異世界で聖者やってたら勇者に求婚されたんだが

マハラメリノ

文字の大きさ
上 下
189 / 266
最終章 砂漠の薔薇

〇〇一 「能う限り」① ※エリアス視点

しおりを挟む
結婚式当日、花嫁が消えた。
ナナセがいなくなったのだ。

ナナセの控室の床にはすり鉢状の穴が開いていた。
穴の中の砂を掘り返させてみたが果たしてナナセの姿はなく、土の精霊を使役した際に見られる特徴があったので何者かに勾引かどわかされたことは明白だ。
土の精霊にならこの穴を何処か他の地へ繋げてしまうことも容易い。
精霊の中には気に入った人間を攫ってしまう習性を持つ者もいるが、ナナセに限ってはそれが当てはまらない。

私には四大精霊の守護があるが、ナナセにはこの世界のどの精霊の守護もない。
だからナナセが一人になった隙を狙われたのだ。

だがこれは魔法ではない。
これほど大規模な魔法が使用されれば王宮内にいた各国の首脳に付き添ってきた名立たる魔法士たちが気付くだろうし、魔導書「黎明と黄昏」とルヴァの前皇帝陛下に戴いた腕輪ブレスレットは残されていたが魔法抵抗が付与された婚約指輪エンゲージリングは見当たらなかったのでナナセが自分で外していなければあの指輪が魔法を阻んでナナセを護るはずだ。
しかし魔法士は誰一人気付かず、指輪の魔法抵抗は発動しなかった。

式に出席するために世界中から来訪していた名立たる魔法士たちによって直ちに捜索魔法が施行された。
しかしその結果、何の痕跡も見付けることが出来なかったのである。
誰もが最悪の事態を疑ったが、何も出ないのは逆におかしい。
殺すつもりなら勾引かどわかすなどという面倒な手段をとる必要などない。
恐らくナナセに直接的な危害を加えることは土の精霊が拒否したのだろう。
そして直接的な危害を加えない範囲で呪詛を行った。
ナナセの捜索に協力してくれた魔法士や有識者たちが議論を交わした結果、呪詛によって消息を巧妙に隠蔽されていると考える方が無理がないという意見で一致するに至ったのだ。

しかも精霊を使役した呪詛とは……。
呪詛は効果が表れるまでに相当の時間を要すが、それ故に発見が非常に困難で成就するまで普通はまず気付くことはない。

式に出席していた各国の高名な魔法士でさえ誰一人として気付けなかった呪詛による犯行だとわかり、ヴェイラ王家の面目と威厳はとりあえず保たれたが、まんまとしてやられたことに変わりがないのだ。

私は内心舌打ちした。
呪詛によるものならば心当たりがあるのは、魔王城から救出後、ナナセが寝ているとき悪夢に魘されるようになったことだ。
魔王に凌辱されたことが心の傷になっていて悪夢という形で表れているのだと思っていたが、どうやら原因はそれだけではなかったらしい。
あのとき既にナナセはじわじわと呪詛に蝕まれていたのだ。
私がナナセから離れた時間を狙って呪詛は進行し、悪夢はナナセが呪詛に無意識に抵抗した結果だろう。
兆候には気付いていたのに私は何も対策を講じなかった。
いや、常に私が側にいるようになったことで呪詛を妨害し、進行を遅らせることに成功してはいただろう。
だが完全に阻止し跳ね返すまでには至らず、結局、呪詛は成就してしまった。
ヴェイラやルヴァですら気付かなかったのだから、勇者といえども只人の私に気付けるはずもないのは当然だが、それでも私は気付くべきだったのだ。
他の誰でもない、ナナセのことなのだから。
これは誰も責められない。
私の失態だ。
しおりを挟む
異世界で聖者やってたら勇者に求婚されたんだが
第一章 聖者降臨


📖文庫版(紙の書籍)
📖Kindle(電子書籍)
📖BOOK☆WALKER(電子書籍)

次章続巻も順次刊行予定
OLOLON

※この作品の出版権は作者本人に帰属しています。詳しくはこちらを参照してください。
感想 21

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

ある日、人気俳優の弟になりました。

雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。 「俺の命は、君のものだよ」 初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……? 平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

アルファな俺が最推しを救う話〜どうして俺が受けなんだ?!〜

車不
BL
5歳の誕生日に階段から落ちて頭を打った主人公は、自身がオメガバースの世界を舞台にしたBLゲームに転生したことに気づく。「よりにもよってレオンハルトに転生なんて…悪役じゃねぇか!!待てよ、もしかしたらゲームで死んだ最推しの異母兄を助けられるかもしれない…」これは第二の性により人々の人生や生活が左右される世界に疑問を持った主人公が、最推しの死を阻止するために奮闘する物語である。

処理中です...