異世界で聖者やってたら勇者に求婚されたんだが

マハラメリノ

文字の大きさ
上 下
180 / 266
第三章 黎明と黄昏

〇三四 三回もセックスって言った①

しおりを挟む
 霧が気になっていたのは、自分の作ったそのストーリーだ。

(なんであたし、こんな感傷的なものを作ってしまったんだろう……)

 母親と子供の、涙の再会。

(ベタだよなぁ……。お涙ちょうだいのおセンチな内容。奪われた子供、取り戻すために奔走する母親。あたしの母親とは大違いの、愛情に満ちた、優しい、通りすがりの生き物すら助ける慈愛に満ちた女性……。この娘は、幸せだな。きっと信じていただろう、母親が、助けに来てくれると……)

 そこまで考えて、霧は、ハッとした。

(あ……そうか……)

 霧の心に刺さっていた、何か。
 その、正体に気付いたのだ。

(この子供は、あたしなんだ。あたしは自分のために……自分の願いを消化するために、この物語を作ったのか)

 突然それに思い当たり、愕然とする。
 大人になった今もなお、霧の中には、膝を抱え、愛情にかつえ、泣き叫ぶ子供がいる、ということに。

(ああ……そうか。そういうことか)

 霧はやるせない溜息をつくと、呟いた。

「あたしは……迎えに来てほしかったのか……。あんな、クズでも、愛して欲しかったのか……あたしを捨てて、二度と帰ってこなかったのに。はは……あほらしい……」

 自虐的に歪んだ唇の端に、あふれ出した涙が、滑り落ちてゆく。
 自己憐憫の涙は、陶酔的な甘い香りを放ちながら、絶望的な苦味と吐き気を催すほどの激辛風味を併せ持ち、霧の心中を打ち据えた。
 それは容認しがたい苦しみを伴って、何度味わっても慣れることなく、霧を無力な子供に戻してしまう。
 泣いている自分が苛立たしい。過去の痛みに翻弄される自分が、心底煩わしかった。
 止めたいのに、一度堰を切ったその涙は次から次へと溢れ出て、霧の頬を濡らしていく。

「忘れたい……もう全部……それなのになぜ……。悪夢だ。もう終わったこと」

 そう言い聞かせても、心に刻みつけられた傷跡は、ことあるごとに疼きだす。
 人とは、なんと脆弱な生き物だろう。
 霧は尚も自分をあざ笑った。いまだ親の与えた暴力と枷から抜け出せない自分を。

「考えるな、思い出すな、今はもう、にいるのだから……」

 しかし思い出すまい、とすればするほど、過去の亡霊が恨みがましく脳裏によみがえってくる。

 霧の両親は、控えめに言っても、クズだった。

 母親は、他人の稼ぎで楽をして生きいきたいという思いで結婚し、当然ながら目論見が外れた。「夫婦は合わせ鏡」という言葉がある。人は自分と同じランクの人間としか出会えないという。両親の結婚は、それを悪い意味で如実にょじつに反映した結果となった。
 結婚当初それなりに稼いでいた父親は、霧が生まれた後に仕事を辞めてしまい、酒浸りの毎日となる。母親は、幼い霧に数々の暴言を吐きながら育て、やがて貧乏と夫の浮気に嫌気がさし、小さな娘を置いて家を出て行った。その後、父親は霧の世話を放棄し、挙句の果てに娘で金もうけをしようと、娘の裸を撮影し、いかがわしい連中と取り引きを始めた。

 その時のことを思い返せば、今でもゾッとする。

 荒い息を吐きながら子供の裸を凝視する、見知らぬ大人の男たち。
 あの気持ち悪い目。触れてくる汚い手。邪悪な欲望にまみれた、変態たち。

「ううっ……!!」

 霧は吐き気を催して顔を手で覆った。

しおりを挟む
異世界で聖者やってたら勇者に求婚されたんだが
第一章 聖者降臨


📖文庫版(紙の書籍)
📖Kindle(電子書籍)
📖BOOK☆WALKER(電子書籍)

次章続巻も順次刊行予定
OLOLON

※この作品の出版権は作者本人に帰属しています。詳しくはこちらを参照してください。
感想 21

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

一人の騎士に群がる飢えた(性的)エルフ達

ミクリ21
BL
エルフ達が一人の騎士に群がってえちえちする話。

俺は触手の巣でママをしている!〜卵をいっぱい産んじゃうよ!〜

ミクリ21
BL
触手の巣で、触手達の卵を産卵する青年の話。

神官、触手育成の神託を受ける

彩月野生
BL
神官ルネリクスはある時、神託を受け、密かに触手と交わり快楽を貪るようになるが、傭兵上がりの屈強な将軍アロルフに見つかり、弱味を握られてしまい、彼と肉体関係を持つようになり、苦悩と悦楽の日々を過ごすようになる。 (誤字脱字報告不要)

処理中です...