異世界で聖者やってたら勇者に求婚されたんだが

マハラメリノ

文字の大きさ
上 下
202 / 266
最終章 砂漠の薔薇

〇〇七 競売①

しおりを挟む
「よくやった。これで落札価格が跳ね上がる」

内覧会が終わり、俺がショーケースから出されて椅子のベルトを外されると元締めがほくほくと揉み手をしながら近寄ってくる。
泣き腫らした目のせいで値切られた昨夜とは真逆の反応だ。

「泣けない奴隷は多いんだ。泣ける心に値段が付く」

恐怖と怒りに全身がわなわなと震える思いがした。
この世界は地獄だ。

特別扱いを受けている今のうちはいいかもしれない。
だけど、あの少年は俺の未来の姿だ。
汚らしい恥垢塗れのチンコを口で掃除させられ、ケツの穴にアナルローズが咲くまで犯され、レイプされ、輪姦され、穴という穴に射精され、気力を折られ、泣くことも出来なくなるまで凌辱の限りを尽くされ、死ぬまで惨めに搾取され続けるのだ。
いっそ死んだほうがマシだと思いながら、それでも生にしがみつく。
そこには人としての尊厳なんて微塵も残されていないのだ。

昼飯も喉を通らず、夜になって競売が始まっても俺の怒りは収まらなかった。

「そう嘆くことはない。見ろ、あの少年奴隷は君の恩恵に与ってあのランクでは破格の落札額で競り落とされた。高く競り落とされれば、値段分の元を取ろうと大事にされる」

嘆く?
俺は怒っているんだが!?
いや、理不尽への憤りか?
そう思いながらも見ればあの少年が簡素だが清潔な服を着せられて身形の良い男に引き渡されている。

俺もそのうちああなるのか。
否――。
俺はああはならない。
なってなんかやらない。
絶対に。
絶対にだ。

競売オークションは恙無く進み、残すところは俺だけとなった。
もうすぐ照明を落とした客席の中央に儲けられた、スポットライトの当たる丸い壇上へと連れて行かれるのだ。
壇上の周囲は競売吏オークショニアと腰に剣を差した警備兵数人に囲まれているので、そのときは鎖も拘束もない。
俺はすっかり意気消沈して項垂れたように振舞っていたので皆油断している。
チャンスは一度きり。

この時のことを後で思うと何でそんなことをしたのか恥じ入りたい気分になる。
普段の俺からは考えられない発想だった。
多分、先行きも分からないままショッキングな世界をまざまざと見せつけられて、俺はどうかしていたんだ。

――それは短絡的な行動だった。
元締めに背中を押されて壇上に出ると、俺は突如、客席へと飛び降りる。
買い手バイヤーが商品に近付かないように壇上に背を向けていた警備兵たちは、まさかその商品が飛び降りてくるとは思っていなかったようで、意表を突かれて一瞬怯んだ。
その一瞬を突いて俺は警備兵が腰に差していた剣の柄を掴み一気に引き抜いた。

本当に死にたい奴はリストカットなんかせずに首を吊る。それが一番手軽で確実だからだ。
だが首吊りは時間が掛かるし、今の俺にはその機会すら与えられていない。
即死を狙うなら頸椎だが首の後ろは自分で斬るのは難しい。
狙うなら、斬れば大量出血する頸動脈だ。

あんな非道な奴らに搾取されるくらいなら、俺は尊厳ある死を選ぶ――!

自分でも驚くほど素早く動けたと思う。
剣で斬ろうとしては駄目だ。
体重を掛けて一息に行かなければ。
けれど、俺が自分の首筋に当てようとしたとき、剣がびくともしなくなったのだ。
見れば剣身を直に掴んでいる褐色の手があり、その手を辿った視線が碧い瞳と合ってハッとする。

男だ。
年の頃は三十代半ばから四十代前半。
二メートルを優に超える長身。
褐色の肌に金髪碧眼という珍しい組み合わせ。

剣身を握り締めた男の指の間から鮮血が滴り落ちる。
その赤い色を見た瞬間、あれだけ収まらなかった怒りがまるでその血と一緒に流れ落ちたかのように感じて、俺は自分の無計画な衝動が失敗したことを知った。
しおりを挟む
異世界で聖者やってたら勇者に求婚されたんだが
第一章 聖者降臨


📖文庫版(紙の書籍)
📖Kindle(電子書籍)
📖BOOK☆WALKER(電子書籍)

次章続巻も順次刊行予定
OLOLON

※この作品の出版権は作者本人に帰属しています。詳しくはこちらを参照してください。
感想 21

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

ある日、人気俳優の弟になりました。

雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。 「俺の命は、君のものだよ」 初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……? 平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

処理中です...