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最終章 砂漠の薔薇
〇二一 聖者ビームด็็็็็้้้้้็็็็้้้้้็็็็็้้้้้็็็็็้้้้้็็็็ ②
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みんな呆気に取られている中、エリアスと女は平然と会話を続ける。
「ヴェイラ、話は聞いていただろう。召喚時の私の願いは『私はどうすればいいんだ』だったはずだ。敢えて今もう一度問う。ナナセに掛けられた呪いを解きたい。私はどうすればいいんだ?」
「ええ? そうだったかしら? ちょっと屁理屈っぽいけど、でもそう言われればそんな気もしてきた気がするわね」
このヴェイラって女の人がエリアスに押し切られたことだけはなんとなく把握した。
「ん~、そうね。依代の核には質量は関係ないのよ。要は他にもっと強い素材があればいいんだけど」
「強いとは例えばどんな? 不可能なものでも言ってみてくれ」
「場所が場所だから元々そこに生えていた下の毛があれば最適なんだけど、聖者君の場合はそれもないのよね……」
ヴェイラはちらりと俺の下腹部を見て呟いた。
気にしてんだから言わないで……。
しかしそれを受けてエリアスがこれまた予想外なことを口にする。
「待て……それならある。ここに……」
襟の下から首に掛かっていた細い金のチェーンを引き、玻璃の涙壺を引っ張り出す。
金細工の蛇が巻き付いた小壜の中には何やら黒っぽいものが入っていた。
「まあ♡」
「エリー!?」
なんでーッ!?
なんで俺の陰毛を涙壺の中に入れて持ち歩いてるのこの勇者ッ!?
やっぱり紳士なのか!?
俺のじっとりとした疑惑の視線から逃れるようにエリアスはヴェイラに涙壺を見せている。
「使えそうか?」
「封魔紋を付けられた位置にそれより前に生えていたものだから、呪詛を騙すとしたらこれほど強いものはないわ。これなら依代の核として文句なしに最適よ」
ヴェイラの指示で、神官たちが灰を捏ねて作った粘土の人形に、涙壺ごと俺の陰毛を埋め込んで依代を作る。
「ここからは『黎明と黄昏』の出番ね」
ヴェイラに言われてエリアスはどこかから金色の金属でできたサイコロキャラメルくらいの大きさの立方体を取り出した。
なんだろう、あれ?
「それじゃあ勇者君、聖者君の封魔紋を呪詛ごと一度この『黎明と黄昏』に書き写すのよ」
「そうか! 魔導書ならば、どのような呪詛も書き込むことが出来る! しかもナナセの魔力が込められているから呪詛も騙せるのか! どうして思い付かなかったんだ!」
エリアスは自分の額を手で押さえながら独り言ちていたかと思うと、祭壇に寝ている俺に向き直ってまるでダンスにでも誘うみたいに優雅な仕草で手を差し伸べる。
「ナナセ、手を」
両手をエリアスの方へ突き出すと、エリアスはちょっと笑って俺の手に立方体を握らせ、大きな手で俺の手ごと包み込むようにそれを握った。
途端に腹の辺りが何だかもやもやとしてきて、頭だけ起こして自分の腹を見れば封魔紋が歪んで薄くなりかけている。
「あ……」
封魔紋は見る間に消えてなくなった。
呆気ない。
こんなに簡単でいいのか!?
