に感染させたのだ。
更に彼は窓を塞いで光の入らなくした鉄格子付きの部屋に監禁され、敢えてトイレや便器なども置かれず排泄物と害虫と鼠だらけの部屋で蚤と虱の湧いたベッドで一年半後、結核と身体中に出来た腫瘍のため十歳という若さで亡くなる。
余りに悲惨な最期だったため、身代わりや生存説がまことしやかに囁かれ、偽者の出現が後を絶たなかったが、彼の検死を担当した医師が密かに心臓を持ち帰り、ワインの酒精を塗り、黄金の王冠飾りのついた卵型のクリスタルの壺に入れて保存し自宅の書棚に隠していたため母親との親子関係が証明され、心臓は正しくルイ十七世のもとだと断定されて王家の霊廟へ埋葬されたのだという。
ナナセはそれ以上のことは敢えて口にしなかったが、何故私に突然そんな話をしたのか、理由は明白だ。
結局ナナセは私が考えていたよりもずっと多くのことを把握していた。
私が見せる必要も知る必要もないと勝手に判断してナナセの視界から排除し遠ざけようとしていた世の中の汚い面など、ナナセはとうに知っている。
それを私に気付かせるために話したのだ。
マキシミリアン殿下は物事の分別の付く大人で、自分の犯した罪の責任は自分で取らなくてはならない。
けれどナナセは必要以上の断罪や私刑は望んでいないのだ。
あれだけの目に遭わされておいて尚、相手に慈悲を掛けるナナセはお人好しだし、正直甘いと思う。
だが私はナナセのそういうところに苛立ちを覚えるのと同時に愛して已まないのだ。
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