異世界で聖者やってたら勇者に求婚されたんだが

マハラメリノ

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第三章 黎明と黄昏

〇三八 頼んでないピザが来た①

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八月が終わり、九月に入ると暑さは和らぎ、ヴェイラの地に心地よい風が吹き渡る季節が訪れた。
先月、ルートヴィヒ陛下の戴冠式を終えたばかりのヴェイラ王国のヴェルスパ宮殿は再び喝采に沸いている。

俺はというと、控室にと用意された一室で、治癒術士のクロブーク風の帽子の代わりに花冠を、スカプラリオ風の服の代わりに祭服にも似た純白の婚礼衣装を身に纏い、数メートルも引き摺るほど長いマントに身を包んでいた。
そう、今日は俺とエリアスの結婚式当日だ。
気持ちがふわふわしてあんまり実感ないが本当に結婚するらしい。

貴族の結婚式は準備に一年くらい掛ける人もいるみたいで、エリアスも俺の卒業まで式の準備期間に充てるつもりでいたようだが、俺が魔王に拉致されたりその後も色々あって気が気じゃなかったから早く結婚して落ち着きたいと考えるようになっていたところへ、ルヴァの前皇帝陛下の後押しもあって前倒しで踏み切ったのだった。

それに加えて、即位したばかりのルートヴィヒ陛下の新政権の地盤固めと人気取りに丁度いいってことで、式は王宮で開かれることとなり、諸々の準備は王家が急ピッチで進めてくれて、他国の王族と国中の貴族と豪商を全員招待しているし、勿論、アルビオンから俺の両親も来ている。
こんなに大事になるとは思ってなかったが、勇者と聖者の婚姻ともなると、俺たち二人だけの問題では済まないらしい。

俺? 俺はもう考えるのは止めたって言ったろ♡
実際この二か月くらいは、ヘラヘラ笑いながらエリアスに手を引かれているだけだった。
考えるのを止めた今、俺の頭の中にあるのは、あの勇者の角で出来た結婚指輪マリッジリングが遂に俺の物になるってことだけだ。

それでも女物のドレスだけは断固拒否するつもりでいたんだが、仕立て屋が推奨してきたデザインは男物の祭服に近い物でこの婚礼衣装はちょっと自慢したくなるくらい格好良い。

スタンドカラーで真珠のボタンは背面についていて上から下まで一センチ置きくらいに一列に並んでいて上半身は身体のラインが分かるほどぴったりしているが、腰から下は床に裾を引きずるフルレングスのストンとしたデザインで、ラッパ型の長い袖には二の腕の前面にスリットが入っている。
ちょっとオスマン帝国のカフタンドレスに似ているけど、肩から金糸と銀糸で宝石が縫い付けられた金のサッシュを掛けると一気に欧州風になるから不思議だ。

エリアスが結構前から生地を織らせていたという絹織物は、一見白一色だけど俺の名前にちなんで星の模様が織り込まれていて角度によってキラキラと真珠色の星が浮かび上がる。
その上に羽織るマントがこれまた凄くて数メートルも引き摺るたっぷりした生地に金糸と銀糸で施された花の刺繍は圧巻だが、かなりの重量があるから付き添いの人に持って貰わないと歩けない。

仮縫いの試着の時、嬉しくなって同じく衝立の向こうで仮縫い試着中だったエリアスに見せようとしたら、エリアスは俺の百倍くらい似合っていて見惚れるほど格好良かった。てか、実際見惚れてしまって目的を忘れ暫し呆けていた。

エリアスのはかっちりした白い軍服風のデザインで俺のマントとお揃いの金糸と銀糸の花の刺繍が入っていて、袖や胸元や三角帽子トリコーンの上に繊細なレースがふんだんにあしらわれているんだけど、レースもこういう使い方だと少しも女々しくないんだよな。
エリアスほどレースの似合う男はいないんじゃないだろうかと思うくらいだ。
更にその上にやはりこれも俺とお揃いの金糸と銀糸で宝石が縫い付けられた金のサッシュと同じく刺繍の入ったケープを肩に掛けるともうね、王子。これぞザ・王子。
勇者だけど、勇者が王子という概念を着てるんだよ。
仮縫いであれだったんだ、本番の今日はどうなっていることやら。
ちょっと怖いくらいドキドキするぜ。
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