異世界で聖者やってたら勇者に求婚されたんだが

マハラメリノ

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第三章 黎明と黄昏

〇二五 「もっと、力が欲しい」① ※エリアス視点

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――ナナセに嘘を吐いた。

名前を呼んだかと聞かれ、私は呼んでいなかったのに呼んだなどと嘘を吐いたのだ。
何故そんな吐かなくてもいい嘘を吐いたのかというと、始まりはナナセの二十歳の誕生日に遡る。

あの日、色々と邪魔が入りはしたものの、性交は必然的に何時もより深く激しいものとなった。
求婚のやり直しをしたこともあるが、最も大きな要因はナナセが私の過去の相手に嫉妬していたことが発覚したからだ。
嫉妬。あのナナセが嫉妬。
他者に対する感情の中で、これ以上の執着があろうか。
気の狂うような恋をしていたのは私だけではなかったのだ。
いや、決してナナセの愛を疑っていたわけではないのだが。

抱き潰してしまったことに気付きはしたが、どうしても止められなかった。
気を失っているナナセを執拗に犯し、風呂に入れてからも犯し続け、ぐったりして最早ぴくりとも動かないナナセをベッドへ運び、それでも離すことができず唇を吸い身体中を弄って愛撫していたのだ。

ところがそのとき不意にナナセが目を覚ました。
ナナセはぼんやりとして心ここに在らずといった様子で呟いたのだ。
「呼んだ?」と。
愛撫はしていたが、起こさないように気を遣っていたので声を出して呼んではいない。
だからそのときは真直に「呼んでいない」と答えた。
しかしそれは始まりに過ぎず、その後も同じようなことが繰り返し起こることになる。

以降、ナナセは度々「呼んだ?」と訊くようになった。
それは決まってナナセが意識を飛ばしたり眠っていたりするときで、ナナセは不意に起きて私に訊ねるのだ。
初めのうちは私も最初の時と同様に「呼んでいない」と真摯に対応していた。
だが、ヴェイラ王国を出立してからも、その症状は一層頻繁にみられるようになる。

そうして、ルヴァ魔導帝国からロスへ飛び、創造都市ゴルゴヌーザに到着した日にそれは起こった。

滞在するホテルの部屋に入るなりナナセは歓声を上げてベッドへ直行し倒れ込んだ上にゴロゴロと転がっている。
どうやら喜びを表現しているらしいことだけは見て取れるが、極めつけにナナセは憮然としている私に向かって「エリー! この部屋最高じゃね!? 俺ここ超好き!」なんて言うのだ。

その瞬間、私は膝から崩れ落ちた。
脳裏に今までのナナセの部屋を廻っての攻防が走馬灯のように過る。

それは王族をも巻き込み国境をも超えた、謂わば戦争だった。
獣人領のアルブム城の星座の部屋、ヴァイラ王国のヴェルスパ宮殿の鳥籠の部屋、そして私の実家であるブルーメンタール辺境伯領のギュンター城では花の名が付いた自慢の客室などは用意する以前に却下されたというのに。

ルヴァ魔導帝国のアール・ヌーボー様式の宮殿内の部屋には反応しなかったから油断していた。
あの宮殿は賓客用の部屋だけでなく全体が漏れなくアール・ヌーボー様式で統一されているから、ナナセも自分だけ様子のおかしい部屋に押し込められたとは思わなかっただけだろう。
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異世界で聖者やってたら勇者に求婚されたんだが
第一章 聖者降臨


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次章続巻も順次刊行予定
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