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最終章 砂漠の薔薇
〇〇一 「能う限り」① ※エリアス視点
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結婚式当日、花嫁が消えた。
ナナセがいなくなったのだ。
ナナセの控室の床にはすり鉢状の穴が開いていた。
穴の中の砂を掘り返させてみたが果たしてナナセの姿はなく、土の精霊を使役した際に見られる特徴があったので何者かに勾引かされたことは明白だ。
土の精霊にならこの穴を何処か他の地へ繋げてしまうことも容易い。
精霊の中には気に入った人間を攫ってしまう習性を持つ者もいるが、ナナセに限ってはそれが当てはまらない。
私には四大精霊の守護があるが、ナナセにはこの世界のどの精霊の守護もない。
だからナナセが一人になった隙を狙われたのだ。
だがこれは魔法ではない。
これほど大規模な魔法が使用されれば王宮内にいた各国の首脳に付き添ってきた名立たる魔法士たちが気付くだろうし、魔導書「黎明と黄昏」とルヴァの前皇帝陛下に戴いた腕輪は残されていたが魔法抵抗が付与された婚約指輪は見当たらなかったのでナナセが自分で外していなければあの指輪が魔法を阻んでナナセを護るはずだ。
しかし魔法士は誰一人気付かず、指輪の魔法抵抗は発動しなかった。
式に出席するために世界中から来訪していた名立たる魔法士たちによって直ちに捜索魔法が施行された。
しかしその結果、何の痕跡も見付けることが出来なかったのである。
誰もが最悪の事態を疑ったが、何も出ないのは逆におかしい。
殺すつもりなら勾引かすなどという面倒な手段をとる必要などない。
恐らくナナセに直接的な危害を加えることは土の精霊が拒否したのだろう。
そして直接的な危害を加えない範囲で呪詛を行った。
ナナセの捜索に協力してくれた魔法士や有識者たちが議論を交わした結果、呪詛によって消息を巧妙に隠蔽されていると考える方が無理がないという意見で一致するに至ったのだ。
しかも精霊を使役した呪詛とは……。
呪詛は効果が表れるまでに相当の時間を要すが、それ故に発見が非常に困難で成就するまで普通はまず気付くことはない。
式に出席していた各国の高名な魔法士でさえ誰一人として気付けなかった呪詛による犯行だとわかり、ヴェイラ王家の面目と威厳はとりあえず保たれたが、まんまとしてやられたことに変わりがないのだ。
私は内心舌打ちした。
呪詛によるものならば心当たりがあるのは、魔王城から救出後、ナナセが寝ているとき悪夢に魘されるようになったことだ。
魔王に凌辱されたことが心の傷になっていて悪夢という形で表れているのだと思っていたが、どうやら原因はそれだけではなかったらしい。
あのとき既にナナセはじわじわと呪詛に蝕まれていたのだ。
私がナナセから離れた時間を狙って呪詛は進行し、悪夢はナナセが呪詛に無意識に抵抗した結果だろう。
兆候には気付いていたのに私は何も対策を講じなかった。
いや、常に私が側にいるようになったことで呪詛を妨害し、進行を遅らせることに成功してはいただろう。
だが完全に阻止し跳ね返すまでには至らず、結局、呪詛は成就してしまった。
ヴェイラやルヴァですら気付かなかったのだから、勇者といえども只人の私に気付けるはずもないのは当然だが、それでも私は気付くべきだったのだ。
他の誰でもない、ナナセのことなのだから。
これは誰も責められない。
私の失態だ。
ナナセがいなくなったのだ。
ナナセの控室の床にはすり鉢状の穴が開いていた。
穴の中の砂を掘り返させてみたが果たしてナナセの姿はなく、土の精霊を使役した際に見られる特徴があったので何者かに勾引かされたことは明白だ。
土の精霊にならこの穴を何処か他の地へ繋げてしまうことも容易い。
精霊の中には気に入った人間を攫ってしまう習性を持つ者もいるが、ナナセに限ってはそれが当てはまらない。
私には四大精霊の守護があるが、ナナセにはこの世界のどの精霊の守護もない。
だからナナセが一人になった隙を狙われたのだ。
だがこれは魔法ではない。
これほど大規模な魔法が使用されれば王宮内にいた各国の首脳に付き添ってきた名立たる魔法士たちが気付くだろうし、魔導書「黎明と黄昏」とルヴァの前皇帝陛下に戴いた腕輪は残されていたが魔法抵抗が付与された婚約指輪は見当たらなかったのでナナセが自分で外していなければあの指輪が魔法を阻んでナナセを護るはずだ。
しかし魔法士は誰一人気付かず、指輪の魔法抵抗は発動しなかった。
式に出席するために世界中から来訪していた名立たる魔法士たちによって直ちに捜索魔法が施行された。
しかしその結果、何の痕跡も見付けることが出来なかったのである。
誰もが最悪の事態を疑ったが、何も出ないのは逆におかしい。
殺すつもりなら勾引かすなどという面倒な手段をとる必要などない。
恐らくナナセに直接的な危害を加えることは土の精霊が拒否したのだろう。
そして直接的な危害を加えない範囲で呪詛を行った。
ナナセの捜索に協力してくれた魔法士や有識者たちが議論を交わした結果、呪詛によって消息を巧妙に隠蔽されていると考える方が無理がないという意見で一致するに至ったのだ。
しかも精霊を使役した呪詛とは……。
呪詛は効果が表れるまでに相当の時間を要すが、それ故に発見が非常に困難で成就するまで普通はまず気付くことはない。
式に出席していた各国の高名な魔法士でさえ誰一人として気付けなかった呪詛による犯行だとわかり、ヴェイラ王家の面目と威厳はとりあえず保たれたが、まんまとしてやられたことに変わりがないのだ。
私は内心舌打ちした。
呪詛によるものならば心当たりがあるのは、魔王城から救出後、ナナセが寝ているとき悪夢に魘されるようになったことだ。
魔王に凌辱されたことが心の傷になっていて悪夢という形で表れているのだと思っていたが、どうやら原因はそれだけではなかったらしい。
あのとき既にナナセはじわじわと呪詛に蝕まれていたのだ。
私がナナセから離れた時間を狙って呪詛は進行し、悪夢はナナセが呪詛に無意識に抵抗した結果だろう。
兆候には気付いていたのに私は何も対策を講じなかった。
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これは誰も責められない。
私の失態だ。
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※この作品の出版権は作者本人に帰属しています。詳しくはこちらを参照してください。
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