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最終章 砂漠の薔薇
〇〇八 薔薇の名前①
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俺を競り落とした褐色肌に金髪碧眼の男に簀巻きのまま駱駝の前に乗せられて連れて行かれたのは、オアシスの街の外れの丸いドーム型の屋根をした砂漠の砂色の石造りのどっしりした建物が幾つか合体した、一見してお城風ラブホテルのような大きな邸だった。
ぐるりと囲まれた高い塀の裏口から入り、駱駝から降ろされ綺麗な裏庭の花壇の縁に置物のように腰掛けさせられて男が駱駝を厩舎に繋いでいるのを待っていると、邸からどこかの私立女子高を思わせるセーラー服にミニスカート姿の黒髪ロングに黒眼の黄色人種で、どう見ても東洋人の男――の娘――が飛び出してくる。
女装しているし、化粧もしているから年齢不詳だ。
「おかえり……って、わぁ! キミ、新人さん? 綺麗なコだね! 言葉分かるかな? ボク、ナズーリン! よろしくね!」
どうも、先日助けて頂いた簀巻きです。よろしく。
フレンドリーに自己紹介して貰ったから自分も名乗ろうと思ったが、俺は自分の名前すら忘れていることを思い出す。
そうだった。
人生がハードモード過ぎて気が回らなくなってたけど、俺は名前どころか自分のことをなんにも思い出せないのだ。
どう説明したらいいものか分からなかったのでぺこりとお辞儀だけ返すと、そこへ俺を競り落とした男が駱駝の世話を終えて戻って来た。
「ナズーリン、任せた」
「お帰り、ギャレット。うん、わかった。ボクに教育を任せるってことだね。公用語は分かるみたいだけどこのコ、幾らしたの? 高かったんじゃない?」
「金貨三〇〇〇〇枚だ」
「金貨三〇〇〇〇枚っ!? ギャレットそんなにお金持ってたの!?」
寧ろ金貨なんて嵩張るものを、よく三〇〇〇〇枚も持ち歩いてたよなって一瞬思ったが、冷静になって考えたら世界最初の銀行は、今から約五〇〇〇年前の紀元前三〇〇〇年のバビロニアだ。
この世界の文化レベルなら、小切手みたいなものもあるかも知れない。
俺を競り落としたこの男の名前はどうやらギャレットと言うらしい。
そしてギャレットは壊滅的に言葉が足りないが、このナズーリンって男の娘が上手く察してフォローしている。
「予約は入っている」
ナズーリンの素直な反応に、ギャレットは気まずさを誤魔化すようにポリポリと顔を掻く。
「買うつもりはなかったんだ? で、水揚げ前なのに競売所でもう予約を受けてきちゃったの? それならすぐに元は取れるかもしれないけど……」
水揚げ、予約……。
何その不穏なワード。
男の娘が出て来た時点で薄々勘付いてはいたけど、やっぱここ、男娼を扱ってる陰間茶屋みたいな娼館らしい。
そしてギャレットはここのオーナーで、俺は男娼になって客を取らされるのか。
セックス・ワーカーってやつなのか。
どうしてこうなった。
「それより顔合わせだ」
「はーい! みんなをサロンに集めておくね!」
パタパタと元気に邸の中へを駆けてゆくナズーリンを見送りなから、後に続くようにギャレットと俺も邸に入った。
十数人ほどの従業員が邸内の豪奢な東欧風のサロンに集められ、順番に自己紹介をしていく。
「オーナーのギャレットだ」
「さっきも会ったけど、ボクはナズーリン。何でも訊いてね」
「オレはスーリ。よろしく」
「僕はショシャンナ。よろしくね」
東洋人の男の娘がナズーリン。
白い肌に白髪菫眼の多分白子がスーリ。
褐色の肌に赤い髪と右目が金で左目が銀の虹彩異色症がショシャンナ。
これだけ毛色の変わった男娼を取り揃えているのは、ギャレットの趣味なのだろうか。
この三人がこの娼館「砂漠の薔薇」の看板の高級男娼だと紹介された。
今日は俺が出品されてた性奴隷競売があったので、上客は皆そっちに行ってしまってこの三人の高級男娼だけ休みだったらしい。
その他の男娼は仕事中なのでここにはいないが、そもそも別棟で暮らしているので生活空間が違うから会うことは滅多にないだろうということだった。
ぐるりと囲まれた高い塀の裏口から入り、駱駝から降ろされ綺麗な裏庭の花壇の縁に置物のように腰掛けさせられて男が駱駝を厩舎に繋いでいるのを待っていると、邸からどこかの私立女子高を思わせるセーラー服にミニスカート姿の黒髪ロングに黒眼の黄色人種で、どう見ても東洋人の男――の娘――が飛び出してくる。
女装しているし、化粧もしているから年齢不詳だ。
「おかえり……って、わぁ! キミ、新人さん? 綺麗なコだね! 言葉分かるかな? ボク、ナズーリン! よろしくね!」
どうも、先日助けて頂いた簀巻きです。よろしく。
フレンドリーに自己紹介して貰ったから自分も名乗ろうと思ったが、俺は自分の名前すら忘れていることを思い出す。
そうだった。
人生がハードモード過ぎて気が回らなくなってたけど、俺は名前どころか自分のことをなんにも思い出せないのだ。
どう説明したらいいものか分からなかったのでぺこりとお辞儀だけ返すと、そこへ俺を競り落とした男が駱駝の世話を終えて戻って来た。
「ナズーリン、任せた」
「お帰り、ギャレット。うん、わかった。ボクに教育を任せるってことだね。公用語は分かるみたいだけどこのコ、幾らしたの? 高かったんじゃない?」
「金貨三〇〇〇〇枚だ」
「金貨三〇〇〇〇枚っ!? ギャレットそんなにお金持ってたの!?」
寧ろ金貨なんて嵩張るものを、よく三〇〇〇〇枚も持ち歩いてたよなって一瞬思ったが、冷静になって考えたら世界最初の銀行は、今から約五〇〇〇年前の紀元前三〇〇〇年のバビロニアだ。
この世界の文化レベルなら、小切手みたいなものもあるかも知れない。
俺を競り落としたこの男の名前はどうやらギャレットと言うらしい。
そしてギャレットは壊滅的に言葉が足りないが、このナズーリンって男の娘が上手く察してフォローしている。
「予約は入っている」
ナズーリンの素直な反応に、ギャレットは気まずさを誤魔化すようにポリポリと顔を掻く。
「買うつもりはなかったんだ? で、水揚げ前なのに競売所でもう予約を受けてきちゃったの? それならすぐに元は取れるかもしれないけど……」
水揚げ、予約……。
何その不穏なワード。
男の娘が出て来た時点で薄々勘付いてはいたけど、やっぱここ、男娼を扱ってる陰間茶屋みたいな娼館らしい。
そしてギャレットはここのオーナーで、俺は男娼になって客を取らされるのか。
セックス・ワーカーってやつなのか。
どうしてこうなった。
「それより顔合わせだ」
「はーい! みんなをサロンに集めておくね!」
パタパタと元気に邸の中へを駆けてゆくナズーリンを見送りなから、後に続くようにギャレットと俺も邸に入った。
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「オレはスーリ。よろしく」
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異世界で聖者やってたら勇者に求婚されたんだが
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📖Kindle(電子書籍)
📖BOOK☆WALKER(電子書籍)
次章続巻も順次刊行予定
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※この作品の出版権は作者本人に帰属しています。詳しくはこちらを参照してください。
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