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最終章 砂漠の薔薇
〇一一 薔薇の毒②
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「俺、果物が好きなんだよ。桃とか杏とか柑橘類は毎日食べても飽きないくらい。部屋に置いとくと匂いも楽しめるしさ。ちょっと硬いくらいのやつがあったらとっといてくれよ」
「分かった。仕入れといてやるから腐らせる前に食えよ?」
お礼を言って、桃を三個抱えようとすると流石にストップが入った。
「おい! そんなに食えないだろ! 欲張り過ぎだ、一個にしとけ! ったくこんなに食い意地が張ってる奴初めて見たぜ……」
やっぱり駄目か。
渋々桃を一個だけ抱えると厨房から追い払われる。
一個じゃ足りないんだけどな。
最低でも一〇〇個くらいは必要だろう。
でもこのサイズの桃なら種子もデカイかも知れない。
桃や杏といったバラ科の果物の種子にはアミグダリンという毒がある。
アミグダリンは体内で分解されると猛毒のシアン化合物――青酸に変わるのだ。
日光に当たったり加熱したりすると毒性が消えてしまうので、未熟な果実の方が毒性は強い。
同じバラ科の植物の梅では、梅干しを作る過程で天日干しするのは毒性を消すためだ。
アミグダリンは種子だけではなく果実にも僅かに含まれていて、致死量は普通サイズの未熟な実なら一〇〇個から三〇〇個ほどと言われているが、主に種子の中の仁に多く含まれるので仁だけを取り出せばもっと少なくても行けるだろう。
更にビタミンCと一緒に摂取すると毒性は高まる。
ビタミンCを多く含む柑橘類も確保しておかなくては。
問題は異世界の桃にアミグダリンがどれだけ含まれているか不明な点だ。
兎に角この桃の果実部分を食ってしまわなければ。
種だけ残して実は捨てるなんて選択肢は俺にはない。
それに、男娼として生きるという選択肢もない。
あんな風に男に犯されるくらいなら死を選ぶ。
そのためにはこの薔薇の毒が必要なのだ。
後に思い返してみると、このとき俺に愛する人の記憶があったなら間違ってもこれほど無謀な計画を立てなかっただろう。
或いは魔王に捕らえられていた時のように、ヒューのような庇護対象がいれば自分も含め庇護対象も生き残る策を練っていたと思う。
災害時に病人怪我人など弱者を含め全員が生き残ることを想定した避難計画を実行したグループと、屈強な者だけのグループとでは前者の方が生存率が格段に高くなり、後者の生存率は驚くほど低くなるというデータがある。
魔王城では前者のケースで、ヒューの存在が抑止力となり結果的に俺の生存率を上げる方向へと上手く作用したが、今回のケースはまさにその逆で後者の方だったのだ。
この時の俺には愛する人の記憶も守るべき庇護対象も何もなく、たった一人だけだった。
それがどれほど人を弱くするか俺には知る術もなかったが、不幸なことに毒の知識だけはあったのだ。
「分かった。仕入れといてやるから腐らせる前に食えよ?」
お礼を言って、桃を三個抱えようとすると流石にストップが入った。
「おい! そんなに食えないだろ! 欲張り過ぎだ、一個にしとけ! ったくこんなに食い意地が張ってる奴初めて見たぜ……」
やっぱり駄目か。
渋々桃を一個だけ抱えると厨房から追い払われる。
一個じゃ足りないんだけどな。
最低でも一〇〇個くらいは必要だろう。
でもこのサイズの桃なら種子もデカイかも知れない。
桃や杏といったバラ科の果物の種子にはアミグダリンという毒がある。
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更にビタミンCと一緒に摂取すると毒性は高まる。
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問題は異世界の桃にアミグダリンがどれだけ含まれているか不明な点だ。
兎に角この桃の果実部分を食ってしまわなければ。
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異世界で聖者やってたら勇者に求婚されたんだが
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次章続巻も順次刊行予定
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※この作品の出版権は作者本人に帰属しています。詳しくはこちらを参照してください。
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