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第三章 黎明と黄昏
〇三一 黎明と黄昏
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――黎明と黄昏。
それが俺とエリアスで共同作成した魔導書の題名だ。
魔法によって本という概念を与えられた金色の立方体。
この世界から精錬した純粋な金属の立方体結晶。
つまり、ルヴァの燃え滓で作られたこの世界から抽出したルヴァの燃え滓だと思って貰えればいい。
今は純度が高いけど、これから様々な情報を書き加えて合金になってゆく。
フラッシュメモリーみたいな使い方を思い描いていたから紙の本の形にはならなかったけど、これこそが闇魔法で編纂した紛うことなき魔導書だった。
未だ繋がったまま、俺もエリアスも肩で息をしながら呼吸を整える。
ちょっと読んでみようか。
視線だけで促すと、エリアスも意図を汲みとって頷いた。
「魔族は闇の中から光とともに生まれたんだ」
初めのうちはそれで良かった。
けれど光が強くなりすぎて、闇もまた濃くなりすぎてしまったんだ。
光と闇は表裏一体だから。
生まれた時から闇属性を持つ魔族は、闇の影響を受けやすい。
濃くなった闇に引きずられるように自らを抑えられなくなっていったんだ。
でもこれからは俺の魔導書「黎明と黄昏」が光と闇の境界を曖昧にさせ、混ざり合わせることで均衡を保つだろう。
さながら、夜と朝の境目の黎明のように。
そして、昼と夜の境目の黄昏のように。
――或いは、俺とエリアスのように。
俺たち二人は互いの足りないところを上手いこと補い合っていると思うんだ。
誰も魔王にならなくていいように。
誰も勇者にならなくていいように。
――そうして、もう誰も聖者にならなくていいように。
闇が光を以てこの世界を癒してくれるだろう。
「これで完成なのか?」
エリアスがそう言ってアーモンド形の眼を瞬かせるが、まだ完成したわけじゃない。
魔導書は数多の人の手を渡り、蓄積されて行くのだ。
「これからだよ。人類史が続く限り魔導書は永遠に完成しない」
それに、生まれたばかりの魔導書はまだ不安定だから、あと一回くらい二人でイッて安定させておいた方がいいだろう。
俺はもう一回という意味を込めてエリアスの腰に両脚を絡める。
闇魔法には贄が必要で、俺の場合、贄はエリアスの子種しか受け付けない。
そして魔導書を編纂する闇魔法は、治癒よりも遥かに多くの子種を必要とするようだ。
俺とエリアスがセックスしてエリアスが俺に種付けして、そうして生まれたのがこの魔導書って、なんだかコイツ俺たちの子供みたいだよな。
いや、実質そうだろ。
ヤベエ。
気付きたくなかったけど今気付いちまった。
そっか、俺、こんな激しいセックス毎日してたらそのうちエリアスに孕まされそうって思ってたけど遂に何か生んじまったのか……そっか……。
俺は男として大事なものを失った気がするけど、悪い気分じゃなかった。
だって、エリアスがすっごく優しい目で俺を見てるし。
掌の中から生まれるとか、どこかの神話みたいだが。
男神の目から生まれたとか鼻から生まれたとか神話あるあるだ。
もしかして神話って、実際はみんなこんな状況だったのかも知れないよな。
まあ、俺もエリアスも神じゃなくて人なんだが。
俺が再び黎明と黄昏を両手で包み込むと、エリアスの手が更に俺の手の上から包み込んだ。
俺を気遣ってかさっきよりもソフトな腰使いのピストンに合わせて俺も腰を振る。
エリアスが俺に種付けしやすいように。
――だが、俺たちがセックスを再開した刹那、ここにいるはずのない第三者の声が響く。
「これはこれは、勇者殿と聖者殿」
洋画でよくある「well, well, well」的な悪役の科白だった。
俺とエリアスは繋がったままで声がした方向を反射的に見る。
そして俺たちが見上げた天体観測所の硝子のドームの上には、見覚えのあるトムソンガゼルみたいな角――。
「どうして、ここに……!」
俺たちが見上げたそこには、魔王の側近だった魔族――レンが立っていた。
それが俺とエリアスで共同作成した魔導書の題名だ。
