異世界で聖者やってたら勇者に求婚されたんだが

マハラメリノ

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第三章 黎明と黄昏

〇二八 永遠の死の国②

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思えばあの頃から既にエリアスは自分が魔王になりそうな兆候を感じ取って誰にも言えず一人で不安と戦っていたのかも知れない。
それなのに俺は気付いてやれなかったばかりか、エリアスに甘えてぬくぬくと愛されていただけだった。
今度は俺がエリアスを護る番だ。

「忘れたことなどないよ」

エリアスは目を細めてうっとりと呟いた。
もしかして、これはまずいことしたかな。
あのとき俺が「魔王になったら嫌いになるぞ」って言っていたら、エリアスは角なんか生やさなかったのかも知れない。
けれど、今となっては詮無いことだ。

「エリーが魔王になったらもうヴェイラへは戻れないし、二人で世界征服でもする? 俺たち最強コンビだと思わねえ?」
「その提案は魅力的だが、私はナナセを呼ぶ声というのが気になる。墻壁の外から聞こえていたんだろう? 今も聞こえるか?」

こんなになってまでエリアスは自分のことより俺のことを優先させるのかよ。
少しは自分の心配をしろよと思ったが、俺は俺を想うエリアスの気持ちを無碍には出来ない。
だから、エリアスのことは俺がなんとかするしかないのだ。

「今は聞こえない。聞こえるのは大抵俺がぼんやりしているときなんだ」
「だったら少し黙っていて確認してみるか。ナナセを呼び出した相手を突き止めよう」
「それはいいけど、エリーの調子はどう? 今のところなんともない?」
「角の他には何も違和感はない」

それもう馴染みつつあるってことじゃないよな。
寧ろ違和感があって欲しかった気もするけど、きっと結果的にはこれで良かったんだ。
だって、一緒にいるのは世界最強の勇者様だし、勇者であるのと同時に魔王化して更に強くなってる可能性もある。
エリアスは永遠の死の国に俺を一人で放置したりはしないだろう。
ここがどんなところかは知らないが、エリアスさえいれば今の俺に怖いもんはないぜ。
そんなことをぼんやりと考えながら耳を澄ませていると、例の声が聞こえ始める。

――セ、ナナセ。

「……あっちだ」

森の奥を指さすと、エリアスは先に立って俺の手を引きながら森の奥へ分け入った。
要所要所に石を積み、迷わないように木に印をつけていく。
俺は時々立ち止まっては耳を澄ませて方向を確認しながらエリアスに進むべき方向を指示した。

「足元に気を付けて」

地面は岩だらけなのに苔のお陰で柔らかく、一足歩くごとにふかふかと足が沈み込む。
つきのくらいぶぶんを杖として本来の用途で使ったが、それでも苔に足を取られて躓きそうになるとエリアスが支えてくれた。
偶に、羽のある巨大な節足動物が蛍みたいに発光しながら上空を飛んでいったが、生き物らしい生き物は植物と昆虫ばかりで他の動物は見かけない。

それからどれくらい歩いただろう。
声に導かれるまま森の中を無言で進んでいると、突然森が開けて周囲を手入れの行き届いた黄色い針金雀児ハリエニシダの生垣に囲まれた円柱形の建築物が姿を現した。
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異世界で聖者やってたら勇者に求婚されたんだが
第一章 聖者降臨


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次章続巻も順次刊行予定
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