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最終章 砂漠の薔薇
〇〇七 競売①
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「よくやった。これで落札価格が跳ね上がる」
内覧会が終わり、俺がショーケースから出されて椅子のベルトを外されると元締めがほくほくと揉み手をしながら近寄ってくる。
泣き腫らした目のせいで値切られた昨夜とは真逆の反応だ。
「泣けない奴隷は多いんだ。泣ける心に値段が付く」
恐怖と怒りに全身がわなわなと震える思いがした。
この世界は地獄だ。
特別扱いを受けている今のうちはいいかもしれない。
だけど、あの少年は俺の未来の姿だ。
汚らしい恥垢塗れのチンコを口で掃除させられ、ケツの穴にアナルローズが咲くまで犯され、レイプされ、輪姦され、穴という穴に射精され、気力を折られ、泣くことも出来なくなるまで凌辱の限りを尽くされ、死ぬまで惨めに搾取され続けるのだ。
いっそ死んだほうがマシだと思いながら、それでも生にしがみつく。
そこには人としての尊厳なんて微塵も残されていないのだ。
昼飯も喉を通らず、夜になって競売が始まっても俺の怒りは収まらなかった。
「そう嘆くことはない。見ろ、あの少年奴隷は君の恩恵に与ってあのランクでは破格の落札額で競り落とされた。高く競り落とされれば、値段分の元を取ろうと大事にされる」
嘆く?
俺は怒っているんだが!?
いや、理不尽への憤りか?
そう思いながらも見ればあの少年が簡素だが清潔な服を着せられて身形の良い男に引き渡されている。
俺もそのうちああなるのか。
否――。
俺はああはならない。
なってなんかやらない。
絶対に。
絶対にだ。
競売は恙無く進み、残すところは俺だけとなった。
もうすぐ照明を落とした客席の中央に儲けられた、スポットライトの当たる丸い壇上へと連れて行かれるのだ。
壇上の周囲は競売吏と腰に剣を差した警備兵数人に囲まれているので、そのときは鎖も拘束もない。
俺はすっかり意気消沈して項垂れたように振舞っていたので皆油断している。
チャンスは一度きり。
この時のことを後で思うと何でそんなことをしたのか恥じ入りたい気分になる。
普段の俺からは考えられない発想だった。
多分、先行きも分からないままショッキングな世界をまざまざと見せつけられて、俺はどうかしていたんだ。
――それは短絡的な行動だった。
元締めに背中を押されて壇上に出ると、俺は突如、客席へと飛び降りる。
買い手が商品に近付かないように壇上に背を向けていた警備兵たちは、まさかその商品が飛び降りてくるとは思っていなかったようで、意表を突かれて一瞬怯んだ。
その一瞬を突いて俺は警備兵が腰に差していた剣の柄を掴み一気に引き抜いた。
本当に死にたい奴はリストカットなんかせずに首を吊る。それが一番手軽で確実だからだ。
だが首吊りは時間が掛かるし、今の俺にはその機会すら与えられていない。
即死を狙うなら頸椎だが首の後ろは自分で斬るのは難しい。
狙うなら、斬れば大量出血する頸動脈だ。
あんな非道な奴らに搾取されるくらいなら、俺は尊厳ある死を選ぶ――!
自分でも驚くほど素早く動けたと思う。
剣で斬ろうとしては駄目だ。
体重を掛けて一息に行かなければ。
けれど、俺が自分の首筋に当てようとしたとき、剣がびくともしなくなったのだ。
見れば剣身を直に掴んでいる褐色の手があり、その手を辿った視線が碧い瞳と合ってハッとする。
男だ。
年の頃は三十代半ばから四十代前半。
二メートルを優に超える長身。
褐色の肌に金髪碧眼という珍しい組み合わせ。
剣身を握り締めた男の指の間から鮮血が滴り落ちる。
その赤い色を見た瞬間、あれだけ収まらなかった怒りがまるでその血と一緒に流れ落ちたかのように感じて、俺は自分の無計画な衝動が失敗したことを知った。
内覧会が終わり、俺がショーケースから出されて椅子のベルトを外されると元締めがほくほくと揉み手をしながら近寄ってくる。
泣き腫らした目のせいで値切られた昨夜とは真逆の反応だ。
「泣けない奴隷は多いんだ。泣ける心に値段が付く」
恐怖と怒りに全身がわなわなと震える思いがした。
この世界は地獄だ。
特別扱いを受けている今のうちはいいかもしれない。
だけど、あの少年は俺の未来の姿だ。
汚らしい恥垢塗れのチンコを口で掃除させられ、ケツの穴にアナルローズが咲くまで犯され、レイプされ、輪姦され、穴という穴に射精され、気力を折られ、泣くことも出来なくなるまで凌辱の限りを尽くされ、死ぬまで惨めに搾取され続けるのだ。
いっそ死んだほうがマシだと思いながら、それでも生にしがみつく。
そこには人としての尊厳なんて微塵も残されていないのだ。
昼飯も喉を通らず、夜になって競売が始まっても俺の怒りは収まらなかった。
「そう嘆くことはない。見ろ、あの少年奴隷は君の恩恵に与ってあのランクでは破格の落札額で競り落とされた。高く競り落とされれば、値段分の元を取ろうと大事にされる」
嘆く?
俺は怒っているんだが!?
いや、理不尽への憤りか?
そう思いながらも見ればあの少年が簡素だが清潔な服を着せられて身形の良い男に引き渡されている。
俺もそのうちああなるのか。
否――。
俺はああはならない。
なってなんかやらない。
絶対に。
絶対にだ。
競売は恙無く進み、残すところは俺だけとなった。
もうすぐ照明を落とした客席の中央に儲けられた、スポットライトの当たる丸い壇上へと連れて行かれるのだ。
壇上の周囲は競売吏と腰に剣を差した警備兵数人に囲まれているので、そのときは鎖も拘束もない。
俺はすっかり意気消沈して項垂れたように振舞っていたので皆油断している。
チャンスは一度きり。
この時のことを後で思うと何でそんなことをしたのか恥じ入りたい気分になる。
普段の俺からは考えられない発想だった。
多分、先行きも分からないままショッキングな世界をまざまざと見せつけられて、俺はどうかしていたんだ。
――それは短絡的な行動だった。
元締めに背中を押されて壇上に出ると、俺は突如、客席へと飛び降りる。
買い手が商品に近付かないように壇上に背を向けていた警備兵たちは、まさかその商品が飛び降りてくるとは思っていなかったようで、意表を突かれて一瞬怯んだ。
その一瞬を突いて俺は警備兵が腰に差していた剣の柄を掴み一気に引き抜いた。
本当に死にたい奴はリストカットなんかせずに首を吊る。それが一番手軽で確実だからだ。
だが首吊りは時間が掛かるし、今の俺にはその機会すら与えられていない。
即死を狙うなら頸椎だが首の後ろは自分で斬るのは難しい。
狙うなら、斬れば大量出血する頸動脈だ。
あんな非道な奴らに搾取されるくらいなら、俺は尊厳ある死を選ぶ――!
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