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第三章 黎明と黄昏
〇二七 Bボタン①
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俺、こんな夜中に何で外にいるんだろう。
ああ、そっか俺、エリアスに呼ばれてここまで来ちゃったんだ。
それで俺を追いかけて来たエリアスに止められて……。
んんっ!?
それってなんかおかしくないか?
おかしいよな?
よく分からないや。俺、寝惚けてたのかな。
ぎゅうぎゅうしがみついてくるエリアスの背中をぽんぽん叩いて拘束を解かせて見上げれば、エリアスは前髪に白い花弁なんか付けてるし。
花なんてどこで付けてきたんだよそんなもの。
エリアスも寝惚けてたのかな。
幾ら姓が花咲く谷だからって夜会でもないのに頭に花をつけるのはないだろ。
美しい花瓶になっちまうぞ。
「エリー、頭に花弁が付いてるぜ? ほら……」
花弁かと思ったんだ。
だから俺はそう言いながら手を伸ばしてエリアスの頭からその白い花弁を払い落そうとした。
だけど出来なかったんだ。
その段になって俺はやっと、それが花弁などではなくエリアスの頭から生えている「角」なのだと気付いて言葉を失う。
――Bボタン!
言うなれば「おや!? エリアス の ようすが……!」という状態だ。
俺のエリアスが進化しちゃう!
だけど俺の手元にBボタンはなくて、人生でこれほど強くBボタンを欲したことはなかった。
まあBボタン単品を欲しいと思ったことも初めてだが。
エリアスの角は額の生え際あたりの皮膚の下から二本、五センチほどのものが生えていた。
トムソンガゼルやジャコブヒツジの角ように溝付きのギザギザしたタイプじゃなくて、つるんとしていて真っ白い骨みたいな角だ。
満月の光に照らされて、それはいっそ禍々しいほどの美しさを放っている。
ここは剣と魔法の世界だけど、角の生えた純粋な人族はいない。
竜族や獣人族のような古代種とその混血には角を持つ者もいるが、それを除けば後は魔族と半人半魔だけだ。
でもエリアスは異種族との混血ではない。
両親とも人族で、エリアスは二人の特徴を受け継いでいた。
親子関係は疑いようもないだろう。
そこまで考えたところで、勇者と魔王の力は常に均衡を保っているのだという話を思い出してゾクリと背筋にうすら寒いものが走る。
前にも言ったと思うが、職業だけでなく種族も実は変更が効く。
以前、エリアスは言っていなかっただろうか。
獣人領の舞踏会が終わった朝のことだ。
「魔王になってしまうかもしれない」と。
まさか、そんな、勇者が魔王に――。
「ナナセ?」
俺の手が角に触れてエリアスも違和感に気付いたのだろう。
エリアスは自分で自分の頭に手をやって、そしてその角に触れる。
刹那、淡褐色と淡緑色が混ざり合う榛色の瞳が驚愕に見開かれるのを見た。
「ナナセ……ッ! 私から離れろッ……!」
「断る!」
反射的に俺はエリアスの手を掴んだ。
ここでもし、力任せにしがみついたりしていたらきっと振り払われていたことだろう。
エリアスがそうしなかったのは、俺はエリアスの手を掴んだといっても、ほとんど添えられているといってもいい程度の掴み方だったからだ。
ああ、そっか俺、エリアスに呼ばれてここまで来ちゃったんだ。
それで俺を追いかけて来たエリアスに止められて……。
んんっ!?
それってなんかおかしくないか?
おかしいよな?
よく分からないや。俺、寝惚けてたのかな。
ぎゅうぎゅうしがみついてくるエリアスの背中をぽんぽん叩いて拘束を解かせて見上げれば、エリアスは前髪に白い花弁なんか付けてるし。
花なんてどこで付けてきたんだよそんなもの。
エリアスも寝惚けてたのかな。
幾ら姓が花咲く谷だからって夜会でもないのに頭に花をつけるのはないだろ。
美しい花瓶になっちまうぞ。
「エリー、頭に花弁が付いてるぜ? ほら……」
花弁かと思ったんだ。
だから俺はそう言いながら手を伸ばしてエリアスの頭からその白い花弁を払い落そうとした。
だけど出来なかったんだ。
その段になって俺はやっと、それが花弁などではなくエリアスの頭から生えている「角」なのだと気付いて言葉を失う。
――Bボタン!
言うなれば「おや!? エリアス の ようすが……!」という状態だ。
俺のエリアスが進化しちゃう!
だけど俺の手元にBボタンはなくて、人生でこれほど強くBボタンを欲したことはなかった。
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エリアスの角は額の生え際あたりの皮膚の下から二本、五センチほどのものが生えていた。
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ここは剣と魔法の世界だけど、角の生えた純粋な人族はいない。
竜族や獣人族のような古代種とその混血には角を持つ者もいるが、それを除けば後は魔族と半人半魔だけだ。
でもエリアスは異種族との混血ではない。
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親子関係は疑いようもないだろう。
そこまで考えたところで、勇者と魔王の力は常に均衡を保っているのだという話を思い出してゾクリと背筋にうすら寒いものが走る。
前にも言ったと思うが、職業だけでなく種族も実は変更が効く。
以前、エリアスは言っていなかっただろうか。
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まさか、そんな、勇者が魔王に――。
「ナナセ?」
俺の手が角に触れてエリアスも違和感に気付いたのだろう。
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「断る!」
反射的に俺はエリアスの手を掴んだ。
ここでもし、力任せにしがみついたりしていたらきっと振り払われていたことだろう。
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