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第三章 黎明と黄昏
〇三三 もげた②
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こんな金属の角を生やすなんて、エリアスは一体何者になろうとしていたんだ?
こんなのもう勇者でも魔王でもないだろ。
これはどっちかっていうと、鬼――?
そこまで考えてぞくりとする。
俺を護りたい余りに力を欲しているうちに勇者でも魔王でもなく、そっち側へ傾きかけてしまったってことか。
だが、たまたま俺が五行の金属性だったからエリアスを救えたのかも知れない。
どういうことかというと、桃太郎の話を例に挙げよう。
あれは陰陽五行説の設定にガチガチに則った構成の話なんだ。
そもそも桃は五行で言うと金属性の果実だ。
鬼退治に行く桃太郎は鬼門の「丑寅」の方角の真逆に位置する「申酉戌」つまり「猿雉犬」をお供に連れている。
この「申酉戌」が正に五行の金属性に相応しているのだ。
つまり金属性は鬼絶対殺すマンの属性ってことになる。
金属性の精霊が存在しないこの世界では、俺は治癒と転移を除いて大した魔法も使えないし役立たずだって思ってたけど、もしかして全てはエリアスを救う為だったのかも知れない。
恐らく、俺と交わったことでエリアスは鬼の力を失った。
そうだ、これはたまたまなんかじゃない。
全てはこの為だったんだ。
何の確証もないし確かめようもないけど俺にはなぜかそう思えてならなかった。
それから改めて実感した。
俺はエリアスをちゃんと救えたんだって。
感慨深く、拾った角を眺める。
白い金属なんて初めて見た。
何これ凄いし面白いし、もっとたくさん欲しい。
また生えてこないかな。
伸びてきたら切り落として量産して欲しい。
興味津々で眺めていると、エリアスの眉間に皺が寄っていた。
「そんなもの拾うな。捨ててくれ。そうだ、そこの炉に投げ込もう」
「何でだよ?」
こんな珍しい金属を手放す気など更々ないが、頭ごなしに拒絶するつもりもないので一応理由を聞いてやる。
「私にとってその角は、ナナセの言う『黒歴史』だからだ」
まだ覚えてたのかよ黒歴史!
それはヒューを断罪したら黒歴史になるって言ったときにエリアスに意味を訊かれて教えた言葉だ。
「エリーは俺のもんだろ? んで、その黒歴史の角もエリーの一部だったものなんだから、だったらこの角の所有権は俺にあるよな?」
俺はいつぞや、魔王に剃毛された陰毛入りの涙壺の所有権を主張したときのエリアスの言葉をそっくりそのまま返してやったのである。
これにはエリアスも、ぐっと言葉に詰まって子供みたいに口を尖らせた。
反論すれば「涙壺と交換だ」とでも言われかねないと思ったのだろう。
俺は大事な角をさっさと懐に仕舞い込んだ。
それから天体観測所の外階段を上って硝子のドーム部屋へ入ると、ルヴァが戻ってきていた。
「おかえり。朝ご飯出来てるよ。食べるでしょ?」
フリフリのフリルのついたエプロンを着け、手にはミトンの鍋掴みを着けてスキレット鍋を持っている。
こんな森の奥でルヴァの手料理が食べられる店があるなんて――とでも言うと思ったか!?
マジでなんなんだよこいつ!?
まあ、食べるけど!
気が利くな!
こんなのもう勇者でも魔王でもないだろ。
これはどっちかっていうと、鬼――?
そこまで考えてぞくりとする。
俺を護りたい余りに力を欲しているうちに勇者でも魔王でもなく、そっち側へ傾きかけてしまったってことか。
だが、たまたま俺が五行の金属性だったからエリアスを救えたのかも知れない。
どういうことかというと、桃太郎の話を例に挙げよう。
あれは陰陽五行説の設定にガチガチに則った構成の話なんだ。
そもそも桃は五行で言うと金属性の果実だ。
鬼退治に行く桃太郎は鬼門の「丑寅」の方角の真逆に位置する「申酉戌」つまり「猿雉犬」をお供に連れている。
この「申酉戌」が正に五行の金属性に相応しているのだ。
つまり金属性は鬼絶対殺すマンの属性ってことになる。
金属性の精霊が存在しないこの世界では、俺は治癒と転移を除いて大した魔法も使えないし役立たずだって思ってたけど、もしかして全てはエリアスを救う為だったのかも知れない。
恐らく、俺と交わったことでエリアスは鬼の力を失った。
そうだ、これはたまたまなんかじゃない。
全てはこの為だったんだ。
何の確証もないし確かめようもないけど俺にはなぜかそう思えてならなかった。
それから改めて実感した。
俺はエリアスをちゃんと救えたんだって。
感慨深く、拾った角を眺める。
白い金属なんて初めて見た。
何これ凄いし面白いし、もっとたくさん欲しい。
また生えてこないかな。
伸びてきたら切り落として量産して欲しい。
興味津々で眺めていると、エリアスの眉間に皺が寄っていた。
「そんなもの拾うな。捨ててくれ。そうだ、そこの炉に投げ込もう」
「何でだよ?」
こんな珍しい金属を手放す気など更々ないが、頭ごなしに拒絶するつもりもないので一応理由を聞いてやる。
「私にとってその角は、ナナセの言う『黒歴史』だからだ」
まだ覚えてたのかよ黒歴史!
それはヒューを断罪したら黒歴史になるって言ったときにエリアスに意味を訊かれて教えた言葉だ。
「エリーは俺のもんだろ? んで、その黒歴史の角もエリーの一部だったものなんだから、だったらこの角の所有権は俺にあるよな?」
俺はいつぞや、魔王に剃毛された陰毛入りの涙壺の所有権を主張したときのエリアスの言葉をそっくりそのまま返してやったのである。
これにはエリアスも、ぐっと言葉に詰まって子供みたいに口を尖らせた。
反論すれば「涙壺と交換だ」とでも言われかねないと思ったのだろう。
俺は大事な角をさっさと懐に仕舞い込んだ。
それから天体観測所の外階段を上って硝子のドーム部屋へ入ると、ルヴァが戻ってきていた。
「おかえり。朝ご飯出来てるよ。食べるでしょ?」
フリフリのフリルのついたエプロンを着け、手にはミトンの鍋掴みを着けてスキレット鍋を持っている。
こんな森の奥でルヴァの手料理が食べられる店があるなんて――とでも言うと思ったか!?
マジでなんなんだよこいつ!?
まあ、食べるけど!
気が利くな!
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