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最終章 砂漠の薔薇
〇一五 「ナナシ」イコール「ナナセ」②
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「弑逆したってやつなら聞いた」
「そうだ。当時、近衛隊長だったギャレットは主君を守れなかったばかりか自らも大怪我を負い表舞台から消えた。だが少し前に彼は奇跡の復活を遂げている。この意味が分かるか?」
「俺が治したのか? だからギャレットは俺を競り落として保護していてくれたのか?」
エリアスはまるで自分の手柄のように誇らしそうに「そうだ」と頷いた。
「それも含めて順を追って話そう。これはナナセを捜索するためにウルソナを調査させていて得た情報から導き出したただの憶測に過ぎないが、前国王の嫡子で行方を晦ませていた王太子が近々現国王を討って王位に就く。ギャレットは恐らく現在その手助けをしている。あの娼館はその拠点だ。娼館という場所は男がコソコソと入ってコソコソと出て行くところだからカモフラージュに丁度いいし、何かを隠すにしても顧客のプライベートな情報を守るのは当然と胸を張って言えるからな。よく考えたものだ。まあ、騎士を廃業した当時は相当荒れて娼館へ入り浸りだったという噂も聞いたから、その流れで自然に拠点になってしまったのかも知れないが……。ここまではいいか?」
「うん。ギャレットのことは食えない奴だと思ってたけど、名のある騎士だったんだな。道理で俺の剣が止められたわけだ」
俺がそう零すと、エリアスがぎょっとして俺の顔を覗き込む。
「ちょっと待て。ナナセの剣を止めた? どういうことだ?」
「それより先に続きを話してくれよ。寄り道してたら話が進まないだろ」
「……後で詳しく話して貰うからな」
続きを促す俺の正論にエリアスは不承不承頷いた。
「そんな時期だから目立つ行動は控えるべきだったんだが、競売所でナナセを見付けたギャレットは、ともすれば全ての計画が台無しになってしまうかもしれないという危険を冒してまで身柄を保護してくれた。だが私に連絡を取る手段がなかったため、ナナセを娼館の飾り窓に配置して派手に噂を立てさせて、ナナセに似た容姿の者がいないか情報を収集していた私の耳に入るように仕向けたのだろう」
この世界で攫われた人を捜すときはまずそこからなのか。
闇が深いな。
「でもギャレットは俺に何も訊かなかったぞ」
「そこだ。私も彼のその漢気には感服したところだ。どうやら彼は、最初からナナセの封魔紋が魔力だけでなく記憶まで封じてしまうものだと気付いていたようだな。私にはそこまでのことは分からなかったが、ナナセに呪詛を掛けたのはウルソナの呪術士だから、ウルソナの騎士だったギャレットなら知っていても不思議はない。その上で、性奴隷として競売にかけられ男娼堕ちしたなどという不名誉な事実は全て握り潰し知らぬ存ぜぬを貫くつもりで敢えて何も訊かなかったのだろう。だから私も『ウルソナにて無事ナナセ救出』などと全世界に大々的に公表することは控え、彼の策に乗り、誰でもない貴族の男が誰でもない男娼を身請けしたことにした。辻褄合わせの筋書きはヴェイラのお偉方に丸投げしてしまおう。奴らはそのために高給を貰っているんだからな」
俺は自分のことだけで精一杯でそんなこと考えもしなかったぜ。
それに、俺の知らないところで色々と歴史が動いていたんだな。
ギャレットもエリアスも国を動かし歴史を動かす側の人間なんだ。
名誉を重んじ最善を尽くそうとする。
きっと俺よりずっと広い世界、ずっと遠くの未来を見据えているに違いない。
これらのウルソナ側の入り組んだ事情に加え、度重なる誤解とそれを訂正する機会を失ったことに依って、話が拗れてしまったのだ。
まず、「ナナシ」なんて紛らわしい源氏名を付けられてしまったことで、「ナナセ」と本名で呼ばれても聞き間違えたまま覚えてしまったのだろうと思ってしまった。
それから、新聞の姿絵の勇者エリアスに俺が一目惚れしてしまっていたがために、実物のエリアスが現れたときガチ恋しているアイドルの握手会みたいな感じで感激してしまい、エリアスにしてみれば感動の再会みたいになってしまったこともだ。
そして、最初から「俺」イコール「聖者」という公式に当て嵌めて考えれば全ての辻褄が合う話なのに、俺は「聖者」と「俺」が同一人物だなどという妄想についてはなるべく考えないようにしていたため、「ナナシ」イコール「ナナセ」という正解に辿り着けなかったのである。
「そうだ。当時、近衛隊長だったギャレットは主君を守れなかったばかりか自らも大怪我を負い表舞台から消えた。だが少し前に彼は奇跡の復活を遂げている。この意味が分かるか?」
「俺が治したのか? だからギャレットは俺を競り落として保護していてくれたのか?」
エリアスはまるで自分の手柄のように誇らしそうに「そうだ」と頷いた。
「それも含めて順を追って話そう。これはナナセを捜索するためにウルソナを調査させていて得た情報から導き出したただの憶測に過ぎないが、前国王の嫡子で行方を晦ませていた王太子が近々現国王を討って王位に就く。ギャレットは恐らく現在その手助けをしている。あの娼館はその拠点だ。娼館という場所は男がコソコソと入ってコソコソと出て行くところだからカモフラージュに丁度いいし、何かを隠すにしても顧客のプライベートな情報を守るのは当然と胸を張って言えるからな。よく考えたものだ。まあ、騎士を廃業した当時は相当荒れて娼館へ入り浸りだったという噂も聞いたから、その流れで自然に拠点になってしまったのかも知れないが……。ここまではいいか?」
「うん。ギャレットのことは食えない奴だと思ってたけど、名のある騎士だったんだな。道理で俺の剣が止められたわけだ」
俺がそう零すと、エリアスがぎょっとして俺の顔を覗き込む。
「ちょっと待て。ナナセの剣を止めた? どういうことだ?」
「それより先に続きを話してくれよ。寄り道してたら話が進まないだろ」
「……後で詳しく話して貰うからな」
続きを促す俺の正論にエリアスは不承不承頷いた。
「そんな時期だから目立つ行動は控えるべきだったんだが、競売所でナナセを見付けたギャレットは、ともすれば全ての計画が台無しになってしまうかもしれないという危険を冒してまで身柄を保護してくれた。だが私に連絡を取る手段がなかったため、ナナセを娼館の飾り窓に配置して派手に噂を立てさせて、ナナセに似た容姿の者がいないか情報を収集していた私の耳に入るように仕向けたのだろう」
この世界で攫われた人を捜すときはまずそこからなのか。
闇が深いな。
「でもギャレットは俺に何も訊かなかったぞ」
「そこだ。私も彼のその漢気には感服したところだ。どうやら彼は、最初からナナセの封魔紋が魔力だけでなく記憶まで封じてしまうものだと気付いていたようだな。私にはそこまでのことは分からなかったが、ナナセに呪詛を掛けたのはウルソナの呪術士だから、ウルソナの騎士だったギャレットなら知っていても不思議はない。その上で、性奴隷として競売にかけられ男娼堕ちしたなどという不名誉な事実は全て握り潰し知らぬ存ぜぬを貫くつもりで敢えて何も訊かなかったのだろう。だから私も『ウルソナにて無事ナナセ救出』などと全世界に大々的に公表することは控え、彼の策に乗り、誰でもない貴族の男が誰でもない男娼を身請けしたことにした。辻褄合わせの筋書きはヴェイラのお偉方に丸投げしてしまおう。奴らはそのために高給を貰っているんだからな」
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