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第三章 黎明と黄昏
〇二五 「もっと、力が欲しい」② ※エリアス視点
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私はどこか遠くを見ながら、私の隊の副隊長ヒルデブラントが飼い猫のためにベッドを誂えた時の話を思い出していた。
猫はベッドには目もくれず、梱包されていた箱に入ってご満悦だったという。
それを武勇伝のように得意げに話すヒルデブラントの気持ちは私の理解の範疇を越えているが、いま目の前で繰り広げられている出来事はそれと同じ現象なのではないだろうか。
アルコーブベッドに満足げに収まっているナナセは愛しい。
愛しいが今は憎らしい。
私はそのとき、愛と憎しみが共存できることを知った。
きっとこの感情は、光と闇のように表裏一体なのだ。
光が強ければ強いほどそこに出来る闇が深くなってしまうように、愛しければ愛しいほど憎しみも強くなってしまう。
大体いつも、愛しいと思うのと同じくらいナナセには苛々させられる。
他の者にこんなに苛ついたことはない。
それは私が他の者に対しては全く関心がないからだ。
私が惹かれるのはナナセだけで、こんなにも心を掻き乱される存在はナナセしかいない。
だが困ったことに、私はナナセに心を掻き乱されるのが実はそんなに嫌いではないのだ。
正直に言うと、癖になっている。
願わくは、もっと憎ませて欲しいし、苛つかせて欲しいし、心を掻き乱して欲しい。
私の心と心臓をその爪で引っ掻いて、消えることのない傷を付けて欲しいのだ。
……分かっている。
こんなのはおかしいということくらい私だって重々承知だ。
勇者殺すに刃物はいらぬ。
倒れた場所が丁度絨毯の上だったので私はそのまま積んであるクッションに突っ伏して暫く起き上がれなかった。
――力が欲しい。もっと、圧倒的な力が。
私が復活したのは日が傾きかけた頃で、食べ損なった昼食の代わりに二人で部屋で軽食を取っている時にそれは起こった。
即ち、ナナセにまた「呼んだ?」と訊かれたのだ。
今まで「呼んだ」と聞かれた時は、どの時もナナセが気を失っているか眠っている最中であり、不意に目を覚ましてという状況だった。
はっきりと起きているときに訊かれたのは、この時が初めてである。
だが、直前までナナセに腹を立てていた私は、その時に限っていつもと違う行動をとってしまう。
そう、私は遂に「ああ、呼んだ」と答えてしまったのだ。
後から「呼んでみただけだ」と誤魔化すとナナセはちょっと笑い、安心して食事を再開した。
私はナナセに嘘を吐いたのだ。
だがこれで良かったのだろうか。
私にはナナセしかいないのだから、何があってもナナセを失うわけにはいかない。
得体の知れないものからどうすればナナセを護れるのだろう。
――もっと、力が欲しい。ナナセを護るための力が。
猫はベッドには目もくれず、梱包されていた箱に入ってご満悦だったという。
それを武勇伝のように得意げに話すヒルデブラントの気持ちは私の理解の範疇を越えているが、いま目の前で繰り広げられている出来事はそれと同じ現象なのではないだろうか。
アルコーブベッドに満足げに収まっているナナセは愛しい。
愛しいが今は憎らしい。
私はそのとき、愛と憎しみが共存できることを知った。
きっとこの感情は、光と闇のように表裏一体なのだ。
光が強ければ強いほどそこに出来る闇が深くなってしまうように、愛しければ愛しいほど憎しみも強くなってしまう。
大体いつも、愛しいと思うのと同じくらいナナセには苛々させられる。
他の者にこんなに苛ついたことはない。
それは私が他の者に対しては全く関心がないからだ。
私が惹かれるのはナナセだけで、こんなにも心を掻き乱される存在はナナセしかいない。
だが困ったことに、私はナナセに心を掻き乱されるのが実はそんなに嫌いではないのだ。
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願わくは、もっと憎ませて欲しいし、苛つかせて欲しいし、心を掻き乱して欲しい。
私の心と心臓をその爪で引っ掻いて、消えることのない傷を付けて欲しいのだ。
……分かっている。
こんなのはおかしいということくらい私だって重々承知だ。
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――力が欲しい。もっと、圧倒的な力が。
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だが、直前までナナセに腹を立てていた私は、その時に限っていつもと違う行動をとってしまう。
そう、私は遂に「ああ、呼んだ」と答えてしまったのだ。
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――もっと、力が欲しい。ナナセを護るための力が。
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