異世界で聖者やってたら勇者に求婚されたんだが

マハラメリノ

文字の大きさ
上 下
166 / 266
第三章 黎明と黄昏

〇二五 「もっと、力が欲しい」② ※エリアス視点

しおりを挟む
私はどこか遠くを見ながら、私の隊の副隊長ヒルデブラントが飼い猫のためにベッドを誂えた時の話を思い出していた。
猫はベッドには目もくれず、梱包されていた箱に入ってご満悦だったという。
それを武勇伝のように得意げに話すヒルデブラントの気持ちは私の理解の範疇を越えているが、いま目の前で繰り広げられている出来事はそれと同じ現象なのではないだろうか。

アルコーブベッドに満足げに収まっているナナセは愛しい。
愛しいが今は憎らしい。
私はそのとき、愛と憎しみが共存できることを知った。
きっとこの感情は、光と闇のように表裏一体なのだ。
光が強ければ強いほどそこに出来る闇が深くなってしまうように、愛しければ愛しいほど憎しみも強くなってしまう。

大体いつも、愛しいと思うのと同じくらいナナセには苛々させられる。
他の者にこんなに苛ついたことはない。
それは私が他の者に対しては全く関心がないからだ。
私が惹かれるのはナナセだけで、こんなにも心を掻き乱される存在はナナセしかいない。
だが困ったことに、私はナナセに心を掻き乱されるのが実はそんなに嫌いではないのだ。
正直に言うと、癖になっている。

願わくは、もっと憎ませて欲しいし、苛つかせて欲しいし、心を掻き乱して欲しい。
私の心と心臓をその爪で引っ掻いて、消えることのない傷を付けて欲しいのだ。

……分かっている。
こんなのはおかしいということくらい私だって重々承知だ。

勇者殺すに刃物はいらぬ。
倒れた場所が丁度絨毯の上だったので私はそのまま積んであるクッションに突っ伏して暫く起き上がれなかった。
――力が欲しい。もっと、圧倒的な力が。

私が復活したのは日が傾きかけた頃で、食べ損なった昼食の代わりに二人で部屋で軽食を取っている時にそれは起こった。
即ち、ナナセにまた「呼んだ?」と訊かれたのだ。

今まで「呼んだ」と聞かれた時は、どの時もナナセが気を失っているか眠っている最中であり、不意に目を覚ましてという状況だった。
はっきりと起きているときに訊かれたのは、この時が初めてである。

だが、直前までナナセに腹を立てていた私は、その時に限っていつもと違う行動をとってしまう。
そう、私は遂に「ああ、呼んだ」と答えてしまったのだ。

後から「呼んでみただけだ」と誤魔化すとナナセはちょっと笑い、安心して食事を再開した。
私はナナセに嘘を吐いたのだ。
だがこれで良かったのだろうか。
私にはナナセしかいないのだから、何があってもナナセを失うわけにはいかない。
得体の知れないものからどうすればナナセを護れるのだろう。

――もっと、力が欲しい。ナナセを護るための力が。
しおりを挟む
異世界で聖者やってたら勇者に求婚されたんだが
第一章 聖者降臨


📖文庫版(紙の書籍)
📖Kindle(電子書籍)
📖BOOK☆WALKER(電子書籍)

次章続巻も順次刊行予定
OLOLON

※この作品の出版権は作者本人に帰属しています。詳しくはこちらを参照してください。
感想 21

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

ある日、人気俳優の弟になりました。

雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。 「俺の命は、君のものだよ」 初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……? 平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

処理中です...