「……成功したか? ナナセ?」
脳ってのは一度覚えたものは滅多なことでは忘れない。
思い出せないのは、ただその情報へのアクセス経路が断たれてしまって情報を取り出せない状態にあるだけなのだ。
これはスマートフォンで撮影したはずの画像を見付けられない状態に似ている。
その例えで説明すると、俺に掛けられた呪詛は特定の画像フォルダを開けなくしてしまうものだったらしい。
解呪が成功し、やっと該当の画像フォルダを開けるようになった瞬間は、情報が流れ込んでくる訳ではなく、能動的に捜せば見られるようになったって感じだ。
だが、思い出せるようになったという確かな手応えは、ヘレン・ケラーが水を触って「ウォー!」って叫んだ時もかくやというものだった。
全てのシナプスが元通り繋がりシグナルを送り始める。
そうだ、俺の名前は――聖七星。
ニ十歳だ。
思い出せる。
分かる。
知ってる。
覚えてる。
何もかも。
――ちぃたん。
そう、ちぃたんだった。
俺が契約したチタン合金の精霊の名前だ。
歯列矯正装置だったあの子は、俺が「格好良いな!」って言ったらすごく喜んでいた。
それで仲良くなっていつも一緒に遊んでたんだ。
なのに歯列矯正が終わって矯正装置を外さなくちゃいけなくなり、俺はちぃたんとお別れしたくなくて泣いた。
それきりちぃたんとは遊ぶことも話すことも出来なくなってしまったけど、外した矯正装置は持ち帰って今も実家の俺の部屋にある。
呪詛によって大部分の記憶へのアクセス経路が断たれていたから、脳が使えるアクセス経路を探してトライ・アンド・エラーを繰り返すうちに、とっくに忘れていた昔のことへのアクセス経路が繋がって思い出したんだ。
そして呪詛が解けた今、更に色々なことも思い出した。
「ヴェイラ、話は聞いていただろう。召喚時の私の願いは『私はどうすればいいんだ』だったはずだ。敢えて今もう一度問う。ナナセに掛けられた呪いを解きたい。私はどうすればいいんだ?」
「ええ? そうだったかしら? ちょっと屁理屈っぽいけど、でもそう言われればそんな気もしてきた気がするわね」
このヴェイラって女の人がエリアスに押し切られたことだけはなんとなく把握した。
「ん~、そうね。依代の核には質量は関係ないのよ。要は他にもっと強い素材があればいいんだけど」
「強いとは例えばどんな? 不可能なものでも言ってみてくれ」
「場所が場所だから元々そこに生えていた下の毛があれば最適なんだけど、聖者君の場合はそれもないのよね……」
ヴェイラはちらりと俺の下腹部を見て呟いた。
気にしてんだから言わないで……。
しかしそれを受けてエリアスがこれまた予想外なことを口にする。
「待て……それならある。ここに……」
襟の下から首に掛かっていた細い金のチェーンを引き、玻璃の涙壺を引っ張り出す。
金細工の蛇が巻き付いた小壜の中には何やら黒っぽいものが入っていた。
「まあ♡」
「エリー!?」
なんでーッ!?
なんで俺の陰毛を涙壺の中に入れて持ち歩いてるのこの勇者ッ!?
やっぱり紳士なのか!?
俺のじっとりとした疑惑の視線から逃れるようにエリアスはヴェイラに涙壺を見せている。
「使えそうか?」
「封魔紋を付けられた位置にそれより前に生えていたものだから、呪詛を騙すとしたらこれほど強いものはないわ。これなら依代の核として文句なしに最適よ」
ヴェイラの指示で、神官たちが灰を捏ねて作った粘土の人形に、涙壺ごと俺の陰毛を埋め込んで依代を作る。
「ここからは『黎明と黄昏』の出番ね」
ヴェイラに言われてエリアスはどこかから金色の金属でできたサイコロキャラメルくらいの大きさの立方体を取り出した。
なんだろう、あれ?
「それじゃあ勇者君、聖者君の封魔紋を呪詛ごと一度この『黎明と黄昏』に書き写すのよ」
「そうか! 魔導書ならば、どのような呪詛も書き込むことが出来る! しかもナナセの魔力が込められているから呪詛も騙せるのか! どうして思い付かなかったんだ!」
エリアスは自分の額を手で押さえながら独り言ちていたかと思うと、祭壇に寝ている俺に向き直ってまるでダンスにでも誘うみたいに優雅な仕草で手を差し伸べる。
「ナナセ、手を」
両手をエリアスの方へ突き出すと、エリアスはちょっと笑って俺の手に立方体を握らせ、大きな手で俺の手ごと包み込むようにそれを握った。
途端に腹の辺りが何だかもやもやとしてきて、頭だけ起こして自分の腹を見れば封魔紋が歪んで薄くなりかけている。
「あ……」
封魔紋は見る間に消えてなくなった。
呆気ない。
こんなに簡単でいいのか!?
「……成功したか? ナナセ?」
脳ってのは一度覚えたものは滅多なことでは忘れない。
思い出せないのは、ただその情報へのアクセス経路が断たれてしまって情報を取り出せない状態にあるだけなのだ。
これはスマートフォンで撮影したはずの画像を見付けられない状態に似ている。
その例えで説明すると、俺に掛けられた呪詛は特定の画像フォルダを開けなくしてしまうものだったらしい。
解呪が成功し、やっと該当の画像フォルダを開けるようになった瞬間は、情報が流れ込んでくる訳ではなく、能動的に捜せば見られるようになったって感じだ。
だが、思い出せるようになったという確かな手応えは、ヘレン・ケラーが水を触って「ウォー!」って叫んだ時もかくやというものだった。
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そうだ、俺の名前は――聖七星。
ニ十歳だ。
思い出せる。
分かる。
知ってる。
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そう、ちぃたんだった。
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異世界で聖者やってたら勇者に求婚されたんだが
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📖文庫版(紙の書籍)
📖Kindle(電子書籍)
📖BOOK☆WALKER(電子書籍)
次章続巻も順次刊行予定
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※この作品の出版権は作者本人に帰属しています。詳しくはこちらを参照してください。
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