魔法によって本という概念を与えられた金色の立方体。
この世界から精錬した純粋な金属の立方体結晶。
つまり、ルヴァの燃え滓で作られたこの世界から抽出したルヴァの燃え滓だと思って貰えればいい。
今は純度が高いけど、これから様々な情報を書き加えて合金になってゆく。
フラッシュメモリーみたいな使い方を思い描いていたから紙の本の形にはならなかったけど、これこそが闇魔法で編纂した紛うことなき魔導書だった。
未だ繋がったまま、俺もエリアスも肩で息をしながら呼吸を整える。
ちょっと読んでみようか。
視線だけで促すと、エリアスも意図を汲みとって頷いた。
「魔族は闇の中から光とともに生まれたんだ」
初めのうちはそれで良かった。
けれど光が強くなりすぎて、闇もまた濃くなりすぎてしまったんだ。
光と闇は表裏一体だから。
生まれた時から闇属性を持つ魔族は、闇の影響を受けやすい。
濃くなった闇に引きずられるように自らを抑えられなくなっていったんだ。
でもこれからは俺の魔導書「黎明と黄昏」が光と闇の境界を曖昧にさせ、混ざり合わせることで均衡を保つだろう。
さながら、夜と朝の境目の黎明のように。
そして、昼と夜の境目の黄昏のように。
――或いは、俺とエリアスのように。
俺たち二人は互いの足りないところを上手いこと補い合っていると思うんだ。
誰も魔王にならなくていいように。
誰も勇者にならなくていいように。
――そうして、もう誰も聖者にならなくていいように。
闇が光を以てこの世界を癒してくれるだろう。
「これで完成なのか?」
エリアスがそう言ってアーモンド形の眼を瞬かせるが、まだ完成したわけじゃない。
魔導書は数多の人の手を渡り、蓄積されて行くのだ。
「これからだよ。人類史が続く限り魔導書は永遠に完成しない」
それに、生まれたばかりの魔導書はまだ不安定だから、あと一回くらい二人でイッて安定させておいた方がいいだろう。
俺はもう一回という意味を込めてエリアスの腰に両脚を絡める。
闇魔法には贄が必要で、俺の場合、贄はエリアスの子種しか受け付けない。
そして魔導書を編纂する闇魔法は、治癒よりも遥かに多くの子種を必要とするようだ。
俺とエリアスがセックスしてエリアスが俺に種付けして、そうして生まれたのがこの魔導書って、なんだかコイツ俺たちの子供みたいだよな。
いや、実質そうだろ。
ヤベエ。
気付きたくなかったけど今気付いちまった。
そっか、俺、こんな激しいセックス毎日してたらそのうちエリアスに孕まされそうって思ってたけど遂に何か生んじまったのか……そっか……。
俺は男として大事なものを失った気がするけど、悪い気分じゃなかった。
だって、エリアスがすっごく優しい目で俺を見てるし。
掌の中から生まれるとか、どこかの神話みたいだが。
男神の目から生まれたとか鼻から生まれたとか神話あるあるだ。
もしかして神話って、実際はみんなこんな状況だったのかも知れないよな。
まあ、俺もエリアスも神じゃなくて人なんだが。
俺が再び黎明と黄昏を両手で包み込むと、エリアスの手が更に俺の手の上から包み込んだ。
俺を気遣ってかさっきよりもソフトな腰使いのピストンに合わせて俺も腰を振る。
エリアスが俺に種付けしやすいように。
――だが、俺たちがセックスを再開した刹那、ここにいるはずのない第三者の声が響く。
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「どうして、ここに……!」
俺たちが見上げたそこには、魔王の側近だった魔族――レンが立っていた。
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異世界で聖者やってたら勇者に求婚されたんだが
第一章 聖者降臨
📖文庫版(紙の書籍)
📖Kindle(電子書籍)
📖BOOK☆WALKER(電子書籍)
次章続巻も順次刊行予定
OLOLON
※この作品の出版権は作者本人に帰属しています。詳しくはこちらを参照してください。
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